18
深夜二時。
白鳥ミレイ宅。
静かだった。
本来なら。
人気女優・白鳥ミレイは、
今ごろ美容のためにしっかり睡眠を取っている時間である。
何故なら。
朝五時起き。
CM撮影。
雑誌。
ドラマ。
インタビュー。
番宣。
今のミレイも普通に売れっ子だった。
かなり忙しい。
しかも。
清純派は肌が命。
睡眠は重要。
なのに現在。
部屋の空気は最悪だった。
「……」
ミレイ、
無言。
ソファ前。
正座。
そこに。
193cm男がちんまり座っていた。
佐藤レイ。
「のだぁ?」
困惑している。
本気で困惑している。
「……おかしいのだぁ?」
ミレイ、
無言。
怖い。
「吾輩ぁ……」
レイは首を傾げた。
「今この国で最も数字を持ってるイケメンアイドルのはずなのだぁ?」
「……」
「これはなんなのだぁ?」
ミレイは静かに言った。
「何時だと思ってるの?」
「のだぁ……?」
「何時」
「二時くらいなのだぁ♡」
「そう」
笑顔。
怖い笑顔。
レイはちょっと縮こまった。
だが。
まだ状況を理解していない。
何故なら。
今日のレイは完全に浮かれていたからである。
視聴率37%。
祭り。
業界大騒ぎ。
SNS爆発。
うちわ高騰。
完全勝利。
そのテンションのまま。
「ミレイに褒めてもらうのだぁ♡」
という思考で深夜訪問した。
そして。
インターホン連打。
電話。
LINE。
『のだぁあああ!!37なのだぁあああ!!!』
最悪である。
しかもミレイ。
普通に寝ていた。
明日も仕事なのに。
その結果。
現在。
正座。
レイはまだ納得していなかった。
「のだぁ……」
「何」
「普通ぅ……」
「うん?」
「こういう時ってぇ……」
レイはちょっとニコニコし始めた。
「“レイ君すごーい♡”ってなるのだぁ♡」
ミレイの笑顔が消えた。
「……なるほど?」
「のだっ♡」
「つまりアンタは」
「のだぁ?」
「深夜二時に人を叩き起こして」
「のだぁ♡」
「視聴率自慢しに来たの?」
静止。
レイは少し考えた。
「……のだっ♡」
「殺意湧く♡」
「のだぁああああ!?!?」
ミレイはクッションを投げた。
ベシィッ!!
「痛いのだぁ!!」
「私今日五時起きなんだけど」
「のだぁ……」
「しかも昨日三時間しか寝てないんだけど」
「のだぁ……」
「なのに“うちわが高騰してるのだぁ♡”って電話してきたよね?」
「嬉しかったのだぁ……」
「知るか♡」
レイはしょんぼりした。
だが。
数秒後。
「でも37なのだぁ……」
ボソッ。
ミレイの眉がピクッと動く。
「……まだ言う?」
「だってぇ……」
レイは正座したままモジモジした。
「すごいのだぁ……」
「……」
「吾輩、自分でもびっくりしてるのだぁ……」
その声だけは少し本音っぽかった。
ミレイはため息をついた。
そしてソファにもたれかかる。
疲れていた。
普通に。
仕事が忙しい。
最近ずっと寝不足。
しかも今、
レイも売れすぎているので、
変なスキャンダルも怖い。
なのに本人は。
「のだぁ♡」
深夜テンションで突撃してくる。
本当に大型犬。
しかもバカ。
ミレイは額を押さえた。
「……アンタほんと今危ない立場なの分かってる?」
「のだぁ?」
「週刊誌」
「のだっ」
「ファン」
「のだっ」
「事務所」
「のだっ」
「全部今アンタ見てるからね?」
レイは少し黙った。
だが。
「だから急いでうちわ売ろうとしたのだぁ」
「最低」
「スキャンダル前が高値なのだぁ」
「本当に最低」
ミレイは笑ってしまった。
悔しいが面白い。
レイはニコッとした。
「のだっ♡」
「調子乗るな♡」
またクッション飛来。
ベシィッ!!
「のだぁ!!」
レイは頭を押さえた。
「暴力反対なのだぁ!!」
「深夜二時訪問反対♡」
「祝福が欲しかったのだぁ……」
「LINEで済ませろ♡」
レイはしゅんとした。
かなりしゅんとしている。
その様子を見て、
ミレイは少しだけ笑った。
「……で?」
「のだぁ?」
「実際どうなの。37」
レイは数秒黙った。
そして。
「……怖いのだぁ」
珍しく小さい声。
ミレイは少しだけ視線を向ける。
「また?」
「期待値上がるのだぁ」
「……」
「次コケたら終わりなのだぁ」
「芸能人っぽいこと言うじゃん」
「吾輩、芸能人なのだぁ」
「普段が普段だから忘れる♡」
レイはむくれた。
だが。
その後。
「でもぉ……」
ニヤァ。
「うちわは高騰するのだぁ♡」
「もう帰れ♡」
ミレイが立ち上がった。
レイ、
慌てる。
「のだぁ!?」
「終わり」
「褒めてほしいのだぁ!!」
「はいはいすごいすごい」
「雑なのだぁ!!」
「眠いの♡」
ミレイは本当に限界だった。
その時。
レイはモジモジしながら言った。
「……のだぁ」
「何」
「頭撫でてほしいのだぁ」
静止。
ミレイは数秒固まった。
「……は?」
「頑張ったのだぁ」
「……」
「いっぱい働いたのだぁ」
「……」
「偉いって言われたいのだぁ」
ミレイはしばらく黙っていた。
そして。
「……一分だけ」
「のだっ♡」
レイ、
秒速でソファへ移動。
ミレイの隣に座る。
完全に犬。
ミレイは呆れながら、
レイの頭をぐしゃぐしゃ撫でた。
「はいはい。頑張ったね」
「のだぁ〜〜♡」
「売れたねぇ」
「のだぁ〜〜♡」
「でも次また深夜来たら殺す♡」
「のだっ♡」
全然反省していなかった。




