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別館、スフィアの住居とも呼べる場所。
そして彼女と再会を果たした場所。
食堂にはすでにスフィアとジェスターが揃っていた。
テーブルに並ぶ料理は朝食とは思えないほどの華やかさ。
高価な食器や飾られた花瓶など、見た目も派手なそれらを見やると、アシェスは朝から目眩がした。
「おはよう、アシェス」
「…ああ」
「まだ…怒ってるのかな?」
「単に眠いだけだ。気にするな」
まともに答えるのも怠いようで、アシェスは一息吐くとすぐに席に着く。
「今日はお前はどうすんだ?」
腰を降ろすなり、開口一番スフィアに訊ねる。
意表を突かれたように一瞬目を丸くしたが、すぐに答えを口にする。
「え?うん…ジェスターさんにお話でも聞かせてもらうつもり」
「そうなのか?」
「ちょっと収穫際の話でも…とね。結局例年どおりやることになったんだから、スフィアさんも楽しみなようだし」
「ふーん、なら今日も俺が護衛する必要もないな」
同じことを何度も言うのも馬鹿らしいと、アシェスは鼻で返事をするだけだった。
腹が減ってるのか、早々に焼きたてのパンを掴む。
「あ!」
「あん?」
口に運ぼうといった所で、スフィアがいきなり叫んだ。
大きな口を開けたままアシェスは固まる。
「アシェス…前々から思ってたけどその手袋。食事中くらいは外したほうが…」
黒い革手袋。アシェスはそれを左手だけに常に身につけている。
黒い色彩ながらまともに洗濯さえしてないようで、遠めから見ても汚れは目立つ。
その手袋の上から無造作にパンは握られていた。
「別に良いだろが?俺は気にしねぇんだから」
「ダメだよ!凄い汚れてるし…不潔。気になってたけど、何でそれ外さないの?」
アシェスは思わぬ質問に渋い顔をしていた。
「気に入ってんだよ」
「じゃあせめて洗濯しなきゃ。そんな手で食べちゃ病気になっちゃうよ?」
「いいんだよこれは。俺はそんなことくらいで病気になるほどヤワじゃねぇんだ。ほっとけ」
「う~…」
「ス…スフィアさん!あれはあとで僕が洗わせますから」
ジェスターが助け船を出すように割り入ってきた。
昨日アシェス自身のことについては、そっとしておいてやれと言ったはずだが、手袋についてもその一つだということを彼女は認識していない。
無意識のうちに彼女は、それに触れてしまう性なのだろうか。
無垢とは罪というのはこういうことなのだろうかと、ジェスターは胸中で苦笑いをしていた。
「でも…」
「お節介なヤツだなお前は。ほっとけって言ってんのに」
気抜けたような目線でスフィアに訴えかける。
アシェスの呆れ顔は、彼女にとってもはや慣れたものだった。
心配させないがための言い訳。それだけに怯まない。
「なんか…引っ掛かるなぁ。ひょっとして…それも私に言えないこと?」
「………」
アシェスは無視しながらそのままパンを口へ運んだ。




