27 ハルの疲労
映画公開六週目。
都内シネコン。
巨大モニター。
ランキング表示。
【1位
『恋する放課後パレード!』
興行収入 35.2億円】
観客動員、
絶好調。
SNSバズ。
学生人気。
カップル需要。
家族層。
全部乗った。
そして主演。
早乙女ハル。
20歳。
種馬ズメンバー。
芸能界は大騒ぎだった。
「ハル主演映画35億!?」
「普通に大成功だろ!」
「俳優としても跳ねた!」
「種馬ズやばすぎる!」
テレビ局。
映画会社。
スポンサー。
全員ニコニコ。
だが。
当の主演。
「……」
死んでいた。
楽屋ソファ。
虚無。
魂が抜けている。
目が半開き。
ハルはスマホで、
“35.2億突破!”という記事を見ていた。
数秒。
静止。
そして。
「……一円にもならないのに」
ボソッ。
怖い。
その場にいたスタッフが笑った。
「夢ないこと言うなよ!」
「だってぇ……」
ハルは机に突っ伏した。
「宣伝めちゃくちゃ頑張ったのにぃ……」
本当に頑張った。
映画というのは、
公開後が地獄である。
番宣。
舞台挨拶。
生配信。
雑誌。
インタビュー。
地方キャンペーン。
TikTok撮影。
SNS動画。
朝番組。
深夜番組。
映画一本当たると、
主演は本当に忙しくなる。
しかも。
ハルは断れない。
頼まれると基本やる。
ニコニコしてやる。
その結果。
現在。
完全に燃え尽きていた。
「ハルくん次入りまーす!」
「はーい……」
声に元気がない。
スタッフたちは少し笑っていた。
「主演スターなのにテンション低い」
「寝てないんですよ」
マネージャーが苦笑する。
実際。
ここ数週間のハル。
普通に地獄だった。
朝五時集合。
映画番宣。
移動。
ラジオ。
舞台挨拶。
また移動。
動画撮影。
夜帰宅。
数時間後また集合。
しかも。
映画スタッフ側は、
“ハルは感じが良い”と知っているので、
どんどん仕事を振る。
「ハルくんこれもお願い!」
「はい!」
「TikTok撮ろ!」
「はい!」
「地方舞台挨拶追加!」
「はい!」
断れない犬。
結果。
今。
抜け殻。
その頃。
別室。
種馬ズメンバー。
黒崎、
コーヒー。
神谷、
静かに雑誌。
レイ、
スマホで相場確認。
いつもの光景。
そこへ。
フラフラ歩いてくるハル。
「ただいまぁ……」
「おつかれ」
黒崎が優しく言う。
ハルはそのまま床に倒れた。
「のだぁ?」
レイが見る。
「死んでるのだぁ?」
「死んでない……」
「35億男なのだぁ♡」
「やめてぇ……」
ハルは半泣きだった。
「もう番宣やだぁ……」
神谷が静かに言う。
「映画当たると増えるよね」
「めちゃくちゃ増えたぁ……」
ハルは天井を見る。
「映画ってぇ……」
「うん」
「公開前だけ頑張ればいいと思ってたぁ……」
「違う」
「公開してからの方が忙しかったぁ……」
黒崎が苦笑する。
「まあヒットするとそうなる」
レイはスマホを見ながら言った。
「35億なのだぁ」
「うん」
「グッズ市場も熱いのだぁ」
「そこ!?」
レイの目が光る。
「映画限定アクスタ高騰してるのだぁ♡」
「もうやだこの人」
ハルはソファに顔を埋めた。
「僕ぅ……」
「うん」
「なんでこんな働いてるのぉ……」
「売れてるから」
「でもお金増えた感じしないぃ……」
「事務所と税金」
「うわぁあああん!!!」
現実。
芸能界の現実。
ハルは床をバンバン叩いた。
「35億なのにぃ!!!」
「映画会社は喜んでるよ」
「僕は眠いぃ!!!」
その時。
スタッフが入ってくる。
「ハルくん次、雑誌取材お願いしまーす!」
ハル。
静止。
数秒。
「……まだあるの?」
「あります!」
「……」
「映画大ヒットなんで!」
ハルはゆっくり黒崎を見た。
「帰りたい」
「頑張れ」
「神谷くん代わって」
「無理」
「レイ君ぅ……」
レイ、
真顔。
「吾輩も忙しいのだぁ」
「何してるの」
「市場確認なのだぁ」
「帰れぇ!!!」
楽屋爆笑。
だが。
ハルは本当に限界だった。
その後。
雑誌撮影。
インタビュー。
記者が笑顔で聞く。
「35億突破おめでとうございます!」
「ありがとうございます……」
「今のお気持ちは?」
ハルは数秒考えた。
本音が漏れた。
「……寝たいです」
記者爆笑。
スタッフ爆笑。
SNSでも後に切り抜かれ、
『ハルくん正直すぎる』
『売れても犬』
『35億俳優の願い=睡眠』
と大好評。
結局。
その素直さが、
また人気を増やしてしまうのだった。




