15 何も考えてない男、早乙女ハル
早乙女ハル。
20歳。
種馬ズメンバー。
担当カラー赤。
肩書きは“愛されキャラ”。
だが。
実際は。
かなりアホだった。
⸻
朝。
種馬ズ楽屋。
黒崎が台本を読んでいる。
神谷は静かにスマホ。
レイはソファで寝ながら、
「のだぁ……市場がぁ……」
と寝言を言っている。
いつもの光景。
そこへ。
ガチャ。
「おはよーーー!!」
ハルが入ってきた。
元気。
朝から元気。
しかも今日の私服。
馬。
パーカーに馬。
帽子にも馬。
靴下にも馬。
種馬ズに脳を侵食されていた。
黒崎が見る。
「……お前それ自前?」
「うん!」
「なんで?」
「なんかかわいかったから!」
深い理由ゼロ。
ハルはそういう男だった。
⸻
今日の仕事。
バラエティロケ。
商店街食べ歩き。
つまり。
ハル向きである。
「早乙女さん入りまーす!」
「はーい!」
スタッフ受けが異常に良い。
返事がでかい。
ニコニコしてる。
距離感が近い。
そのため、
現場でかなり可愛がられる。
なお本人は何も考えていない。
商店街到着。
カメラ回る。
「どうもー!種馬ズの早乙女ハルです!」
拍手。
歓声。
ハルは即座に手を振った。
「ありがとーー!!」
犬。
本当に犬。
商店街のおばちゃんが言う。
「あら〜テレビで見るより可愛い!」
「えへへ〜!」
「ちゃんとご飯食べてる?」
「いっぱい食べてます!」
「偉い偉い!」
完全に孫。
スタッフも笑っていた。
「ハルくん強いなぁ」
「空気柔らかくなるよね」
実際。
ハルは変な威圧感がない。
芸能人っぽいギラギラが薄い。
だから年配層に妙に刺さる。
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一軒目。
コロッケ屋。
「うわー!いい匂い!」
リアクションがデカい。
店主もちょっと嬉しそう。
「揚げたてだよ!」
「やったー!」
ハル、即食べる。
「……!」
数秒固まる。
スタッフ緊張。
そして。
「うまっっっ!!!」
満面の笑み。
「サクサク!!」
「肉汁すごい!!」
「幸せーー!!」
店主爆笑。
「いい食いっぷりだねぇ!」
リアクションが素直すぎる。
演技感がない。
そのため食レポ系スタッフから好かれる。
ただし。
語彙は弱い。
「どう美味しい?」
「なんか元気出る味!」
「具体的には?」
「おいしい!」
「うん」
そこは弱い。
⸻
移動中。
スタッフが聞く。
「ハルくんって昔からこんな感じ?」
「こんな感じです!」
「悩みとかないの?」
ハルは少し考えた。
「あるよ!」
「おっ」
「最近レイ君が僕のプリン食べる!」
スタッフ爆笑。
「また!?」
「三回目!」
「怒らないの?」
「怒った!」
「なんて?」
ハルは元気よく再現した。
「レイ君!!それ僕のだよ!!」
「かわいい」
「そしたら“のだぁ!?名前書いてなかったのだぁ!”って」
「想像できる」
ハルはケラケラ笑っていた。
怒っている感じが全然ない。
その辺も、
レイと妙に相性がいい理由だった。
レベル感が近い。
⸻
昼。
番組恒例ゲームコーナー。
「成功したら高級肉です!」
「やったーー!!」
ハル、大興奮。
なおルール説明はあまり聞いていない。
結果。
普通に失敗。
「えええええ!?!?」
「ハルくん説明聞いてた!?」
「なんとなく!」
「なんとなくでやるな!」
スタジオ大爆笑。
ハルは頭を抱えた。
「お肉ぅ〜〜!!」
本気で悔しそう。
演技ではない。
その素直さが妙に面白い。
⸻
休憩中。
ハルはスマホを見ていた。
種馬ズファンの投稿。
『ハルくん今日もかわいい』
『癒された』
『種馬ズで一番平和』
ハルはニコニコしていた。
「うれしいなぁ」
スタッフが聞く。
「エゴサするんだ?」
「ちょっとだけ!」
「嫌なコメントとか見る?」
「あるよ〜」
「気にする?」
ハルは少し考えた。
「ん〜〜」
そして。
「寝たら忘れる!」
「強い」
実際かなり強い。
メンタルがシンプルだから。
レイみたいに変に拗れない。
黒崎みたいに抱え込まない。
神谷みたいに静かに落ち込まない。
嫌なことがあっても、
ご飯食べて寝ると回復する。
動物に近い。
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夕方。
ロケ終了。
スタッフたちが口々に言う。
「ハルくんまた来てね!」
「はい!」
「楽しかった!」
「またお肉食べたい!」
欲望が素直。
車に乗り込む。
マネージャーが笑う。
「今日も好評だったな」
「ほんと?」
「SNSも反応いい」
ハルは嬉しそうに笑った。
その時。
グループLINE通知。
レイ:
『のだぁあああ!!吾輩の馬耳カチューシャ完売なのだぁああ!!』
黒崎:
『仕事終わったなら寝ろ』
神谷:
『お疲れ』
ハル:
『おつかれー!!』
そして数秒後。
ハル:
『今日お肉食べれなかった』
レイ:
『可哀想なのだぁ』
黒崎:
『あとで奢る』
ハル:
『やったーーー!!!』
即復活。
マネージャーは少し笑った。
早乙女ハル。
種馬ズの中で一番“普通にいいやつ”。
そして一番、
何も考えていない男だった。




