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翌朝。
ドラマ撮影現場。
空気が違った。
明らかに違った。
スタッフの動きが速い。
メイク班の声が大きい。
制作陣のテンションが高い。
スポンサー担当まで笑顔。
何故なら。
昨夜の視聴率。
37%。
テレビ局全体が祭り状態だからである。
現場モニター横では、
局員たちが未だに数字を見返していた。
「本当に37だ……」
「夢じゃない……」
「スポンサー追加来てる」
「配信もえぐい」
「海外配信問い合わせ来てます」
「マジかよ」
完全にお祭り。
そして何より変わったのは――
出演者たちのやる気だった。
若手女優陣。
全員、
異様に気合いが入っていた。
メイク濃度が上がっている。
肌管理も本気。
美容点滴。
睡眠。
食事制限。
髪ツヤ。
爪。
全部仕上げてきている。
何故なら。
「レイ主演作は跳ねる」
という空気が完全に出来上がったから。
つまり。
今この作品で目立てば、
自分も売れる可能性が高い。
芸能界はそういう場所である。
メイク室。
「今日アイライン変えた?」
「え、分かる?」
「めちゃくちゃ可愛い」
「ありがとう〜!」
「今日絶対盛りたい……」
「分かる」
空気が戦場。
笑顔。
でも全員本気。
しかも。
主演レイとの並びがSNSで切り抜かれる。
つまり。
画面映え競争が始まっていた。
一方。
主演。
佐藤レイ。
「のだぁ〜〜♩」
ソファで寝転がりながら、
スマホを見ていた。
いつも通りである。
田村が頭を抱えた。
「……お前ちょっとは緊張感持て」
「持ってるのだぁ」
「どこが」
レイは真顔でスマホを掲げた。
そこには。
大量のグッズ相場。
『初期レイ缶バッジ 48,000円』
『種馬ズデビュー記念チェキ 120,000円』
『焼きそばエンジェル時代アクスタ』
レイの目がギラギラしていた。
完全に投資家。
「むむっ……」
「何してんの」
「計画なのだぁ」
「嫌な予感しかしない」
レイは低い声で言った。
「うちわだけでは足りぬのだぁ……」
「やめろ」
「今こそぉ……」
レイの目が光る。
「初期グッズ放出計画なのだぁあああ!!!」
「お前本当にアイドルか!?」
レイは立ち上がった。
「考えてみるのだぁ!」
「考えたくない」
「デビュー初期グッズは供給が少ない!」
「うん」
「しかも今は吾輩が旬!!」
「嫌な予感しかしない」
「つまり今が売り時なのだぁ!!!」
「最低!!」
レイは完全に本気だった。
何故なら。
彼の中で芸能界は、
“価値を上げる場所”
だからである。
ドラマ。
ライブ。
番宣。
SNS。
全部。
「グッズ価格を上げるための宣伝活動」
くらいの感覚で見ている。
そのため。
レイの脳内では。
ドラマ撮影
↓
人気上昇
↓
市場高騰
↓
転売
という完璧な資本主義サイクルが完成していた。
「のだぁ……」
レイはスマホを見つめながら呟く。
「演技も大事なのだぁ」
「おっ」
「人気も大事なのだぁ」
「おっ?」
「でも本業はグッズ販売なのだぁ♡」
「終わってる」
レイは全く悪びれなかった。
「ドラマは広告なのだぁ」
「最低の認識」
「吾輩というブランド価値を高めるのだぁ」
「株式市場みたいに言うな」
その時。
若手女優たちがスタジオ入りしてきた。
全員かわいい。
しかも今日かなり仕上がっている。
肌ツヤ。
香り。
髪。
衣装合わせ前なのに気合いが違う。
レイはチラッと見た。
そして。
「のだぁ」
「何」
「皆、目が金なのだぁ」
「お前が言うな」
実際、
女優陣も必死だった。
売れたい。
跳ねたい。
ここで目立ちたい。
その空気を、
レイは妙に察する。
何故なら。
自分もかなり俗っぽいから。
「のだぁ……」
レイは少し感心した。
「皆頑張ってるのだぁ」
「お前も少しは頑張れ」
「吾輩も頑張ってるのだぁ!」
「どこが」
「市場分析なのだぁ!」
「転売を仕事にするな」
その時。
メイク担当が来た。
「レイくん入りまーす!」
「のだぁ〜〜」
レイは椅子に座った。
そして。
メイク中もスマホ。
「……」
「スマホ置いて」
「相場確認なのだぁ」
「閉じて」
「今熱いのだぁ」
「閉じろ」
レイは渋々スマホを置いた。
だが。
五秒後。
チラッ。
「見るな」
「のだぁ……」
完全に依存症だった。
その頃。
監督と脚本家は遠くから現場を見ていた。
「レイくん、今日も変だね」
「変ですね」
「でもカメラ回ると急に成立するんだよなぁ」
「そこなんですよね……」
不思議な男だった。
普段は。
転売。
媚び。
小物。
俗物。
なのに。
カメラ前に立つと、
妙に“見てしまう”。
そして本人は。
その理由を全く理解していない。
何故なら今も。
「むむっ……」
メイク中に。
『レイ初期アクスタ、海外需要あり』
という投稿を見て、
目を輝かせていたからである。
「のだぁあああ!!!」
「うるさい!!」
「海外市場なのだぁあああ!!!」
メイク室に、
田村の悲鳴が響いた。




