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種馬ズ  作者: 雪だるま
第一章

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5

芸能事務所『スターライト・クリエイティブ』。


数ヶ月前までは比較的平和な中小事務所だった。


所属タレントはそこそこ。


赤字ではない。


だが爆発的ヒットもない。


「まあ普通」


そんな会社である。


しかし今。


社内は戦場だった。


「レイの雑誌取材押してます!!」


「種馬ズラジオ二本追加!!」


「ドラマスチールまだですか!?!?」


「CMクライアントから修正来ました!!」


「ライブ追加公演!?会場取れてません!!」


「グッズ工場間に合いません!!」


電話。


怒号。


PC。


コピー機。


走り回る社員。


深夜三時。


コンビニ飯。


エナジードリンク。


芸能事務所特有の、

“売れた瞬間だけ発生する地獄”が始まっていた。


原因はもちろん――


佐藤レイである。


「のだぁ〜〜♩」


その元凶はというと。


ソファで寝転がりながらスマホをいじっていた。


「……おい」


マネージャー田村が死んだ目で言う。


「なんでお前だけ座ってる」


「センターだからなのだぁ♡」


「殺すぞ」


「物騒なのだぁ!」


レイはまるで反省していなかった。


しかも。


忙しい。


本当に忙しい。


朝から雑誌。


昼から取材。


夕方ラジオ。


夜はレッスン。


深夜バラエティ。


そこからSNS撮影。


普通なら疲労困憊である。


だがレイは。


「のだぁ♡」


ニコニコしながらスマホを見ていた。


「見ろなのだぁ田村ぁ♡」


「なんだ」


「吾輩のうちわ、六万八千円なのだぁ♡」


「……は?」


レイは満面の笑みだった。


「昨日は五万だったのだぁ♡値上がりしてるのだぁ♡」


「お前それ毎日見てんの?」


「最近の日課なのだぁ♡」


「終わってる」


レイは真剣な顔になった。


「市場調査なのだぁ」


「転売市場のな」


「将来のためなのだぁ♡」


「お前まだやる気なの!?」


レイはスマホを掲げた。


画面には転売サイト。


そこに並ぶ大量のレイグッズ。


『レイうちわ 初期ロゴ版 68,000円』


『レイ サイン入りアクスタ 120,000円』


『種馬ズ 初期チェキ レイ写り込み有』


「のだぁ……」


レイは目を細めた。


「資産なのだぁ……」


「アイドルが言うな」


「吾輩、将来のために勉強してるだけなのだぁ!」


「何の!?」


「転売戦略なのだぁ!」


田村は机に突っ伏した。


「もう嫌だ……」


だがレイは止まらない。


「この辺のファン心理を読むのが大事なのだぁ」


「やめろ」


「“初期ビジュは二度と手に入らない”ってコメントが熱いのだぁ」


「分析するな」


「限定感が人を狂わせるのだぁ」


「お前が狂わせてるんだよ」


その時。


別室から黒崎の怒鳴り声が聞こえた。


「だからレイのアクスタだけ増産しろって言ってないだろ!!バランス考えろ!!」


「でも売上が……!」


「露骨すぎるんだよ!!」


種馬ズ格差問題である。


現在。


グッズ売上の半分近くがレイ。


しかもレイ本人が調子に乗っている。


最悪だった。


神谷は死んだ魚みたいな目で台本を読んでいた。


「……もう嫌だ」


「どうしたのだぁ?」


「昨日、街で女子高生に“転売王”って呼ばれた」


「人気者なのだぁ♡」


「お前のせいだよ」


ハルは呑気にお菓子を食べていた。


「でもレイ君のうちわ本当に高いよね〜」


「のだっ♡」


「僕のは二千円だった」


「現実なのだぁ」


「悲しくなってきた」


その時。


事務所スタッフが走り込んできた。


「レイ君!!次の移動五分後です!!」


「のだぁ!?」


「衣装替えもあります!!」


「忙しいのだぁ!!」


「お前が売れたからだよ!!」


レイは慌てて立ち上がった。


だが。


移動しながらもスマホを見ている。


「のだぁ……」


「歩きスマホやめろ」


「むむっ!?!?」


レイの目が光った。


「どうした」


「八万円になってるのだぁ!!!」


「何が」


「吾輩の初期うちわなのだぁ!!!」


「見せんな!!」


レイは震えていた。


感動で。


「すごいのだぁ……」


「何がだ」


「昔の吾輩、今より髪型ダサいのに価値あるのだぁ……」


「ファン心理を学ぶな」


「過去の吾輩が未来の吾輩を支えてるのだぁ……」


「哲学っぽく言うな」


レイは真顔になった。


「田村ぁ」


「なんだ」


「吾輩、気づいたのだぁ」


「嫌な予感しかしない」


「今からでも限定グッズ大量に作れば未来で儲かるのだぁ」


「最低」


「“生産終了”って言えば人は買うのだぁ!」


「お前もう完全に転売屋の思考なんだよ!!」


レイは歩きながら高笑いした。


「のだぁっはっはっは!!」


だが。


次の瞬間。


ドンッ!!


「のだぁっ!?」


壁に激突した。


スマホ見ながら歩いていたせいである。


「あっ」


静止。


周囲も静止。


レイは数秒固まった後。


「……痛いのだぁ」


「当然だろ」


「人気者なのに壁が避けないのだぁ……」


「世界はお前中心じゃねえんだよ」


だが。


その様子を撮られていた。


しかも運悪く。


近くにいたファンに。


数時間後。


SNS。


『転売価格見ながら壁にぶつかる佐藤レイ』


動画、爆散。


コメント欄。


『アホすぎる』

『好き』

『こいつ本当に面白い』

『顔良いのにやってること終わってる』

『転売監視アイドル』

『種馬ズの問題児』


そしてその日の夜。


レイはまたスマホを見ながら呟いていた。


「のだぁ……」


「今度は何だ」


「壁にぶつかった日のうちわ、プレミアつくかもしれないのだぁ……」


田村は静かに天を仰いだ。


「誰かこいつのネット回線止めてくれ……」

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