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夜の庭園は人気があるわけがなく静まり返っていた。
広大な面積を誇っている庭園は、涼しげな風を万遍無く吹き抜けさせる。
花の香りが妙に鼻に付いた。
タイルでなく芝の絨毯に、アシェスはスフィアと並ぶようにして腰を下ろしていた。
「最近こうしてまともに会話するのは久しぶりだね」
「確かに二人で話すのは久しぶりだな。最近はジェスターとべったりだったが何をしてたんだ?」
「え…あ~」
こめかみ辺りを押さえながらスフィアはうめく。
誤魔化しているような挙動は、返答に迷っているようにも見えた。
「ま…別に俺にゃ関係ねぇけどな。言いたくねぇなら無理に言うな」
無理して話さずとも端から興味がないと言わんばかりに、ぶっきらぼうな答えが返ってくる。
本当に興味がない様子ですでに視線はあらぬ方向にある。
慌てふためくスフィアはすぐに言葉を選び、そして言葉を並べた。
「えと…勉強を教えてもらってたから。ほら!ジェスターさんって物知りだから、歴史や遺産の話とか」
「ああ、なるほど。あいつの知識は一応だが教師向きとも言えるからな。一般教養程度なら何でも知ってやがるし」
アシェスは言われて納得したのか何度も自分で頷いていた。
「ねぇ、アシェス?」
「ん?」
申し訳なさそうな表情を浮かべながら、遠慮がちにスフィアは言葉を発する。
「アシェスは…どうして戦うの?」
「えらく単刀直入な質問だな。掻い摘みすぎて話の要点が見えねぇんだが」
「んと…その…エルビスっていう男の人の…こと」
アシェスの瞳は一瞬見開いたようだったが、すぐにいつもの表情へと形を戻した。
「エルビスと戦う理由か」
「やっぱり…話したくないならいいよ。ごめんね、どうしても気になったから…」
アシェスの心境をすぐさま見透かしたように、スフィアは自ら話題を打ち切ろうとした。
が、アシェスは気分を害した様子はなく、口元を釣り上げながら腕枕をし芝に寝そべった。
「エルビスは…もうお前にとっても無関係な存在じゃないしな。話してやることは構わねぇ。ただ…気分が悪くなるかもしれん話だぞ」
「大丈夫…私はそれでも知りたい。アシェスがなんで戦うのか…どうしてそんな辛そうな顔をするのかが…」
しばらく会っていなかっただけだというのに、スフィアの顔はどこか吹っ切れた顔をしていた。
出会った頃のような無垢なものではない、自分の立場を理解した大人の表情。
自分の身の振り方を決断したような、そんな顔。
アシェスはしばらく静観した後、一息吐いてゆっくりと口を開いた。
「…ラズトリーって村は知ってるか?」
目を瞑り、一息ついたアシェスは静かに語りだした。
「ラズトリー?聞いたことがない名前…」
「だろうな。どうせ辺鄙で小さな村だったし、有名でもなんでもなかったところだ。だが、ラズトリーは存在自体が世界から抹消されてしまった」
「抹消って…無くなっちゃったってこと?」
「そういうことだ。ま、正確には村人が奇病によって全滅…滅びたから、地図から消された…ってことになってる。表向きはな…」
含んだ言い方はどこかトゲがあった。
アシェスは唇を噛む。




