21
半年後。
東京ドーム。
満員。
五万人超。
ペンライトの海。
歓声。
熱気。
巨大スクリーン。
そして中央ステージ。
そこに立っているのは――
種馬ズ。
半年前。
まだ「変な名前のグループ」扱いされていた男たち。
今や。
ドームを埋めていた。
芸能界は本当に分からない。
開演前。
会場内ではずっと種馬ズの曲が流れている。
『種馬も辛い』
『本日の放牧終了』
『残業ララバイ』
『馬小屋ロマンス』
そして。
物販列。
相変わらず地獄。
「レイうちわ完売です!!」
「えええええ!!」
「追加列こちらでーす!!」
「ニンジンペンライト残り少ないです!!」
「神谷の“無言アクスタ”ください!!」
「黒崎の謝罪タオル二枚!!」
「ハルの“おつかれ牧草クッション”ありますか!?」
完全に意味不明。
だが。
売れる。
異常に売れる。
そして。
ステージ裏。
レイ。
「のだぁ……」
モニターを見ていた。
五万人。
ペンライト。
歓声。
全部自分たちを待っている。
半年前のレイなら、
普通に腰抜かしていた。
だが今。
「のだっ♡」
ニヤリ。
完全に慣れていた。
いや。
慣れてしまった。
「ドームなのだぁ♡」
「すごいな」
黒崎が少し笑う。
神谷は静かにステージ袖を見ていた。
ハルはずっとソワソワしている。
「ねぇねぇ!五万人ってどれくらい!?」
「めちゃくちゃ多い」
「やばーーーい!!」
犬。
相変わらず犬。
その時。
開演SE。
ドームが揺れた。
「キャアアアアアアア!!!!」
爆音。
歓声。
スタッフ合図。
「本番入りまーす!!」
照明暗転。
レーザー。
炎。
巨大スクリーン。
そして。
ステージ中央から。
種馬ズ登場。
「うおおおおおおお!!!」
ドームが震えた。
レイがマイクを持つ。
白×金の豪華衣装。
長い脚。
派手な笑顔。
そして。
「のだぁあああああ!!!!」
ドーム級絶叫。
「のだぁ!のだぁ!」
歓声。
「見えますのだぁ!?」
「うおおおお!!」
「世界一可愛い吾輩ですのだぁ!!!」
「キャアアアア!!」
「グッズ買いましたのだぁ!?」
会場爆笑。
「吾輩たちの餌代を払うのは飼い主の義務なのだぁああ!!!」
「レイーーー!!」
「買ったーー!!」
「のだっ♡」
完全にドーム慣れしている。
だが。
その横。
黒崎はいつものように笑顔で手を振っていた。
神谷は静かに視線を送るだけで歓声が上がる。
ハルはぴょんぴょん跳ねていた。
四人とも。
ちゃんとアイドルだった。
レイはドヤ顔で叫ぶ。
「じゃあ新曲ぅ!!!」
ドーム暗転。
スクリーン。
タイトル表示。
『愛しの人参』
会場歓声。
だが。
イントロが始まると、
空気が少し変わった。
優しいギター。
少し古い感じのメロディ。
昭和歌謡っぽい。
そして。
歌い始める。
⸻
【黒崎】
安いスーパーの帰り道
二人で分け合うコロッケひとつ
君が笑うその横で
今日は少しだけ幸せだった
⸻
【神谷】
狭い部屋と古いテーブル
窓の隙間 ちょっと寒い夜
それでも君がいるだけで
不思議と悪くない気がした
⸻
ドーム。
静かだった。
皆ちゃんと聞いている。
この曲。
タイトルはふざけている。
だが。
歌詞は真っ直ぐだった。
貧しい。
余裕がない。
でも。
二人でなんとか生きている。
そんな歌。
⸻
【ハル】
給料日前のコンビニで
半額シールを探してた
「今日はこれでいいよね」って
笑う君が好きだった
⸻
客席。
泣いてる人がいた。
「なんでぇ……」
「人参なのにぃ……」
そして。
センター。
レイ。
ライトが落ちる。
静かな声。
⸻
【レイ】
のだぁ……♩
高い指輪はないけれどぉ〜♩
君の好きな人参くらいぃ〜♩
毎日ちゃんと買うのだぁ〜♩
だから隣にいてほしいのだぁ〜♩
⸻
歓声。
レイは少しだけ切なそうな顔で歌っていた。
普段。
うるさい。
俗っぽい。
転売。
媚び。
小物。
なのに。
歌になると。
妙に感情が乗る。
そこが厄介だった。
⸻
【全員】
愛しの人参
今日も半分こ
派手じゃなくても
君が笑えばいい
ボロい毎日でも
手を繋げば少し暖かい
⸻
ドーム。
ペンライトが揺れる。
観客たちは、
ちゃんと聞いていた。
何故か。
種馬ズの曲は。
ふざけているのに。
生活感がある。
だから妙に刺さる。
⸻
【レイ】
のだぁ〜〜♩
お金は大事なのだぁ〜〜♩
でも君が泣く方がぁ〜〜♩
もっと嫌なのだぁ〜〜♩
⸻
「キャアアアアア!!!」
レイ、
ドームを見渡す。
五万人。
歓声。
光。
そして。
少しだけ笑った。
半年前。
小さい箱だった。
グッズ余ってた。
転売価格を自分で見てニヤニヤしていた。
なのに今。
ドーム。
人生、本当に分からない。
曲が終わる。
静寂。
そして。
爆発みたいな歓声。
「種馬ズーーーー!!!」
「レイーーーーー!!!」
「愛してるーーー!!!」
レイは汗だくのまま笑った。
「のだっ♡」
そして。
マイクを持ち。
満面の笑みで叫ぶ。
「新曲グッズもちゃんと買うのだぁ♡」
「台無しーーー!!!!」
ドームが笑いに包まれた。




