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種馬ズ  作者: 雪だるま
第一章

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6

金曜夜の大型音楽番組――

『MUSIC FRONTIER LIVE』。


今週の目玉出演者の一組として、

種馬ズの名前が大きく表示されていた。


数ヶ月前なら考えられない扱いである。


しかも紹介テロップが強かった。


【“種馬も辛い”40万枚突破!今もっとも謎に売れている男性アイドルグループ】


スタッフも困っていた。


“謎に売れている”を番組紹介文に入れていいのかで会議になったが、

結局誰も他に説明できなかったのでそのまま通った。


スタジオ。


観客の歓声。


照明。


カメラ。


豪華セット。


そして。


司会席の横に並ぶ四人。


白スーツ姿の種馬ズである。


レイは今日も無駄に堂々としていた。


脚を組み、

背もたれにふんぞり返り、

完全に売れっ子の顔をしている。


なお半年前は深夜の地方営業でカラオケ大会の司会をしていた。


人間、売れると変わる。


「さぁ〜!今夜は大人気の種馬ズのみなさんに来ていただきましたー!」


拍手。


歓声。


「キャアアアア!!」


レイが即座に立ち上がる。


「のだぁあああ!!」


「元気だなぁ〜レイ君!」


「視聴率23%なのだぁ♡」


「まだ言ってる!」


スタジオ爆笑。


レイは完全に味を占めていた。


最近はとりあえず“23%”と言えばウケると思っている。


実際ちょっとウケる。


司会のベテラン芸人が笑いながら言う。


「いやでも本当にすごいよね。『種馬も辛い』、今週で40万枚?」


「のだぁ……」


レイは妙に神妙な顔をした。


「そうですのだぁ……」


急にしおらしい。


「意外と今更になって最近売れ始めててぇ……」


「今更って本人が言う!?」


「『種馬も辛い』が今週で40万枚売れたそうなのだぁ」


「すごいよ!」


「な!ハル!」


突然振られたハルがビクッとした。


「えっ!?あっ、はい!そうなんです!」


ニコニコしている。


「僕らもまだ実感ないんですよね〜。この前までライブ会場普通に小さかったので」


「どれくらい違うの?」


「前は物販余ってました!」


「言うな!!」


黒崎が即ツッコんだ。


スタジオ爆笑。


ハルは慌てた。


「違う違う!でも今はありがたいことに売り切れたりして!」


「レイ君のうちわだけ異常らしいね?」


空気が止まった。


田村(袖)が頭を抱えた。


レイの目が光った。


嫌な光だった。


「のだっ♡」


「その顔やめて」


「最近八万円なのだぁ♡」


「本人が言うな!!」


スタジオ大爆笑。


神谷が静かにマイクを持った。


「ちなみに本人、毎日転売価格見てます」


「裏切り者なのだぁ!?」


「楽屋で“市場が熱い”って言ってました」


「最低!!」


司会者が腹を抱えて笑う。


「ダメだこのグループ!」


黒崎が疲れた顔で口を開いた。


「本当にすみません……」


「黒崎君いつも謝ってるね!?」


「最近ずっと謝ってます」


「保護者みたい!」


「実際保護者です」


また爆笑。


だが。


番組側は理解していた。


このグループ、

“空気が妙に良い”。


ギスギスしていない。


仲が悪くない。


誰かが暴走すると誰かが止める。


そのバランスが妙に見やすいのだ。


司会者がレイに聞く。


「でもさ、急に売れたじゃん?生活変わった?」


「のだぁ」


レイは腕を組んだ。


「人類が優しくなったのだぁ」


「雑!」


「コンビニ店員まで笑顔なのだぁ!」


「気のせいじゃない?」


「絶対違うのだぁ!!」


レイは真剣だった。


「前まで“ポイントカードありますか?”って冷たかったのに最近は“いつも応援してます♡”なのだぁ!」


「分かりやすっ!」


ハルが笑う。


「でも本当に街で声かけられるようになったよね〜」


神谷も頷いた。


「タクシーの運転手さんが急に曲流してきたり」


「あるある!」


黒崎は少し苦笑した。


「僕はこの前スーパーで“湿布貼ってください”って言われました」


「なんで!?」


「『種馬も辛い』の影響です……」


スタジオがまた笑いに包まれる。


司会者が真顔で聞いた。


「ちなみにあの曲、なんで作ったの?」


四人が一斉に黙った。


数秒後。


黒崎が静かに言う。


「……社長が酒飲みながら」


「あっ……」


全員察した。


レイが頷く。


「のだぁ。最初聞いた時、吾輩も“終わった”と思ったのだぁ」


「お前でもそう思うんだ」


「でも売れたのだぁ♡」


「結果論!!」


そして。


司会者がニヤニヤしながら聞く。


「レイ君、最近かなり調子乗ってるって聞くけど?」


「のだっ♡」


即答。


「否定しない!」


「だって40万枚なのだぁ♡」


「嬉しそうだな!」


レイは椅子に深く座りながらドヤ顔した。


「最近、楽屋の空気が美味いのだぁ」


「どういう感覚!?」


「売れてる空気なのだぁ」


「曖昧すぎる」


だが。


その時。


司会者がふと真面目な顔になった。


「でもさ。正直、急に売れると怖くない?」


少しだけ空気が静かになる。


レイは珍しく考えた。


「……のだぁ」


「うん」


「怖いのだぁ」


スタジオが静まる。


「昨日まで誰も近寄ってこなかったのにぃ……」


「……」


「今はみんな笑顔なのだぁ」


レイは少しだけ笑った。


「芸能界、怖いのだぁ」


その瞬間だけ、

妙に本音っぽかった。


だが。


次の瞬間。


「だから吾輩も上には媚びるのだぁ!!」


「台無し!!!」


スタジオ大爆笑。


黒崎が机に突っ伏した。


神谷は顔を覆った。


ハルだけ笑っていた。


そして司会者が涙を拭きながら言った。


「ダメだこのグループ、面白すぎる……!」

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