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6

未練があるような物言いでディオは言った。不意にテンションが下がったような掻き消えそうな声。


「いやにこだわるな?お前にとって誇れる武器…ってのはわからんでもねぇ。だが、それは技量の問題だ」


「私にはやはり技量が足りない…と?」


「一般の魔導師相手なら戦えねぇこともないかもな。だが相手の力はそうじゃない。覚えとけ、結局相手を打ちのめせるならば武器など必要はねぇ」


固執したようなディオの発言を突っぱねるように、アシェスはきっぱりと言い放った。


「わかり…ました」


「はぁ…」


気落ちしたような返答に、アシェスは吐息を漏らした。


「傷ついたレイドを護れんのはてめぇだけなんだ。お前が言った覚悟ってのは、プライドよりも劣るのか?」


「そんなことは!」


「なら割り切れよ。プライドやこだわりだけで物事が上手く行くなら誰だってそうする。お前は結果的に運が良かっただけかもしれねぇ…けどな、犠牲になったてめぇの部下のことも考えろ」


最後の言葉は特に重かった。

ディオにとってハースとの戦闘は単なる敗北ではない。本来ならば死した身だ。

目下の男に救われたことは事実。

捨てる捨てないの問題ではない、生きるか死ぬかの題材なのだ。

アシェスの言葉でディオはようやく悟った。


「すみませんでした…。もう…大丈夫です」


「わかりゃあ良い。大切だと思える何かを叶えることも、自分自身護れる強さがあればこそ…なんだよ」


生きること、生き延びること。

アシェスはそれがすべてと言い切った。

どんなに強い意志を持とうが、勇気を奮おうが、死すれば想いと共にすべて無に還る。

ディオは気付いた。それがアシェス・ウィントンの強さの理由なのだと。

強敵にも怯まない勇敢さでも、傲慢なほどの振る舞いや我が儘さでもない。

自分自身を護るすべを身につけているから。

覇者の眼や屈強な意志は、それが叶っているからこその産物。

裏闘技場での記憶が甦る。

だから一度も勝てなかったのだと、やっと気付くことができた。


「私に…それが出来ますかね」


「前にも言ったろうが!てめぇは騎士団の隊長だろ?やらなきゃならねぇんだよ。いつまで気弱なままでいる気だ?」


「…失言でした。その通りです。多くの騎士隊員が私の腑甲斐なさで命を失った。そのためにも、やらねばなりません」


命の重さ、それを感じたように手に握られたナイフの柄に力が込められた。


「今回の来るべき戦いは『試合』じゃなく『死合い』だ。勝って生き残ることだけを考えとけ。余計な思考は判断が鈍る」


「はい!」


ようやく躊躇いがちだった眼は真剣さを増したようだった。

命を賭けた戦い、実戦というものにディオは慣れている。

それだけにその気になれば、頼りになるべくはずの男。

素人が犯しがちな判断ミスや実戦の恐怖など、染み込ませる必要もない。

平和ボケと言うのには少々言いすぎかもしれないが、この国は実戦の少なさから本番に弱いのは確かだ。

ディオが本当の意味での戦闘指揮がとれなければ、簡単に城が堕ちる可能性は否めない。

いくら魔導師が有利といえ、その力を持たぬ存在とて十分牙になる。

ディオの言う大剣へのこだわり。それがどんなものなのか知る由もなければ知りたくもなかった。

ただ、戦いは勝ってこそ誇れる。

迷いは消えたのか、それは今から手合せしてみればわかること。

アシェスはディオに雑念があれば、完膚なきまでに叩きのめすつもりだった。


「俺は本気でやるからな?てめぇ相手に手なんて抜いてられねぇ」


「望む…ところです」


「この実践はお前のスピードや反応を鍛える目的だ。武器の使い方なんてもんは関係ねぇ。本能で向かってきやがれ」


二人は対峙しつつ武器を構えながら、じりじりとにじり寄っていく。

互いの間合いを見合い隙を狙う。

緊張や呼吸などからも、相手のタイミングというものは読み取れるのだ。迂闊に動けば軌道を予測されやすく、それが不利となる場合もある。

それだけに両者はなかなか動かなかった。

こういった忍耐力というものも武器を扱う者には必要なスキル。


(やっとマシになったかと思いきや)


アシェスは胸中で軽く毒づいていた。もちろん表情には表さないが、目下に佇む男は微塵も隙を見せることがない。


(ま、それでこそ鍛練になるってもんだ)


ふと、灰色の空から一粒の雨粒が地を染みさせた。

降り出してきた雨。

アシェスの目線が揺らぐ。

それはほんの僅か、気付かないくらいな小さな目の動きをディオは見逃さなかった。

刹那、瞬時にしてディオの両足は地を蹴り出していた。


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