47 神谷回
神谷悠真は、自分がモテる理由を本気で理解していなかった。
というより、「モテる」という現象自体にあまり興味がない。
だから余計に危険だった。
夜。高級ブランドのレセプションパーティー。都内ホテル最上階。芸能人、モデル、スポンサー、雑誌編集、インフルエンサー。いわゆる“芸能界の社交場”である。
そこに、神谷はいた。
壁際に。
一人で。
シャンパン片手。
ローストビーフ食べてる。
「……」
静か。
異様に静か。
周囲は談笑している。
「あの監督がさ〜」
「新作映画が〜」
「海外展開が〜」
キラキラ。
華やか。
だが神谷。
「……美味しい」
料理の感想しかない。
しかも今日は他の種馬ズメンバーがいない。つまり、神谷を無理矢理社交場へ引っ張る人間が存在しない。
結果。
完全放置。
しかし。
問題はそこではなかった。
遠く。
女性たち。
ザワついていた。
「神谷くんいる……」
「え、待って顔やば……」
「近くで見ると無理なんだけど……」
「なんで一人なの……」
「逆に話しかけづらい……」
神谷は何もしていない。
本当に。
ただ立ってるだけ。
なのに空気が変わる。
これが神谷だった。
しかも厄介なのは、“喋らない”ことが逆に女性側の想像力を刺激する点である。
「あの静かな感じ好き……」
「絶対優しい」
「ミステリアスすぎる」
違う。
ただのコミュ症。
だが顔が良すぎるせいで全部いい方向へ変換される。
神谷本人はその頃、シャンパンのおかわりをどう頼むか悩んでいた。
(店員さんどこだろ……)
終わっている。
その時。
人気モデルが近づいてきた。
かなり美人。
芸能界でも有名。
「神谷くんだよね?」
神谷、ビクッ。
「……どうも」
短い。
かなり短い。
だが。
モデル側、ちょっと嬉しそう。
「ドラマ見たよ〜」
「……ありがとうございます」
「めっちゃかっこよかった」
「……どうも」
終了。
会話終了。
だがモデルは帰らない。
何故なら。
“冷たい”ではなく“静か”だから。
これも神谷の危険なところだった。
普通の男がここまで無口なら感じ悪い。だが神谷の場合、顔面が強すぎるので「落ち着いてる」に変換される。
「今日一人なの?」
「……はい」
「へぇ〜」
「……」
「……」
沈黙。
普通なら事故。
だが。
モデル側。
なぜかニコニコしてる。
「なんか緊張するね」
神谷、本気で困る。
(なんて返せばいいんだろ……)
数秒。
「……料理美味しいです」
「ふふっ!」
笑われた。
神谷は少しホッとする。
会話が終わったと思ったから。
だが終わらない。
「神谷くんって天然?」
「……分からないです」
「かわいい」
「……」
神谷、さらに困る。
その頃。
遠くで女性スタッフたちがザワついていた。
「やば……」
「神谷くん今日もモテてる……」
「喋らないのに」
「むしろ喋らないからじゃない?」
実際そうだった。
神谷は“余白”が多い。
女性側が勝手に理想を投影する。
しかも本人にギラギラした感じがない。芸能界の男特有の「俺モテるでしょ?」感もない。だから余計に危険。
その後。
別の女優。
また近づく。
「神谷くーん!」
「……どうも」
「この前ありがとうね!」
「……?」
神谷、覚えてない。
だが顔に出ない。
女優側。
(クール……)
違う。
本当に忘れてるだけ。
「またご飯行こうよ〜!」
「……はい」
適当に返す。
女優側。
(脈アリ!?)
違う。
会話終わらせたかっただけ。
危険。
かなり危険。
そして。
極めつけ。
パーティー後半。
神谷、疲労。
限界。
帰りたい。
すると若手女性アナウンサーが勇気を出して近づいてきた。
「神谷さん!」
「……はい」
「ずっとファンでした!」
「……ありがとうございます」
「写真とか……」
神谷、少し困る。
だが断れない。
「……はい」
ツーショット。
その瞬間。
女性アナ、顔真っ赤。
「やば……近い……」
神谷は何も分かっていない。
写真終了。
女性アナ。
「今日お会いできて本当に嬉しいです!」
「……どうも」
また短い。
だが女性アナ、完全に幸せそう。
去ったあと。
周囲スタッフ。
「神谷くんってなんであれで成立するの……」
「顔」
「顔かぁ……」
結論が早い。
そして深夜。
やっと帰宅車。
神谷は座った瞬間、深いため息をついた。
「……疲れた」
マネージャー田村が笑う。
「今日もモテてたな」
神谷、真顔。
「……なんで」
「自覚ないの怖いよお前」
神谷は窓の外を見た。
「……喋るの苦手なのに」
「だからだろ」
「?」
本気で分かっていない。
その瞬間。
スマホ通知。
女性モデル。
『今日会えて嬉しかった♡』
女優。
『またご飯行こうね♡』
女性アナ。
『お疲れ様でした!』
神谷。
数秒固まる。
そして。
「……怖い」
田村は腹を抱えて笑っていた。




