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巨木の幹、背をもたれさせながら、ディオとアシェスは止まない雨を見つめていた。


「…まだまだ、ですね」


落胆したように呟くディオの体は、あちこちに木刀の痣が書き込まれていた。

それは容赦のない攻撃だったということを物語るには十分な証拠である。

全身に痛みが走るのか、動くたびに苦痛に顔を歪ませている。

アシェスは五体満足様子で息が切れているだけで外傷はなかった。


「慣れない武器を扱ってりゃ最初は仕方ねぇさ。型なんてモンはなかなか抜けきらねぇ。だが順応力はたいしたモンだ」


「お世辞なんて貴方らしくない。私の完敗ですよ。…まだまだです」


「たが動きや判断力は上がってると思うぜ?あとは大剣の間合いのクセをどう直していくかだ」


大剣を捨てスピード重視のディオの攻撃は想像以上に速かった。

だが体に染み込んだ大剣での剣間合い。これが仇となったからか、どうしても浅い位置での踏み込みとなっていた。

密着する程懐に踏み込むのが、戦いを五分に持ち込むセオリー。

魔導師といえど、必ずしも近距離戦が苦手だとは言えない。

それだけにより深く飛び込ませる必要があった。


「今日は勝ち負けは関係ねぇだろ?ンなことより、今日の感覚を忘れんなよ」


「ええ、感謝していますよ。本当に…」


手に残った感触を確かめるように、ディオは何度か拳を閉開していた。

あまりにも軽すぎで、実感がわかないような表情をしている。


「お前みたいなヤツは、正直パワーよりも備わってるスピードを生かしたほうが強くなれる。少しは実感しただろう」


「ええ…私にあんな戦い方が出来たなんて自分でも驚きです。今まで他の武器を扱うなんてこと…思いもしなかったですから」


「本当はな、大剣を捨てろだとか俺に言う権利はねぇんだ。だが腐らすのは勿体ねぇ。可能性ってのは試してみねぇと化けねぇんだ」


アシェスは言いながら肩を何度か回し、右腕を振った。


「しかし慣れない武器ってのはやっぱきついもんだよな」


「慣れない…?アシェスさんはもともと剣を扱ってるのでは?」


木刀と腰に携えた剣、それは刀身もさほど変わらないものだっただけに、ディオは疑問を投げ掛けていた。


「まあそうなんだが…俺の剣は特別製なんだよ」


「あ…そういえば地下牢の壁、あれはアシェスさんが斬ったのですね?」


ふと思い出したかのように、ディオの脳裏にはそんなことが浮かんだ。


「ああ、まあそんなところだ」


「あんな芸当…どうやって…」


気になるのは当たり前だろう。好奇心と言うものではなく、魔力コーティングされた剛魔石で出来た壁を切り裂くなど、不思議に思っても仕方がない。


「気にすんなよ、マグレだ。火事場のなんとやらと言うだろ?」


ただアシェスは本当のことを口に出すことはしなかった。

シュヴァゼルトの存在はなるべく他者には見せたくないのだ。

簡単に人の命を奪い去ることの叶う絶対たる剣。

こんなものは本来ならば一般人が扱うべきではない代物。戦闘狂にでも渡れば想像するだけで悪寒が走る。

ただ、エルビスを討つためだけに手に入れた力。

自身のスピードを更に活かすために、アシェスが選んだ剣。

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