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種馬ズ  作者: 雪だるま
第一章

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23/59

21

半年後。


東京ドーム。


満員。


五万人超。


ペンライトの海。


歓声。


熱気。


巨大スクリーン。


そして中央ステージ。


そこに立っているのは――


種馬ズ。


半年前。


まだ「変な名前のグループ」扱いされていた男たち。


今や。


ドームを埋めていた。


芸能界は本当に分からない。


開演前。


会場内ではずっと種馬ズの曲が流れている。


『種馬も辛い』


『本日の放牧終了』


『残業ララバイ』


『馬小屋ロマンス』


そして。


物販列。


相変わらず地獄。


「レイうちわ完売です!!」


「えええええ!!」


「追加列こちらでーす!!」


「ニンジンペンライト残り少ないです!!」


「神谷の“無言アクスタ”ください!!」


「黒崎の謝罪タオル二枚!!」


「ハルの“おつかれ牧草クッション”ありますか!?」


完全に意味不明。


だが。


売れる。


異常に売れる。


そして。


ステージ裏。


レイ。


「のだぁ……」


モニターを見ていた。


五万人。


ペンライト。


歓声。


全部自分たちを待っている。


半年前のレイなら、

普通に腰抜かしていた。


だが今。


「のだっ♡」


ニヤリ。


完全に慣れていた。


いや。


慣れてしまった。


「ドームなのだぁ♡」


「すごいな」


黒崎が少し笑う。


神谷は静かにステージ袖を見ていた。


ハルはずっとソワソワしている。


「ねぇねぇ!五万人ってどれくらい!?」


「めちゃくちゃ多い」


「やばーーーい!!」


犬。


相変わらず犬。


その時。


開演SE。


ドームが揺れた。


「キャアアアアアアア!!!!」


爆音。


歓声。


スタッフ合図。


「本番入りまーす!!」


照明暗転。


レーザー。


炎。


巨大スクリーン。


そして。


ステージ中央から。


種馬ズ登場。


「うおおおおおおお!!!」


ドームが震えた。


レイがマイクを持つ。


白×金の豪華衣装。


長い脚。


派手な笑顔。


そして。


「のだぁあああああ!!!!」


ドーム級絶叫。


「のだぁ!のだぁ!」


歓声。


「見えますのだぁ!?」


「うおおおお!!」


「世界一可愛い吾輩ですのだぁ!!!」


「キャアアアア!!」


「グッズ買いましたのだぁ!?」


会場爆笑。


「吾輩たちの餌代を払うのは飼い主の義務なのだぁああ!!!」


「レイーーー!!」


「買ったーー!!」


「のだっ♡」


完全にドーム慣れしている。


だが。


その横。


黒崎はいつものように笑顔で手を振っていた。


神谷は静かに視線を送るだけで歓声が上がる。


ハルはぴょんぴょん跳ねていた。


四人とも。


ちゃんとアイドルだった。


レイはドヤ顔で叫ぶ。


「じゃあ新曲ぅ!!!」


ドーム暗転。


スクリーン。


タイトル表示。


『愛しの人参』


会場歓声。


だが。


イントロが始まると、

空気が少し変わった。


優しいギター。


少し古い感じのメロディ。


昭和歌謡っぽい。


そして。


歌い始める。


⸻


【黒崎】


安いスーパーの帰り道

二人で分け合うコロッケひとつ


君が笑うその横で

今日は少しだけ幸せだった


⸻


【神谷】


狭い部屋と古いテーブル

窓の隙間 ちょっと寒い夜


それでも君がいるだけで

不思議と悪くない気がした


⸻


ドーム。


静かだった。


皆ちゃんと聞いている。


この曲。


タイトルはふざけている。


だが。


歌詞は真っ直ぐだった。


貧しい。


余裕がない。


でも。


二人でなんとか生きている。


そんな歌。


⸻


【ハル】


給料日前のコンビニで

半額シールを探してた


「今日はこれでいいよね」って

笑う君が好きだった


⸻


客席。


泣いてる人がいた。


「なんでぇ……」


「人参なのにぃ……」


そして。


センター。


レイ。


ライトが落ちる。


静かな声。


⸻


【レイ】


のだぁ……♩


高い指輪はないけれどぉ〜♩

君の好きな人参くらいぃ〜♩


毎日ちゃんと買うのだぁ〜♩

だから隣にいてほしいのだぁ〜♩


⸻


歓声。


レイは少しだけ切なそうな顔で歌っていた。


普段。


うるさい。


俗っぽい。


転売。


媚び。


小物。


なのに。


歌になると。


妙に感情が乗る。


そこが厄介だった。


⸻


【全員】


愛しの人参

今日も半分こ


派手じゃなくても

君が笑えばいい


ボロい毎日でも

手を繋げば少し暖かい


⸻


ドーム。


ペンライトが揺れる。


観客たちは、

ちゃんと聞いていた。


何故か。


種馬ズの曲は。


ふざけているのに。


生活感がある。


だから妙に刺さる。


⸻


【レイ】


のだぁ〜〜♩

お金は大事なのだぁ〜〜♩


でも君が泣く方がぁ〜〜♩

もっと嫌なのだぁ〜〜♩


⸻


「キャアアアアア!!!」


レイ、

ドームを見渡す。


五万人。


歓声。


光。


そして。


少しだけ笑った。


半年前。


小さい箱だった。


グッズ余ってた。


転売価格を自分で見てニヤニヤしていた。


なのに今。


ドーム。


人生、本当に分からない。


曲が終わる。


静寂。


そして。


爆発みたいな歓声。


「種馬ズーーーー!!!」


「レイーーーーー!!!」


「愛してるーーー!!!」


レイは汗だくのまま笑った。


「のだっ♡」


そして。


マイクを持ち。


満面の笑みで叫ぶ。


「新曲グッズもちゃんと買うのだぁ♡」


「台無しーーー!!!!」


ドームが笑いに包まれた。

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