五章・収穫祭1
夜明け、鳥のさえずりが起床の合図となる。
優雅さを感じさせる朝。
ふかふかな感触を味わわせる軟らかなベッド。
清楚な香りを匂わせるシーツ。
だが寝覚めは最悪だったようで、起床した彼は目の下に大きな隈を作っていた。
毎夜観る夢の所為ではなく、原因は部屋そのものにあったようである。
「慣れってのは恐ろしいな」
染み付いた汗の臭いを醸し出すシーツ、硬く軋んだ音を奏でるベッド。
全てが今まで寝ていたものとは真逆の存在。
だが、アシェスにしてみればそれが仇になっていた。
「全然寝れやしなかった…」
野宿が当たり前だった生活。硬い地で寝ることは至極当然であり、軟らかなベッドで寝るというのはアシェスにとって安眠妨害でしかない。
習慣というのは恐ろしく、逆に落ち着かず眠れなかったというわけだ。
というのも、昨夜いつもの宿に戻ると、前回の捕えられた騒ぎで厄介者と追い出されてしまったのだ。
弁解も聞く耳持たず、家賃滞納者かつ犯罪者擬いの者など願い下げだと言わんばかりに。
「あンのジジイ」
すっとぼけた宿主の顔立ちを思い返したのか、思わずぼやく。
そして野宿を決め込もうとするアシェスに、ディオがこの部屋を用意したのだ。
それは半ば強制と呼べるもので、閉じ込められたに等しい。
何もかも庶民よりも格下の生活をしていたアシェスにとっては、戦闘よりも気を張るものであった。
「さて…と」
窓の外から見える空は、濁ったような灰色をしている。
覆われた雲は太陽を完全に遮断している。空の果てまでまんべんなく満たされた雲に、アシェスは毒づく。
「雨が降りそうだな…かったりぃ」
雨は彼の古傷を疼かせた。
「アシェス、起きてるかい?」
扉のノックとともにジェスターの声が聞こえた。
「ああ、何かあったのか?」
「いや、朝ご飯にしようかと思ってね。スフィアさんが呼んできてくれって」
寝起きとは思えないくらい引き締まった顔で、ジェスターは部屋へと入ってくる。
「わかった、すぐ行くよ。…ってかお前、また徹夜したな?」
「あー…はははは…アシェスにはやっぱり見透かされちゃうね」
「また研究か?昨日も色々あって疲れただろうに、凝りねぇヤツだな…」
どこまでも夢追い馬鹿だと、アシェスは飽きれた様子で寝癖のついた髪を掻いた。
「…ま、それは置いといて僕は先に行ってるよ。例の別館で待ってるから」
「ああ」
軽く返事を返すと、ジェスターは部屋から立ち去った。
生欠伸を連発しながら、アシェスはゆっくりと身仕度を始めた。




