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種馬ズ  作者: 雪だるま
第一章

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20/57

18

深夜二時。


白鳥ミレイ宅。


静かだった。


本来なら。


人気女優・白鳥ミレイは、

今ごろ美容のためにしっかり睡眠を取っている時間である。


何故なら。


朝五時起き。


CM撮影。


雑誌。


ドラマ。


インタビュー。


番宣。


今のミレイも普通に売れっ子だった。


かなり忙しい。


しかも。


清純派は肌が命。


睡眠は重要。


なのに現在。


部屋の空気は最悪だった。


「……」


ミレイ、

無言。


ソファ前。


正座。


そこに。


193cm男がちんまり座っていた。


佐藤レイ。


「のだぁ?」


困惑している。


本気で困惑している。


「……おかしいのだぁ?」


ミレイ、

無言。


怖い。


「吾輩ぁ……」


レイは首を傾げた。


「今この国で最も数字を持ってるイケメンアイドルのはずなのだぁ?」


「……」


「これはなんなのだぁ?」


ミレイは静かに言った。


「何時だと思ってるの?」


「のだぁ……?」


「何時」


「二時くらいなのだぁ♡」


「そう」


笑顔。


怖い笑顔。


レイはちょっと縮こまった。


だが。


まだ状況を理解していない。


何故なら。


今日のレイは完全に浮かれていたからである。


視聴率37%。


祭り。


業界大騒ぎ。


SNS爆発。


うちわ高騰。


完全勝利。


そのテンションのまま。


「ミレイに褒めてもらうのだぁ♡」


という思考で深夜訪問した。


そして。


インターホン連打。


電話。


LINE。


『のだぁあああ!!37なのだぁあああ!!!』


最悪である。


しかもミレイ。


普通に寝ていた。


明日も仕事なのに。


その結果。


現在。


正座。


レイはまだ納得していなかった。


「のだぁ……」


「何」


「普通ぅ……」


「うん?」


「こういう時ってぇ……」


レイはちょっとニコニコし始めた。


「“レイ君すごーい♡”ってなるのだぁ♡」


ミレイの笑顔が消えた。


「……なるほど?」


「のだっ♡」


「つまりアンタは」


「のだぁ?」


「深夜二時に人を叩き起こして」


「のだぁ♡」


「視聴率自慢しに来たの?」


静止。


レイは少し考えた。


「……のだっ♡」


「殺意湧く♡」


「のだぁああああ!?!?」


ミレイはクッションを投げた。


ベシィッ!!


「痛いのだぁ!!」


「私今日五時起きなんだけど」


「のだぁ……」


「しかも昨日三時間しか寝てないんだけど」


「のだぁ……」


「なのに“うちわが高騰してるのだぁ♡”って電話してきたよね?」


「嬉しかったのだぁ……」


「知るか♡」


レイはしょんぼりした。


だが。


数秒後。


「でも37なのだぁ……」


ボソッ。


ミレイの眉がピクッと動く。


「……まだ言う?」


「だってぇ……」


レイは正座したままモジモジした。


「すごいのだぁ……」


「……」


「吾輩、自分でもびっくりしてるのだぁ……」


その声だけは少し本音っぽかった。


ミレイはため息をついた。


そしてソファにもたれかかる。


疲れていた。


普通に。


仕事が忙しい。


最近ずっと寝不足。


しかも今、

レイも売れすぎているので、

変なスキャンダルも怖い。


なのに本人は。


「のだぁ♡」


深夜テンションで突撃してくる。


本当に大型犬。


しかもバカ。


ミレイは額を押さえた。


「……アンタほんと今危ない立場なの分かってる?」


「のだぁ?」


「週刊誌」


「のだっ」


「ファン」


「のだっ」


「事務所」


「のだっ」


「全部今アンタ見てるからね?」


レイは少し黙った。


だが。


「だから急いでうちわ売ろうとしたのだぁ」


「最低」


「スキャンダル前が高値なのだぁ」


「本当に最低」


ミレイは笑ってしまった。


悔しいが面白い。


レイはニコッとした。


「のだっ♡」


「調子乗るな♡」


またクッション飛来。


ベシィッ!!


「のだぁ!!」


レイは頭を押さえた。


「暴力反対なのだぁ!!」


「深夜二時訪問反対♡」


「祝福が欲しかったのだぁ……」


「LINEで済ませろ♡」


レイはしゅんとした。


かなりしゅんとしている。


その様子を見て、

ミレイは少しだけ笑った。


「……で?」


「のだぁ?」


「実際どうなの。37」


レイは数秒黙った。


そして。


「……怖いのだぁ」


珍しく小さい声。


ミレイは少しだけ視線を向ける。


「また?」


「期待値上がるのだぁ」


「……」


「次コケたら終わりなのだぁ」


「芸能人っぽいこと言うじゃん」


「吾輩、芸能人なのだぁ」


「普段が普段だから忘れる♡」


レイはむくれた。


だが。


その後。


「でもぉ……」


ニヤァ。


「うちわは高騰するのだぁ♡」


「もう帰れ♡」


ミレイが立ち上がった。


レイ、

慌てる。


「のだぁ!?」


「終わり」


「褒めてほしいのだぁ!!」


「はいはいすごいすごい」


「雑なのだぁ!!」


「眠いの♡」


ミレイは本当に限界だった。


その時。


レイはモジモジしながら言った。


「……のだぁ」


「何」


「頭撫でてほしいのだぁ」


静止。


ミレイは数秒固まった。


「……は?」


「頑張ったのだぁ」


「……」


「いっぱい働いたのだぁ」


「……」


「偉いって言われたいのだぁ」


ミレイはしばらく黙っていた。


そして。


「……一分だけ」


「のだっ♡」


レイ、

秒速でソファへ移動。


ミレイの隣に座る。


完全に犬。


ミレイは呆れながら、

レイの頭をぐしゃぐしゃ撫でた。


「はいはい。頑張ったね」


「のだぁ〜〜♡」


「売れたねぇ」


「のだぁ〜〜♡」


「でも次また深夜来たら殺す♡」


「のだっ♡」


全然反省していなかった。

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