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ディオ・ランドル。

親に捨てられ、彼は地図にも載らぬ小さな農村で育った。名もない寂れた村。

山道に捨てられているところを、幸運にも年老いた老婆に拾われ、なんとかこの世に留まる事を許されたのだ。

しかし村は貧しく、食い扶持すらままならぬような生活のなか暮らしていた。

山林に作られた土地であったが、年々気候が悪くなる一方で作物も満足に育たない。痩せていく土、枯れていく川、降らぬ雨。

そこは疎開とも呼べる村。開拓をし、新たな土地として造り出そうとしたが、希望は打ち砕かれ失望された村。

失意した若者は都市へと去り、高齢者ばかりが取り残され、もはや村の行く末など誰が見ても予想出来た。

毎年誰かが亡くなり、希望という芽は消失していく。

新たな命を生み出す若い芽のない場所に、陽は射さなかった。

世界は常に新たなものを生み出すというのに、この村は滅びしか生み出さない。

若者と呼べる人間はディオただ一人。

魔力の素養もなく、出来損ないとしての烙印を押された生い立ち。

彼が捨てられた理由はそんな些細なことだった。

だが、恨むことはなかった。

なぜなら村人は差別など皆無だったから。

しかし、成長した彼に待っていた現実は、もはや満足に動けず働けぬ老人ばかりの未来だった。

食料さえ自ら作れず手に入れられず。

待ち受ける未来は孤独と絶望。

村を救い、世話になった人々に恩返しをするためには糧が必要だった。

村からは離れまいと決めていた彼にとって、それを得るためには皮肉にも村を離れざるをえなかったのだ。

生きるため、生かすため、彼は村にあった大剣を手に取った。

幼少の頃より大剣を振るい、動物を狩り、肉を得ての生活をしていた。

しかし一人で狩れる量も力も、もはや限界。多人数を飢えから救うには至らない。

結局村を救うことには繋がらないのだ。

研いてきた武器の使い方、戦い方。

彼は自らの戦いの腕を信じ、大剣を手に大金を得られるという冒険者となった。


道は正しくなかったかもしれない。外れた選択だったのかもしれない。

だが、どんなに汚れていようと、村人を救うために必死で彼は戦った。

短い期間で大金が得られる裏闘技場で、文字通り命を張りながら。

華やかな場所ではない、喝采も浴びず、商品を見るような品定めの眼。

だが、例え汚い目で見られようと、罵声を浴びせられようと、たった一本の大剣を友としてすべてを賭けていた。

しかし、村に戻った彼を待ち受けていたものは、静寂と腐乱した人々の亡骸だけだった。

十分な食料の貯えはあったはず、帰ってきた自分を笑顔で迎えてくれたはず…だが、間に合わなかった。

村人を死に至らしたのは流行り病だった。抵抗力のある若者ならば、死ぬことなどないはずの軽い流行り病。


その日、ディオはすべてを失った。


護る者も、帰る場所も、大切な親と呼べる者も、すべては無に。

残ったものは汚れた金と、一本の大剣だけ。

生きる意味を失った彼は裏闘技場へと戻り、戦いに明け暮れていた。

ただひたすらに戦い、死をも恐れず剣だけを振るっていた。

がむしゃらに。戦いだけを望み、勝つことだけに喜びを見いだす。

脱け殻のような日々。

そんなある日、とある男に腕を見込まれた。

自分という何も価値のない人間を必要としてくれたのだ。

男の名はレイド。

生粋の魔導師であり、一国の王であろうという男。

魔法の素養もない自分が、魔法大国に必要とされているというのだ。

その剣の腕を見込まれて。

たった一つ、自分に残された友と呼べる大剣、それが再び生きる理由を与え、彼を陽の当たる世界へと帰化させてくれたのだ。


(大剣を捨てろ…か)


今手に握られているのはあの頃の大剣ではない。

レイド王から譲り受けた由緒ある剣。

しかし、それでも譲れないものだった。果たしてそれを捨てられるのか。

なぜなら、大剣という武器は自分というものを支えてきたものに他ならない。


(だが…)


降り払わなければ大切なものも居場所も、再び無くしてしまうかもしれないのだ。

捨てるのではない、変えるのだ。

何も出来ない自分から、すべてを護り通すことの出来る自分に。

屈辱と腑甲斐なさに泣いた自身を奮い立たせるために。


(…それが叶うのならば、こんな安っぽいプライドなど)


廻る葛藤に無理矢理決着をつけるように、ディオは大剣を鞘に納めた。


「でもアシェスさん…あなたを信じて良いのですか…」


今の地位すら築き上げた武器を捨て、アシェスに言われたような短剣を何本か腰にぶら下げた。

扱ったこともない武器を。


「…行きましょう」


王宮の騎士隊室。

決意の意を呟きながら、武器庫の奥に大剣を蔵い、部屋を後にした。

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