30 正座レイ
深夜。
スターライト・クリエイティブ本社会議室。
空気。
最悪。
重い。
静か。
怖い。
そこに。
正座。
佐藤レイ。
20歳。
国民的大人気アイドル。
ドームを埋める男。
視聴率38%男。
現在。
完全に縮こまっていた。
「のだ……」
小さい。
普段と違って声が小さい。
何故なら。
今回は。
“本当にまずい相手”だった。
テーブル向こう。
社長。
マネージャー。
弁護士。
広報。
全員真顔。
そして。
電話。
スピーカー状態。
そこから聞こえる低い声。
「……つまり?」
レイ。
ビクゥッ!!
「の、のだぁ……」
完全に怯えている。
「はいですのだ……」
汗。
めちゃくちゃ汗。
「まさか超大物政治家と超大物女優の息子だったとは思わなかったのだぁ……」
社長、
額を押さえる。
本当に頭が痛い。
何故なら。
今回の相手。
本当にヤバい。
・元総理のひ孫
・現役超大物政治家の孫
・母親は国民的大女優
・親戚に官僚大量
・財界にもコネ
・名門校
芸能界で最も敵に回したくないタイプ。
しかも。
レイ。
やらかした。
数日前。
空港VIPラウンジ。
レイ、
疲れていた。
眠かった。
機嫌悪かった。
そこへ。
十代前半くらいの少年。
「レイだ!」
テンション高め。
しかも。
「サインちょうだい!」
距離近い。
レイ。
疲労で頭が死んでいた。
結果。
「のだぁ!?うるさいのだぁ!」
ペシッ。
帽子で軽く頭を叩いた。
普通なら。
ちょっと炎上して終わる。
だが。
相手が悪すぎた。
しかも。
その少年。
普通に気が強かった。
「何すんだよ!」
「のだぁ!?偉そうなのだぁ!!」
「はぁ!?」
レイ、
イラッ。
「お仕置きなのだぁ!!」
さらに帽子で叩く。
終わり。
完全終了。
周囲スタッフ凍結。
SP動く。
マネージャー青ざめる。
そして後で判明。
相手の家系。
地獄。
現在。
レイ。
震えていた。
「鼻垂れたくそ生意気なガキかと思ってましたのだ……」
「言い方ァ!!!」
社長が叫ぶ。
「そこじゃない!!」
「のだぁ!?」
「なんで叩いた!!」
「だってぇ……」
レイ、
半泣き。
「吾輩、疲れてたのだぁ……」
「知らん!!」
「サイン寄越せってぇ……」
「アイドルだろお前!!」
「距離近かったのだぁ!!」
「だからって帽子で叩くな!!」
レイは完全に小動物だった。
普段。
ドヤる。
騒ぐ。
転売。
媚び。
だが。
本当に怖い権力には弱い。
何故なら。
芸能界の恐ろしさをちゃんと知っているから。
「のだぁ……」
電話向こうの低い声。
「……謝罪は?」
レイ、
秒速。
「今から菓子折り持って謝罪しに行きますのだぁ!!!」
九十度。
床に頭つきそう。
「坊主にもしますのだぁ!!!」
「そこまでは言ってない」
「謝罪会見もしますのだぁ!!!」
「だから待て」
レイは本気だった。
何故なら。
圧力が怖い。
めちゃくちゃ怖い。
「大人気アイドルでも圧力は恐怖なのだぁ……」
ボソッ。
本音。
芸能界。
結局。
コネと権力が怖い。
そこをレイは本能で理解していた。
その時。
電話向こう。
女性の声。
かなり綺麗な声。
大女優。
つまり母親。
「……その、レイ君?」
「のだぁ!?」
「うちの子もかなり生意気だから」
静止。
レイ、
硬直。
「え?」
「SPの人にもよく怒られてるし」
「……のだぁ?」
「だから叩いたのはダメだけど」
「のだぁ……」
「そこまで怯えなくて大丈夫」
空気が少し変わる。
レイ。
数秒。
そして。
「うわああああん!!!」
急に泣き出した。
「怖かったのだぁあああ!!!」
「お前なぁ……」
社長が頭抱える。
レイは本当に怖かったのである。
何故なら。
途中で、
「政治家サイドが激怒」
「局への圧力」
「スポンサー問題」
みたいなワードが飛び交っていたから。
レイの脳内ではもう。
『芸能界追放』
『ドーム中止』
『グッズ暴落』
まで行っていた。
特に最後。
「グッズ暴落が怖かったのだぁ……」
「そこかよ!!」
会議室総ツッコミ。
レイは涙目。
「だってぇ!!」
「うん」
「吾輩の初期アクスタ市場がぁ……」
「黙れ」
「国家権力で暴落したらどうするのだぁ!!」
「お前本当に最低だな」
だが。
空気は少し和んでいた。
電話向こうでも。
大女優がちょっと笑っている。
「変わった子ねぇ」
「のだぁ……」
その時。
今度は少年本人の声。
「……レイ」
レイ、
硬直。
「のだぁ!?」
「サインは欲しい」
静止。
数秒。
そして。
レイ。
秒速土下座。
「百枚書くのだぁあああ!!!」
「多い」
「等身大パネルもつけるのだぁ!!!」
「いらない」
「限定グッズもつけるのだぁ!!!」
「それ欲しい」
「のだっ♡」
急に元気。
現金。
いや単純。
その後。
電話終了。
会議室静寂。
社長が深いため息をつく。
「……寿命縮んだ」
「のだぁ……」
レイはまだ正座していた。
しょんぼり。
黒崎たちも後から呼ばれていた。
ハルは半泣きで笑ってる。
神谷は静か。
黒崎は疲れ顔。
「レイ」
「のだぁ……」
「もうVIPラウンジで人叩くな」
「のだぁ……」
「あと相手の家系調べてから怯えるな」
「無理なのだぁ……」
レイは遠い目をした。
「芸能界怖いのだぁ……」
神谷が静かに呟く。
「今回お前が怖がらせた側だけど」
「……確かにのだぁ」




