表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/191

28






灯された蝋の火が一瞬焦げたように燃え上がる。

懐かしい会話を終えたとき、辺りはもはや闇に飲み込まれていた。


「あれから十年以上経つんだな…」


「うん。結局僕は何も変わらなかったけど、君はあれから変わったよ。見違えるくらいにね」


「いやガキの頃とあんま変わってねぇさ。お前だってそれなりに変化はあったろ」


一人で生きられるくらいの力は確かに得た。

けれどそれはあくまで生きる上で…だ。

何かを成すにはまだまだ足りない。

それが何なのか、分かるなら苦労はしないだろう。


「俺はエルビスを倒せたとして、どうなるんだろうな」


「…それは僕にもわからない。けど大丈夫だよ、君は君のままで居られるさ。きっとね」


「そっか…ありがとな。何から何までお前にゃ世話になりっぱなしだ」


アシェスは静かに笑った。

感傷に浸りすぎたのか、それは彼らしくない優しい笑みだった。


「さて、長居が過ぎたな。帰るよ」


アシェスは静かに席を立った。


「帰るのかい?泊まっていけばいいじゃないか」


「いや、このまま居ると夜明けまで語り明かしそうだ。朝から仕事があるんでな」


ジェスターは思い出したようにぽんと手を叩いた。


「そうだったね、王宮の仕事か」


「そういうこった。ま、機会があれば王宮内で会えるかもな」


名残惜しさを感じつつも、アシェスはジェスターの家を後にした。

















住居区の南側にひっそりと建つ宿。

辺りは高い住居で囲まれているため、一日中陽が射さないという素晴らしい立地条件。

剥げた塗装に、飛び出した木の屑、錆びた看板。

年季が入り木造建てのボロボロの外見は、いかにも格安と言わんばかりのものである。

一階は食堂も兼ねてあるもので、二階だけが宿泊出来るという小さな宿。

ここの飯は安くて評判があるが、不味くて評判というのもある。

味といえば実際噂通り食えたものではなかった。

だからアシェスはフォーザ亭へと赴く。

金を落とした今、滞納している宿賃の請求が気掛かりであるが、アシェスは運良く宿主とは出くわさなかった。

誰もが寝静まったこの時間まで起きて待っていたとしたら、それはそれでどうかとも思うが、彼は難なく自分の部屋へと辿り着く。

座るだけでぎしりと軋むボロボロのベッドに腰掛けると、そのまま倒れこむように寝そべった。


「エルビス、本当にこの国に居るのか…」


握り締めた拳はぎりぎりと革手袋を軋ませた。

トゥドゥの書。

またあの夢を視てしまうのだろうか。

何年か経った今でさえ、あの絶望の光景は目蓋と心に焼き付いたまま。

視たくはない、けれど忘れるわけにはいかない。

心に刻み込まれた絶望からか、もしくは生きる意味を忘れぬためへの戒めなのか、どんなに疲れていようとその夢はやってくる。

アシェスの心の奥に潜む闇。

それは毎夜、眠りという時間の中で燻り続ける。



その夜、王宮ではけたたましい騒動に見回れていた。

火の手が上がり魔法が入り乱れ、激しい喧騒が城内を走り抜ける。

静かな夜の空に無数の黒煙が立ち昇っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ