24 神谷回
夜。
種馬ズ楽屋。
テレビ前。
空気が妙に浮ついていた。
何故なら。
現在放送中――
神谷悠真主演ドラマ
『雨煙る街角探偵』。
初回視聴率。
17%。
普通に大ヒット。
しかも内容も評判がいい。
「神谷の雰囲気合いすぎ」
「静かな演技めちゃくちゃ良い」
「探偵役似合う」
「顔面で雨が似合う男」
SNSでも大盛り上がり。
事務所もお祭り状態だった。
「神谷くん主演成功だ!!」
「続編いける!!」
「配信強い!!」
「スポンサー継続来てます!!」
スタッフたちはテンションが高い。
一方。
主演本人。
神谷。
「……」
静かに水を飲んでいた。
いつも通り。
だが耳だけ少し赤い。
嬉しいのは嬉しい。
ただ騒ぎ方が分からない。
黒崎が笑う。
「おめでとう」
「……ありがとうございます」
ハルは大興奮。
「すごいよ神谷くん!!」
「……ありがと」
「探偵めちゃくちゃかっこよかった!!」
「……そう?」
「あとスーツ!!」
「……衣装さんです」
「謙遜しなくていいって!」
空気は平和。
本来なら。
だが。
部屋の隅。
「のだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
地獄みたいな悲鳴。
レイ。
四つん這い。
床バンバン叩いていた。
「うるせえ!!」
黒崎が即ツッコむ。
だがレイは止まらない。
「聞いてないのだぁああああ!!!」
「何が」
「ミレイとのキスシーンなのだぁあああ!!!」
空気停止。
神谷、
静かに瞬き。
ハル、
「あっ」
黒崎、
「あー……」
レイは床を叩き続けた。
「のだぁああああ!!」
バンバンバン!!
「まさかぁあああ!!!」
バンバン!!
「濡れ場もあるのだぁあああ!?!?」
「ない」
神谷、
即否定。
冷静。
「ないです」
「本当なのだぁ!?!?」
「ない」
「絶対なのだぁ!?!?」
「探偵ドラマだよ」
レイは床に突っ伏した。
「うわああああん!!!」
完全に情緒が終わっていた。
ちなみに。
白鳥ミレイ。
現在かなり売れている。
あの焼きそばラブコメ以降、
一気にブレイク。
CM。
映画。
ドラマ。
雑誌。
そして今回。
神谷主演ドラマのヒロイン。
清楚系ミステリアス美女役。
かなりハマっている。
ネットでも、
『神谷×ミレイ空気感良すぎ』
『顔面が強い』
『距離感が大人っぽい』
など大好評。
そしてそれを見たレイ。
壊れた。
「のだぁぁぁ……」
床に転がる。
「神谷めぇえええ……」
神谷、
静かに言う。
「仕事」
「仕事でも嫌なのだぁ!!」
「知らないよ」
「吾輩だってぇ!!」
レイは起き上がった。
「ミレイとぉ!!」
「うん」
「焼きそばドラマでキスしたのだぁ!!!」
「知ってる」
「だからぁ!!」
「うん」
「吾輩専用なのだぁ!!!」
静止。
三人、
真顔。
黒崎がゆっくり言った。
「最低だなお前」
「のだぁ!?」
ハルは笑い転げていた。
「レイ君面白すぎる!!」
「笑い事じゃないのだぁ!!」
レイは本気だった。
かなり本気。
「神谷ぁ!!」
「……何」
「どこまでしたのだぁ!!」
「ドラマ撮影」
「そうじゃないのだぁ!!」
「だから仕事」
神谷は静かだった。
だが。
少しだけ面倒そう。
「別に付き合ってないし」
その瞬間。
レイ硬直。
数秒。
「…………のだぁ」
「何その間」
「付き合ってないのだぁ?」
「付き合ってない」
「本当にぃ?」
「本当に」
「手とか繋いでないのだぁ?」
「撮影でなら」
「うわあああああん!!!!」
また崩壊。
レイは床を転がった。
「吾輩より進んでるのだぁあああ!!!」
「小学生みたいな発想やめろ」
黒崎が頭を抱える。
だが。
レイは止まらない。
「絶対現場でぇ!!」
「うん」
「いい匂いしてたのだぁ!!!」
「まあした」
「うわああああああん!!!!!!」
神谷は少し困っていた。
実際。
ミレイは売れた。
綺麗になった。
現場でも華がある。
だから今回の共演も普通に話題だった。
ただ。
神谷にとっては本当に仕事。
むしろ。
「会話どうしよう」
の方が大きかった。
だが。
レイはそんな事情を知らない。
「のだぁ……」
床に顔を押し付けながら呟く。
「ミレイぃ……」
「重いって」
「吾輩のこと忘れてぇ……」
「付き合ってないんだろ?」
「そうなのだぁ……」
「じゃあ別にいいだろ」
レイは数秒止まった。
そして。
「……確かにのだぁ」
急に冷静。
黒崎が呆れる。
「落ち着くの早」
「吾輩たち付き合ってないのだぁ」
「そうだな」
「なのに何故こんな気持ちに……」
「知らん」
レイは天井を見た。
「芸能界怖いのだぁ……」
「お前の情緒が怖い」
その時。
スマホ通知。
レイが見る。
そして。
目が光る。
「のだっ」
「嫌な予感」
「神谷ドラマグッズ高騰してるのだぁ」
「話変わるの早!!」
「今なら限定アクスタがぁ♡」
「お前本当にブレねえな」
レイは即復活した。
「神谷ぁ♡」
「何」
「サイン入りグッズ余ってないのだぁ?」
「転売する気?」
「市場調査なのだぁ♡」
「最低」
ハルはまた笑っていた。
黒崎は疲れた顔。
神谷は静かにため息。
だが。
その空気はどこかいつも通りだった。
種馬ズ。
今日も平和に、
騒がしかった。




