48 ハル回
ハルは、自分がモテることをあまり深刻に考えていなかった。
というより、「人に好かれる」ということが昔から自然すぎた。
だから危ない。
昼下がり。大型ショッピングモール貸切イベント。種馬ズの新CM発表会。今日はハル単独の仕事だった。主演映画ヒット以降、ハル単体でのCM案件もかなり増えている。
会場。
女性客。
多い。
とにかく多い。
十代、二十代はもちろん、親子連れまでいる。
「ハルくーーん!!」
「きゃあああ!!」
「笑ってーー!!」
ハルは登場した瞬間からずっとニコニコしていた。
「わぁ〜〜!すごーい!」
手を振る。
客席崩壊。
「かわいいーーー!!」
「無理ーーー!!」
「天使!!」
田村は後ろで頭を抱えていた。
(今日も距離感バグってるな……)
ハルの危険なところは、“営業感”が薄いことだった。
レイは媚び。黒崎は誠実。神谷は静かな色気。
ハルだけ、“懐いてくる”。
しかも自然。
イベント開始。
司会者が笑う。
「ハルさん今日も元気ですね!」
「元気です!」
ニコッ。
歓声。
「眩しい……」
「浄化される……」
会場の女性たち、本気でそんな顔をしていた。
しかもハルは、人を見る時にちゃんと目を見る。
これが危険。
トーク中。
前列ファンへ。
「そのうちわかわいいね〜!」
「っっ!!」
ファン、崩壊。
後ろ。
「今私見た!?」
「いや私だって!」
「距離近い近い近い!」
ハル本人は普通に会話してるだけだった。
しかし、女性側は違う。
“自分だけ特別扱いされた感覚”。
これが積み重なる。
そして依存になる。
イベント後半。
プレゼント抽選会。
ハルが客席へ降りた。
田村。
(終わった)
案の定。
女性たち。
完全にパニック。
「近い!!」
「顔ちっちゃ!!」
「いい匂いした!!」
「死ぬ!!」
ハルは笑いながら歩いている。
「わ〜!いっぱい人いる〜!」
犬。
大型犬。
しかも全方向へ尻尾振るタイプ。
危険。
かなり危険。
その時。
ハルが若い女性ファンへ近づいた。
「当たったの〜?」
「え、あ、はい……!」
「おめでと〜!」
ポンッ。
肩触る。
終わり。
女性ファン、泣く。
「えっ!?だ、大丈夫!?」
「無理ぃ……」
本当に泣いていた。
ハル、困惑。
「えぇ!?」
周囲。
阿鼻叫喚。
「ハルくん優しいーー!!」
「好きーーー!!」
「結婚してーー!!」
田村は遠い目をした。
(また“勘違いファン”増えるな……)
だが。
ハルは悪気ゼロ。
これが恐ろしい。
イベント終了後。
楽屋。
ハル。
「疲れたぁ〜〜」
ソファへダイブ。
そこへ女性スタッフが飲み物を持ってくる。
「ハルさんお疲れ様です!」
「ありがと〜!」
ニコッ。
「っ……」
女性スタッフ、赤面。
ハルは普通に続ける。
「今日もいっぱい助かった〜!」
「い、いえ!」
「また一緒に頑張ろうね!」
「は、はい!!」
スタッフ退出後。
田村。
「お前さ」
「ん?」
「ナチュラルに女落とすのやめろ」
ハル。
「えぇ!?」
本気で分かってない。
「そんなつもりないよ!?」
「そこが怖い」
実際。
ハルは“特別扱い”が上手すぎる。
しかも本人に計算がない。
だから女性側が勝手にハマる。
以前。
女性雑誌編集部でアンケートがあった。
『実際会って一番沼だった種馬ズメンバー』
結果。
ハル。
理由。
『優しすぎて勘違いする』
終わっている。
その夜。
ドラマ打ち上げ。
ハル参加。
居酒屋貸切。
女優陣。
かなりテンション高い。
「ハルくんこっち座って〜!」
「え〜どこ行こうかなぁ」
ニコニコ。
結局真ん中。
最悪。
しかも。
飲み会でも変わらない。
「それ美味しそう!」
「一口食べる〜?」
「あ、食べたい!」
距離。
近い。
女優たち。
完全に嬉しそう。
「ハルくんって本当に人懐っこいよね〜」
「犬みたいってよく言われる!」
「かわいい〜!」
そして。
終盤。
少し酔った人気女優がボソッと言った。
「ハルくんってさぁ」
「ん〜?」
「絶対モテるでしょ」
ハル。
少し考える。
「どうなんだろ?」
周囲女性陣。
(こいつ……)
無自覚。
しかも本当に無自覚。
「でもみんな優しいよ〜!」
ニコッ。
その瞬間。
数人の女性が同時に顔を逸らした。
「無理……」
「好きになる……」
「距離感危険……」
田村は酒を飲みながら思っていた。
種馬ズ。
四人ともモテる。
だが。
ハルが一番“普通の恋愛感情”を生みやすい。
手が届きそうに見える。
優しい。
笑う。
懐く。
だから女性側が壊れる。
そして本人だけが何も分かっていない。
帰りの車。
ハル。
「今日は楽しかった〜!」
「お前今日も女優三人くらい落としてたぞ」
「えぇ!?」
本気で驚いている。
「そんなことないよ!」
「あるんだよ」
ハルは首を傾げた。
「みんな仲良くしただけなのに〜」
田村はため息をつく。
(だから怖いんだよお前は……)




