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種馬ズ  作者: 雪だるま
第一章

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3/57

3

アイドルグループ『種馬ズ』。


芸能界でもかなり危険な名前である。


誰が付けたのか。


ちなみに社長である。


しかも酒飲みながら五分で決めた。


当時、まだ誰も売れると思っていなかったため、

誰も止めなかった。


そして現在。


その名前が全国ニュースに出ていた。


『人気急上昇アイドル“種馬ズ”、グループ名に批判殺到』


『コンプラ時代に“種馬ズ”は問題では?』


『視聴率23%俳優所属グループ名が物議』


『海外ファン困惑「Why Stallions?」』


SNSは地獄だった。


「令和にその名前?」

「攻めすぎ」

「逆に好き」

「おじさんが考えた?」

「炎上込みで売れてる」

「レイってやつの顔が腹立つ」


一方。


当の種馬ズのメンバーたちは、事務所会議室で呆然としていた。


「……チケット完売した」


「追加公演も埋まった」


「サーバー落ちたらしい」


「倍率えぐ……」


「何これ……」


全員困惑していた。


何故なら。


ほんの数ヶ月前まで、

種馬ズは普通に売れてなかったからである。


ライブ会場も小さい。


物販も余る。


チェキ列も短い。


ファンとの距離が妙に近い。


地方営業でスーパーの屋上。


知らない演歌歌手の前座。


そんなレベルだった。


だから今回のライブも、小さい箱しか押さえていなかった。


キャパ800。


しかも二日間。


だが現在。


申し込みが爆発。


倍率十数倍。


いや、一部では二十倍超え。


特にレイのうちわだけ異様に売れていた。


何故か。


本当に何故か。


「のだぁあああああ!!!」


その中心で。


レイだけが目をギラギラさせていた。


「金なのだぁあああああ!!!!」


「やめろ」


即座に田村がツッコんだ。


だがレイは止まらない。


「チケットが金に見えるのだぁ!!!」


「最低だなお前」


「のだぁっ♡」


レイはニッコニコだった。


しかも机に大量のスマホを並べている。


五台。


いや六台。


「……お前何してる」


「転売なのだぁ♡」


「堂々と言うな!!」


レイはカタカタ操作しながら叫んだ。


「40倍で転売してみせるのだぁあああ!!!」


「犯罪寄りのテンションで言うな!!」


「視聴率23%パワーなのだぁ!」


「お前の人気を悪用するな!」


「資本主義なのだぁ!!」


田村は頭を抱えた。


他メンバーも引いていた。


種馬ズのリーダー・黒崎が震え声で言う。


「レイ……お前まさかファンクラブ先行使ってないよな?」


「のだっ♡」


「使ってる顔だこれ!!」


「合法なのだぁ!」


「絶対違う!!」


レイはソファの上で胡座をかきながらスマホを高速操作していた。


「うむ……うむ……」


妙に真剣である。


「この席は二十五万……」


「やめろ」


「この席は三十万……」


「やめろ!!」


「のだぁ!?!?世の中は需要と供給なのだぁ!!」


「アイドル本人が言うセリフじゃねえ!!」


だが。


レイは本気だった。


なにせ彼は、

売れてない時代をちゃんと知っている。


コンビニで値引き弁当を漁った。


交通費が惜しくて歩いた。


ライブ後の牛丼屋でメンバー全員ため息をついた。


チェキ会で客よりスタッフの方が多かった日もある。


だから今。


急に金が動き始めている状況に、

脳が完全に焼かれていた。


「のだぁ……」


レイはスマホを抱きしめた。


「人気ってすごいのだぁ……」


「感動の方向性がおかしい」


「前まで無料チケット配ってたのにぃ……」


「やめろ悲しくなる」


「今は同じ紙切れが二十万なのだぁ……」


「紙切れ言うな」


レイは遠い目をした。


「芸能界って夢があるのだぁ……」


「お前が言うと怖いんだよ」


その時。


事務所スタッフが青ざめながら飛び込んできた。


「大変です!!」


「のだぁ?」


「グループ名がまた炎上してます!!」


「またなのだぁ!?」


「女性誌が“種馬ズという名前は女性軽視では?”って記事出しました!!」


「あー……」


空気が重くなる。


だが。


レイは数秒考えた後。


「のだぁ!」


突然立ち上がった。


「改名するのだぁ!!」


「おっ、まともな判断か?」


「スーパー種馬ズなのだぁ!!」


「悪化したぁ!!」


「ワールド種馬ズ!!」


「やめろ!!」


「種馬ズ∞!!!」


「パチンコ台みたいになってる!!」


メンバー全員が絶叫した。


レイは不満そうだった。


「のだぁ……じゃあ何が悪いのだぁ」


「全部だよ!!」


「馬は立派なのだぁ!」


「そこじゃねえ!!」


その頃。


SNSではさらに地獄になっていた。


『種馬ズって名前ヤバすぎ』


『でも曲は嫌いじゃない』


『レイの顔腹立つけど見ちゃう』


『ライブ行きたい』


『転売価格えぐい』


『なんでこんな人気なの?』


『意味不明すぎて逆に気になる』


そして。


その転売価格の画面を見つめながら、

レイは静かに震えていた。


「のだぁ……」


「今度は何だ」


「……すごいのだぁ」


「?」


「吾輩のサイン入りタオル、八万円なのだぁ……」


「…………」


レイはしばらく黙っていた。


そして。


「のだぁあああああ!!!」


突然ガッツポーズ。


「吾輩、ブランド牛なのだぁあああ!!!」


「人間やめた!?」


「高級種馬なのだぁ!!」


「グループ名と合わせるな!!」


その瞬間。


田村のスマホが鳴った。


社長からである。


嫌な予感しかしない。


田村が恐る恐る出る。


「……はい」


『レイいるか?』


「います」


『転売疑惑出てる』


「やっぱりですか」


『今すぐ止めろ』


田村はゆっくり振り返った。


レイは。


めちゃくちゃ真顔で。


大量のチケットを抱えていた。


「のだぁ?」


「お前ェーーーーーー!!!!」


数分後。


「のだぁあああああ!!離すのだぁあああ!!資本主義への弾圧なのだぁあああ!!!」


「うるせえ!!」


レイは田村と他メンバー総出で取り押さえられていた。


しかも最後まで、


「二十万!!二十万で売れるのだぁ!!」


と叫び続けていた。


なお。


その騒動の切り抜き動画が何故かまたバズり、

種馬ズのファンクラブ会員数はさらに増えた。


業界人たちは頭を抱えていた。


「……なんで炎上するたび人気出るんだ、あいつ」

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