22 種馬ズ ファンネーム決定会議回
スターライト・クリエイティブ会議室。
空気は重かった。
机の上には大量の資料。
ライブ売上。
グッズ報告。
スポンサー案件。
そして中央。
大きく表示された議題。
【種馬ズ ファンネーム決定会議】
地獄である。
そもそも。
普通のアイドルグループなら、
もっと平和な名前になる。
「○○ちゃんず」
「○○crew」
「○○lover」
みたいな感じだ。
だが。
種馬ズである。
全部がおかしくなる。
会議開始三十分後。
すでに空気は終わっていた。
「だから“飼い主”は危険ですって!」
「でもファン側がもう使ってます!」
「“種牡馬オーナー”も危ないだろ!!」
「“シンジケート”は意味分かんないです!!」
「競馬界隈は理解します!」
「アイドル界隈が理解しねえよ!!」
スタッフたちが頭を抱えていた。
原因はもちろん。
ファンたちである。
最近。
種馬ズファンたちは勝手に自分たちを呼び始めていた。
『飼い主』
『種牡馬オーナー』
『シンジケート』
地獄。
しかも。
全部それなりに浸透している。
SNS。
『今日も種馬ズ最高だった♡ #飼い主集合』
『オーナー席神すぎた』
『シンジケート会議(オタク飲み会)』
完全に終わっていた。
しかも。
ファン同士で派閥まで出来始めている。
「“飼い主”はアイドルを下に見てる感じがして嫌」
「いや種馬ズ側が餌代とか言ってるし」
「“シンジケート”が一番知的」
「競馬感強すぎる」
「“オーナー”は金持ち感ある」
「でも長い」
地獄。
その頃。
会議室端。
黒崎が静かに頭を抱えていた。
「……なんでこうなるんだ」
神谷は無言。
ハルは笑っていた。
「飼い主かわいいと思うけどな〜!」
「お前は何でもかわいいって言うだろ」
「えへへ!」
そして。
問題児。
レイ。
「のだぁ〜〜♩」
スマホを見ていた。
「おい」
「のだぁ?」
「お前も意見出せ」
レイは少し考えた。
そして。
「市場規模的には“オーナー”が高級感あるのだぁ」
「市場規模って言うな」
「“飼い主”は親しみやすいのだぁ」
「急にマーケティング始めるな」
「“シンジケート”は賢そうなのだぁ」
「全部浅い」
だが。
レイも実はちょっと悩んでいた。
何故なら。
ファンネームは、
グッズ展開に直結するから。
「のだぁ……」
真剣だった。
「ファンネームはブランドなのだぁ……」
「転売目線やめろ」
「将来プレミア化するのだぁ」
「全部そこに繋げるな」
その時。
若手女性スタッフが言った。
「でも“飼い主”って結構ファン受けいいですよ?」
「なんで?」
「レイ君が“餌代払うのだぁ♡”とか言ってるから」
全員。
静かにレイを見る。
レイ。
「のだっ♡」
ドヤ顔。
黒崎が遠い目をした。
「元凶いたわ」
神谷が静かに呟く。
「だいたいレイのせい」
「のだぁ!?」
ハルだけ笑っていた。
「でもレイ君っぽいよね〜!」
「吾輩、愛されてるのだぁ♡」
「飼育されてる側だけどな」
会議はさらに荒れた。
「“飼い主”はちょっと距離感危なくないですか!?」
「いや種馬ズに今更距離感を求めるな」
「“シンジケート”は意味分からなすぎる」
「でもコアファンは好きそう」
「“オーナー”は金払い良さそう」
「そこを基準にするな」
レイが急に立ち上がる。
「のだぁ!!!」
全員見る。
レイは真剣だった。
「大事なのはぁ!!!」
「……」
「グッズ化しやすいかどうかなのだぁ!!!」
「帰れ!!」
だが。
実際問題。
そこは大事だった。
飼い主Tシャツ。
飼い主パーカー。
飼い主会員証。
普通に売れそう。
恐ろしい。
会議室が混沌とする中。
ガチャ。
社長が入ってきた。
全員静止。
社長は静かに言う。
「まだ決まってねえの?」
「いやそれが……」
「“飼い主”派と“シンジケート”派が……」
社長は数秒黙った。
そして。
「飼い主でいいだろ」
即決。
「えっ」
「だって分かりやすいし」
「いやでもイメージが」
「種馬ズだぞ?」
全員黙る。
強い。
正論すぎる。
社長はコーヒーを飲みながら続けた。
「今更上品ぶるな」
「……」
「あとレイが“餌代”とか言ってるし」
全員またレイを見る。
レイ。
「のだっ♡」
社長は頷いた。
「決まり。飼い主」
終了。
会議終了。
強制終了。
スタッフたちは力なく椅子に沈んだ。
「……決まっちゃった」
「飼い主かぁ……」
「もう戻れないな」
その横で。
レイだけは目を輝かせていた。
「のだぁあああ!!!」
「うるせえ」
「飼い主限定グッズ作るのだぁあああ!!!」
「始まった」
「首輪風会員証なのだぁ♡」
「やめろ」
「餌袋型ポーチなのだぁ♡」
「やめろ!!」
「“今日も養ってくれてありがとうなのだぁ♡”Tシャツなのだぁ♡」
「お前本当に商魂が逞しいな」
ハルはケラケラ笑っていた。
神谷は静かに水を飲んでいる。
黒崎は頭を抱えていた。
だが。
その日の夜。
公式SNS。
【種馬ズファンネーム正式決定!】
【“飼い主”】
投稿から五分。
トレンド入り。
『飼い主決定おめでとう』
『終わってて好き』
『もう戻れない』
『シンジケート派だったけど認める』
『飼い主として一生養います』
そして。
レイはそれを見ながら、
静かに呟いた。
「のだぁ……」
「何」
田村が警戒する。
レイは真顔だった。
「“飼い主限定初期グッズ”って今から作れば将来プレミアなのだぁ」
「お前だけはブレねえな……」




