25
朝四時半。
種馬ズ。
全員死にそうだった。
「……眠い」
黒崎が珍しく机に突っ伏していた。
神谷は無言。
ハルはソファで半目。
そして。
レイ。
「のだぁ……」
魂が抜けていた。
何故なら。
今の種馬ズ。
完全に“芸能界の取り合い対象”になっていたからである。
テレビ局。
配信会社。
雑誌社。
CM。
イベント。
全部。
「今のうちに使いたい」
状態。
特に最近は。
神谷主演ドラマ成功。
レイ主演ラブコメ大ヒット。
種馬ズドーム成功。
全部重なった。
結果。
芸能界全体が、
種馬ズを中心に回り始めていた。
そして当然。
仕事量も壊れた。
朝。
情報番組。
昼。
雑誌撮影。
移動。
ラジオ。
番宣。
収録。
ライブリハ。
CM。
取材。
SNS撮影。
深夜帰宅。
数時間睡眠。
翌日また朝四時起き。
地獄。
しかも。
最近は扱いが露骨に変わっていた。
局幹部が直接挨拶に来る。
スポンサーが笑顔。
衣装予算アップ。
メイク班増員。
雑誌表紙連発。
テレビ局同士の取り合い。
完全に売れっ子待遇。
だが。
当人たちは普通に限界だった。
楽屋。
「種馬ズさん入りまーす!」
スタッフたちのテンションが高い。
「今日もよろしくお願いします!」
「ありがとうございます!」
黒崎だけはちゃんと返す。
プロである。
だが。
ハル。
「……おはよぉ……」
ほぼ犬の老化。
神谷。
「……どうも」
省エネ。
レイ。
「のだぁ……」
死体。
完全に死体。
メイクスタッフが笑う。
「レイくんまた寝てない?」
「寝たのだぁ……」
「何時間?」
「……一時間半なのだぁ」
「短っ!!」
レイは椅子に座ったまま、
遠い目をしていた。
「吾輩、最近ぃ……」
「うん」
「自分が人間か分からないのだぁ……」
「ちゃんと寝ろ」
「移動中に寝てるのだぁ」
「それ睡眠扱いじゃない」
その時。
局プロデューサーが楽屋に入ってきた。
しかも。
かなり偉い人。
空気が少し変わる。
普通の若手なら緊張する。
だが。
レイはもう反射だった。
「のだぁあああ!!!」
秒速起立。
九十度お辞儀。
「いつもありがとうございますなのだぁあああ!!!」
「お、おう」
「吾輩、局の犬なのだぁ♡」
「そこまで言わなくていい」
媚び。
完全に媚び。
しかも。
最近は局幹部クラスが直接来る。
理由。
数字。
「次クールもぜひお願いします」
「ありがとうございますなのだぁ♡」
「レイ君本当に数字持ってるねぇ」
「局様のおかげなのだぁ♡」
「ははは!」
完全に営業モード。
その横で。
黒崎は静かに思っていた。
(切り替え早すぎるだろ……)
さっきまで死体だったのに。
その後。
番宣収録。
また別局。
また挨拶。
また撮影。
また移動。
車内。
全員無言。
限界。
ハルがボソッと言う。
「……お肉食べたい」
「分かる」
黒崎も即答。
神谷は窓を見ていた。
レイはスマホ。
「むむっ」
「まだ相場見てんの?」
黒崎が呆れる。
レイは真顔。
「癒しなのだぁ」
「終わってる」
「市場だけは裏切らないのだぁ」
「いや普通に暴落するだろ」
レイは数秒考えた。
「……確かにのだぁ」
「学ぶな」
その時。
車が止まる。
次。
雑誌撮影。
しかも。
最近は予算が露骨に違った。
衣装豪華。
セット豪華。
ヘアメイク増員。
撮影時間長い。
完全に“売れてる側”扱い。
スタッフも妙に優しい。
「種馬ズさん入りまーす!」
「今日表紙です!」
「よろしくお願いします!」
しかも。
女性誌。
当然。
メイク班も気合いが違う。
「肌仕上げよう!」
「照明もっと柔らかく!」
「レイくん目元綺麗!」
「神谷くん前髪ちょっと流そう!」
「ハルくん笑顔かわいい!」
「黒崎くん疲れ顔も色気ある!」
完全に商品。
だが。
レイ。
鏡を見ながらボソッと言う。
「のだぁ……」
「何」
田村が警戒。
レイは真顔だった。
「仮病でも使うかなのだぁ?」
静止。
黒崎がゆっくり振り向く。
「……は?」
「熱あることにするのだぁ」
「最低」
「人類には休息が必要なのだぁ」
「その通りだけどお前はダメ」
レイはソファに沈んだ。
「疲れたのだぁ……」
「みんな疲れてる」
「吾輩ぁ……」
レイは天井を見る。
「最近もう何の仕事してるか分からないのだぁ……」
「まあ分かる」
黒崎も苦笑。
実際。
最近は忙しすぎて、
曜日感覚も壊れている。
神谷も小さく呟く。
「……昨日何してたっけ」
「ドラマ番宣!」
ハルが即答。
「そのあと雑誌!」
「……そうだった」
「そのあとラジオ!」
「覚えてるなお前」
「えへへ!」
ハルだけ少し元気。
だが。
そのハルですら。
「……でもちょっと寝たい」
限界だった。
その時。
レイのスマホ通知。
ピコン。
レイが見る。
そして。
目が光る。
「あっ」
「嫌な予感」
「吾輩の初期アクスタまた値上がりしてるのだぁ♡」
「元気になるな!!!!」
レイ、
即復活。
「働けるのだぁ!!!」
「現金すぎる!!」
「資本主義最高なのだぁ♡」
黒崎は深いため息をついた。
神谷は静かに水を飲む。
ハルは笑っている。
種馬ズ。
今、
芸能界で最も忙しいアイドルグループ。
そして。
最も騒がしいグループでもあった。




