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種馬ズ  作者: 雪だるま
第一章

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スターライト・クリエイティブ本社、最上階大会議室。巨大モニターには、ここ数年でレイが出演した作品の一覧がズラリと並んでいた。ヒット、ヒット、大ヒット。視聴率、配信、映画興収、SNS指標。全部強い。強すぎる。


そして芸能界というのは、強い数字を見ると理性を失う。


「続編いきましょう!」


「映画化もできます!」


「スピンオフは配信限定で!」


「学生時代編どうです!?」


「刑事パラレルもアリです!」


「海外展開できますよ!」


「韓国配信伸びてます!」


「中国圏も強いです!」


「恋愛リアリティ番組も――」


「やめるのだぁ……」


レイが死んだ目で呟いた。


誰も止まらない。


上層部、完全に目がドルマークだった。


何故なら、レイを使うと数字が出る。今やそれが“実績”として固まりすぎてしまった。しかも厄介なことに、レイは演技力で圧倒するタイプではない。なのに何故か“見たくなる”。ライブでもドラマでも、妙に人間臭い熱量がある。つまり制作側からすると非常に危険なタイプの当たり役者だった。


「レイ君主演でシーズン2!」


「映画版で全国ツアー!」


「舞台挨拶全国行脚!」


「特番連動!」


「SNS企画!」


「大型タイアップ!」


「グッズ展開!」


レイは椅子に座ったまま魂が抜けていた。


「……のだぁ」


黒い。


目が黒い。


完全に社畜の目。


その横でプロデューサーが熱弁している。


「今しかないんです!」


「今、佐藤レイを回さない理由がない!」


「世間が求めてるんです!」


「供給しないと!」


レイは静かに天井を見た。


「供給って言われたのだぁ……」


まるで工場。


だが、芸能界はわりと工場である。


社長までテンションが高かった。


「がっはっはっは!!」


酒も飲んでないのに上機嫌。


「全部やれ全部!!」


「社長ぉ……」


「映画もやれ!」


「嫌なのだぁ……」


「スピンオフもやれ!」


「嫌なのだぁ……」


「配信限定ドラマも!」


「嫌なのだぁ……」


「グッズも増やせ!」


「それはやるのだぁ♡」


そこだけ即答。


会議室に笑いが起きたが、レイ本人はかなり本気で疲弊していた。


最近のレイは、芸能界の恐ろしさを以前より理解している。一度当たると、周囲は“次も当然当たる前提”で動く。そして、コケた時だけ全部主演の責任になる。しかも今は、自分だけでは済まない。スポンサー、局、制作会社、広告代理店、配信会社。全部がレイを軸に金を動かしている。


つまり、逃げられない。


「のだぁ……」


レイは机へ突っ伏した。


「吾輩、アイドルでよかったのだぁ……」


「は?」


田村が聞き返す。


レイは真顔だった。


「ドラマは逃げられないのだぁ……」


「まあ主演だからな」


「でもアイドルはぁ……」


レイ、ゆっくり顔を上げる。


「トレーニングとライブに逃げられるのだぁ♡」


静止。


数秒。


「逃げるって言った?」


「言いましたのだぁ♡」


最低だった。


だが本音だった。


レイにとって、ライブはまだ“逃げ場”だった。ドラマや映画は、撮影中ずっと役と責任がついて回る。数字も記事も比較も全部直撃する。だがライブは違う。叫んで、歌って、走っていれば何とかなる。そして飼い主たちが異常に甘やかしてくれる。


「ライブは優しいのだぁ……」


「五万人に餌代って言ってるくせに?」


「愛なのだぁ♡」


完全に飼い慣らされていた。


その時、別のプロデューサーが企画書を出した。


「あとですね、レイさん主演作のスピンオフで“悪役視点”を――」


「嫌なのだぁ!!」


「まだ何も言ってません!」


「どうせ働かされるのだぁ!!」


レイは椅子ごと後ろへ下がった。


「吾輩知ってるのだぁ!!」


「何を」


「“大人気御礼!”とか言いながら人権を奪うやつなのだぁ!!」


「言い方ァ!!」


だが制作陣は止まらない。


「でもファンが望んでます!」


「SNS盛り上がってます!」


「海外人気もあります!」


「配信会社がもう動いてます!」


レイ、静止。


数秒。


そして。


「うわぁぁぁぁん!!!」


崩壊。


「仕事が増えるのだぁあああ!!!」


会議室爆笑。


しかし誰も否定できない。


実際、増える。


そして結局、レイは断りきれない。


何故なら、怖いから。


スポンサー。


局。


上層部。


全部怖い。


だから最後はだいたい折れる。


その時だった。レイのスマホに通知が入る。


『種馬ズ ドーム追加公演決定』


レイ、止まる。


「……のだぁ?」


さらに通知。


『新曲レコーディング日程』


『ライブリハ追加』


『海外配信コメント撮影』


『雑誌表紙』


『CM撮影』


レイはゆっくりスマホを伏せた。


「……働きたくないのだぁ」


社長は腹を抱えて笑っていた。


「がっはっはっは!!売れっ子だなぁ!!」


「社長ぉ……」


「なんだ」


「吾輩、老後は山奥で寝て暮らしたいのだぁ……」


「まだ二十代だろうが!!」


だがレイはかなり本気だった。


その後、会議終了。


レイはフラフラ立ち上がる。


そしてボソッと言った。


「……ライブ行くのだぁ」


田村が呆れる。


「現実逃避か?」


レイは真顔。


「アイドル活動は癒しなのだぁ」


「お前の人生バランスおかしいよ」


だが数分後、ドームリハ会場へ向かったレイは、ステージへ出た瞬間だけ妙に元気になっていた。


「飼い主たちぃいいい!!」


まだ客もいない空のドームで叫ぶ。


「吾輩は帰ってきたのだぁあああ!!」


スタッフたちは笑っていた。


結局、レイは今日も芸能界から逃げ切れない。

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