28 飼い主たち
金曜夜。
東京。
大阪。
名古屋。
福岡。
地方都市。
学生寮。
会社員の一人暮らし部屋。
実家の茶の間。
そしてSNS。
その日。
飼い主たちは浮かれていた。
理由。
種馬ズドームツアー完走。
しかも。
全公演満員。
追加席まで埋まった。
半年前。
「名前が終わってる」
「一発ネタグループ」
「レイだけ話題」
とか言われていた男たちが。
今。
ドームを埋めている。
飼い主たちも、
未だに少し信じられていなかった。
⸻
都内ワンルーム。
26歳会社員・美咲。
仕事終わり。
コンビニ飯。
疲労。
残業。
だが。
今夜だけは顔が明るい。
テレビには、
種馬ズドーム映像。
「……ドームかぁ」
しみじみ呟く。
昔。
まだ小箱時代。
ライブチケットが普通に取れた頃。
美咲はなんとなく種馬ズを見つけた。
最初は。
「名前終わってるな」
と思った。
だが。
『種馬も辛い』を聞いてしまった。
疲れた中年夫婦みたいな歌詞。
妙に生活感あるラブソング。
意味不明なのに。
何故か刺さった。
そして気づけば。
今。
ドーム映像を見ながら泣いている。
「なんでドーム行ってるのあいつら……」
嬉しい。
本当に嬉しい。
でもちょっと面白い。
レイがドームで、
『餌代払うのだぁ♡』
とか言ってるのを見ると、
未だに脳がバグる。
「国民的アイドルが何言ってんの……」
でも。
そのくだらなさが好きだった。
⸻
SNS。
飼い主たちが大騒ぎ。
『種馬ズドーム泣いた』
『本当に売れたんだなぁ』
『小箱時代知ってるから情緒やばい』
『レイ、昔チェキ余らせてたのに』
『黒崎くん報われてよかった』
『神谷がドーム中央立ってるの泣く』
『ハルがずっとハルで安心した』
TLが感情で埋まる。
そして。
当然。
オタクたちは昔を語り始める。
⸻
居酒屋。
飼い主オフ会。
テーブルに並ぶ酒。
そして大量の種馬ズグッズ。
「いやマジでドーム埋めると思わなかった」
「分かる」
「デビュー時“種馬ズ”だぞ?」
「終わってると思った」
「私、親にグループ名言えなかった」
「分かる」
全員笑う。
だが。
本当に嬉しそう。
「昔ライブ会場スカスカだったよね」
「レイ普通に物販立ってた」
「“買えなのだぁ♡”って叫んでた」
「うるさかった」
「でも今ドームだもんなぁ……」
少し静かになる。
オタク特有の、
“売れてしまった感情”。
誇らしい。
でも遠くなった気もする。
複雑。
その時。
一人がスマホを見て叫ぶ。
「うわっ」
「何?」
「レイの初期アクスタ120万」
全員爆笑。
「またかよ!!」
「レイ絶対喜んでる」
「今頃市場見てニヤニヤしてる」
「想像できすぎる」
種馬ズファン。
レイの俗っぽさに慣れすぎている。
⸻
一方。
地方都市。
高校生飼い主。
親に隠れて深夜視聴。
「……やば」
ドームライブ映像。
『愛しの人参』。
ペンライト。
歓声。
画面の向こうの種馬ズ。
「かっこいいなぁ……」
最初はネタだった。
TikTokで流れてきた。
レイが変だった。
ハルが犬だった。
黒崎が苦労してた。
神谷が静かだった。
でも。
ライブを見るとちゃんとアイドル。
そのギャップで落ちた。
今では。
人生で初めて親に内緒でライブ遠征までしている。
「ドームかぁ……」
スマホを見ながら少し笑う。
「すごいなぁ」
⸻
既婚女性飼い主界隈。
ここも熱かった。
『種馬も辛い』が妙に刺さった層。
子育て。
仕事。
疲労。
現実。
そんな人たちに、
種馬ズは妙に刺さる。
「なんか生活感あるんだよね」
「分かる」
「キラキラしすぎてない」
「レイ最低なのに妙にかわいい」
「黒崎くんに幸せになってほしい」
「神谷くん静かで落ち着く」
「ハルくん見ると元気出る」
完全に日常の癒し。
そして。
今夜。
そんな飼い主たちは、
みんなドーム映像を見ていた。
「売れたねぇ……」
「ほんとにねぇ……」
しみじみ。
まるで親。
⸻
そして。
深夜。
種馬ズ公式SNS更新。
レイの投稿。
『のだぁ♡ドームありがとなのだぁ♡ちゃんと餌代になったのだぁ♡』
コメント欄。
『最低で好き』
『レイらしくて安心した』
『売れてもブレない』
『一生養う』
『飼い主で良かった』
レイ、
さらに投稿。
『あと初期グッズ市場が熱いのだぁ♡』
コメント欄。
『黙れ』
『それ言うな』
『でも見ちゃう』
『本当に終わってる』
『好き』
飼い主たちは笑っていた。
結局。
そこなのだ。
種馬ズ。
ちゃんとかっこいい。
ちゃんとアイドル。
ちゃんとスター。
でも。
妙に人間臭い。
だから。
応援したくなる。
そして今日も。
全国のどこかで、
飼い主たちは思っている。
「……なんであんなグループ名でドーム埋まってるんだろう」
と。




