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ローウェンス王宮の北側に、スフィアの別館がある。
そこは林のように木々が生い茂り、王宮からではその存在は認知出来ないようなカモフラージュがなされている。
隠れ家としてスフィアを匿ってきた別館の更に北、城壁までと続くその場所は、広大な敷地が広がっていた。
空は木々のドームに覆われ、まるで広場のよう。
アシェスは腕組みをしつつ、ディオを待っていた。
雑音もなく戦うにはうってつけの場所でもあるだけに、アシェスにとってはそれが何よりも好都合だった。
しかし、なかなか姿を現さないことに、徐々に苛立ちを覚えながら、貧乏揺すりのような足の振動は徐々に加速していく。
「遅ぇ!あンの野郎…」
昨夜、ディオは稽古をつけてほしいと志願してきた。
王室での会話の流れから思いついたのだろう。アドバイスだけではなく、実践で力を身につけたいと言うのだ。
普段なら断ることだったが、自らも鍛えるのにはディオという存在は適役でもあると、アシェスは了承したのだ。
技量的には申し分ない腕前を持ち合わせているのだから、むしろ好都合と呼ぶべきことであった。
だが、待ち人来たらず。
生い茂る葉の隙間からは輝く木漏れ日ではなく、灰色の濁った空を覗かせていた。
雨模様な空色、それが苛立ちに拍車をかけるのだ。
アシェスは雨が好きではなかった。
「すっぽかしやがったらタダじゃおかねぇからな」
誰に脅しているのだろうと、もし他者が聞いていたのだとすれば勘違いしそうな程の威圧する声。
「アシェスさん!」
離れた場からディオの呼び声。
待ち人はようやく姿を現した。悪怯れた様子もなくいつもと変わらない。
「てめぇ…遅刻たぁ良い度胸だな。しかも歩いて来やがって」
「あ…すみません。ちょっと思うところがありまして、考え事を…。そんなに経ってましたか?」
自分では気付かなかったのか、ディオは言われて焦り口調だった。
ただ、すぐに真面目な面構えに戻る。
「今日はよろしくお願いします」
「ったく…仕方ねぇな。雨が降って来たらかったるい、早速始めるぞ」
「はい!お願いします!」
アシェスは木の幹に立て掛けてあった木刀を掴んだ。
「お前とは一度やったがかなりのスピードがある。それは武器だ」
「速さが武器…?」
「ああ。魔導師ってのは大概近距離を苦手とする。それに標的の動きが速ければ速いほど、魔法はかわしやすく撹乱もし易い」
アシェスは木刀を二三度土で叩いてから肩に乗せた。
「確かにそれは道理ですが、それとこの武器を使う意味は?」
「お前の欠点は大剣を持つことから、動きが落ちる点だ。あれだけの瞬発力を持ちながら、鈍る武器を使うことは損だからな」
「やはり…大剣では渡り合えないのでしょうか」




