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「ラズトリー、それは俺の故郷だった村だ。真相はエルビスによって滅ぼされた。俺はそこの…生き残りさ」
「え…滅ぼされた…?」
「ああ」
「だから…アシェスはエルビスって人を?でも何でそんなことを…」
「そんなこと俺が知るわけねぇだろ?だからこそあの男を捕まえて問い詰めなきゃならねぇんだ。何があろうとな…」
歯を食い縛る音が、静かな空間に重く響いた。
憎しみを訴えるような左手のグローブの軋みとともに。
「俺の両親はな、二人揃って世界的にも結構名の知れた『遺産発掘家』だった。その名の通り、眠っている遺産を発掘する仕事だ」
遺産を探し当てるのはかなり名声を得られる職業である。
歴史的な発見をすればたちまち名が残るほど。
遺跡や遺産はそうそう容易く見つかるものではない。
危険なものほどより奥深くに封印されていたり、埋葬されていたりするものだ。
知識に優れ世界を渡り歩く力がなければ成り立つような半端な職業ではない。
時には同業者と戦い、魔獣と戦い、腕も立たなければ簡単に命を落とすこともある。
それだけに発見できれば富も得られ名も売られる。
現在でも《遺産発掘家》という職業に夢を見る人間は数多く存在していた。
そんな中でもアシェスの両親は特に嗅覚の優れた人間だった。
「エルビスは…そんな両親の助手をしていた男だ」
「え?」
思ってもみなかったアシェスの言葉にスフィアは顔を向けた。
「あいつは裏切りやがったんだよ…俺の両親も、村人を…そのすべてをな」
「裏切り…」
「ある日、俺の親父が息荒げてすげぇ遺産を発見したって喜んでな。王都のランクで言えば最上のS級とも言われたものだ。それを…エルビスの野郎が…奪った」
アシェスは起き上がり左手のグローブに手を掛けた。
「その遺産は心底凶悪な代物でな。《トゥドゥの書》と言った…」
グローブがゆっくりと左手から外されてゆく。
「う…」
アシェスの左手を直視したスフィアは、意志とは裏腹に込み上げてくるものを感じ、思わず口を押さえた。
「だからあの時言ったろ、食事どきにゃ外せねぇって」
アシェスの左手は切り取られたように、薬指と小指が無かったのだ。
それだけではない、腐敗したような黒い染み跡、泡のような水泡や浮き出た血管。
それが手全体というわけではないが、無くなった指回りを中心に広がっていた。
それはまるで汚染されているような醜さ。
見るものが見れば、疫病と勘違いしてしまうであろうまがまがしさ。
「これが安易に手袋を外せなかった理由だ」
アシェスはすぐにグローブをはめ直した。
「無理すんな…」
嘔吐を我慢しているスフィアの背をアシェスは擦ってやる。
「だい…じょ…ぶだから…」
「ンなわけねぇだろ。こんな不気味なモン見たら誰だってそうなる」
スフィアはそれでも頑なに首を振った。
嘔吐を必死で押さえ、目に涙を溜めながらも。
「同情も慰めも要らねぇよ。俺はお前が思ってるような綺麗な人間でもねぇんだ」
「…がうよ」
「違わなねぇ。単なる…復讐者だ。人殺しなんだよ!」
なぜだかはわからない。だが、アシェスは込み上げる苛立ちを抑えられなかった。
自分のなかに蓄まったものを吐き出すかのように、言葉は喉を滑り出た。
「アシェスは…そんな人間じゃ…ないよ」
「お前がどう思おうとすでに俺の手は血に塗れてる。それは揺るぎない事実だ。そして俺はエルビスを殺すことだけに人生を捧げてきた、馬鹿な野郎なんだよ」
「違う!」
スフィアの庭園内すべてに響き渡るような叫びがこだました。
「なら…ならなんでその人たちのために戦ってるの!?…悔しかったからでしょう?だからアシェスは村のみんなのために、一人で戦おうとしてる」




