14 種馬ズ・神谷悠真。
朝六時。
種馬ズ・神谷悠真。
起床。
「……」
静かだった。
というより、
基本的に一人だと喋らない。
芸能人と思えないくらい喋らない。
だが。
顔は良い。
種馬ズは全員顔が良いグループである。
黒崎は王道。
レイは派手。
ハルは愛嬌系。
神谷は静かな雰囲気が強いタイプ。
そのため、
雑誌や広告だと妙に映える。
現在の神谷の仕事は。
香水ブランド撮影。
ファッション誌。
そして単独インタビュー。
つまり。
コミュ症にはかなり厳しい日である。
「……はぁ」
神谷は静かにため息をついた。
マネージャーが言う。
「今日も頑張ろうな」
「……はい」
声が小さい。
だが仕事はちゃんとやる。
神谷はそういうタイプだった。
⸻
撮影スタジオ。
女性スタッフたちがざわつく。
「神谷さん入りまーす」
「おはようございます」
神谷は軽く頭を下げた。
静か。
落ち着いている。
その空気感が妙に芸能人っぽい。
だが実際は。
(人多い……)
普通に緊張していた。
ヘアメイク開始。
神谷は大人しく座っている。
ほぼ動かない。
メイクスタッフが言う。
「神谷くんって本当に肌綺麗だよね〜」
「……ありがとうございます」
「普段何かしてるの?」
「……寝てます」
「かわいい〜」
(早く終わってほしい)
神谷は心の中で思っていた。
だが顔には出ない。
無表情寄りだからである。
そのせいで。
周囲は勝手に、
「ミステリアス」
「クール」
「落ち着いてる」
と解釈する。
実際はただのコミュ症。
⸻
撮影開始。
カメラマンが言う。
「ちょっと目線ください」
神谷、見る。
「いいね!」
「顎少し引いて〜」
神谷、引く。
「うわ、かっこいい」
「ありがとうございます」
撮影は強い。
喋らなくていいから。
むしろ静かな空気がプラスになる。
スタッフたちも感心していた。
「神谷くんって撮影入ると空気変わるよね」
「分かる」
「存在感ある」
だが。
インタビュー時間。
地獄開始。
ライターが笑顔で聞く。
「最近ハマってることは?」
「……観葉植物です」
「へぇ〜!どんな?」
「……葉っぱの形が綺麗なやつです」
「そ、そうなんだ!」
終了。
空気が止まる。
神谷は本気で答えていた。
だが会話が広がらない。
本人も困っていた。
(終わった……)
するとライターが頑張る。
「お部屋とかどんな感じなの?」
「……静かです」
「静か!」
「……落ち着きます」
「へぇ〜〜」
頑張っている。
お互いに。
神谷もちゃんと分かっていた。
自分がこういう場に弱いことを。
だからこそ。
できるだけ真面目に答える。
適当にはしない。
でも広がらない。
悲しい。
⸻
昼。
移動車。
神谷、ぐったり。
マネージャーが笑う。
「疲れた?」
「……ちょっと」
「でも今日かなりいい感じだったよ」
「……本当ですか」
「うん。自然体で」
神谷は少し安心した。
その時。
スマホ通知。
種馬ズグループLINE。
レイ:
『のだぁあああ!!!吾輩のうちわまた値上がりしたのだぁあああ!!!』
ハル:
『すごーい!』
黒崎:
『仕事しろ』
神谷:
『移動中です』
レイ:
『神谷ぁ♡お主の無言ブロマイドも売れてるのだぁ♡』
神谷は少し考えた。
そして。
『なんで無言なのに売れるんだろ』
数秒後。
レイ:
『顔なのだぁ♡』
ハル:
『顔だね!』
黒崎:
『顔だな』
神谷:
「……」
否定できなかった。
⸻
午後。
今度はブランドイベント。
記者。
カメラ。
フラッシュ。
神谷は静かに立っていた。
司会者が聞く。
「神谷さん、香りのこだわりは?」
「……落ち着く香りが好きです」
「例えば?」
「……木っぽいやつ」
「木っぽいやつ!」
会場が少し和む。
神谷は内心、
(終わった)
と思っていた。
だが意外と記者ウケは悪くない。
何故なら。
変に喋りすぎないから。
無理してキャラを作らないから。
結果。
「自然体」
「静かな雰囲気」
「誠実そう」
みたいに解釈される。
芸能界は時々勘違いで回っている。
⸻
夜。
最後の仕事。
生配信。
これが一番苦手。
コメントが流れる。
『神谷くーん!』
『今日もかっこいい!』
『喋ってー!』
神谷、
数秒止まる。
「……こんばんは」
コメント欄爆速。
『声好き』
『今日疲れてる?』
『かわいい』
『無理しないでね』
神谷は少し安心する。
この空気は嫌いじゃない。
一対一じゃないから。
コメント越しだから。
少し距離があるから。
その時。
コメント。
『レイくんいないの?』
神谷は少し考えた。
そして。
「……今たぶん転売価格見てます」
コメント欄大爆笑。
『草』
『絶対見てる』
『種馬ズ平和すぎる』
神谷は少しだけ笑った。
ほんの少し。
その瞬間。
コメント欄。
『笑った!!』
『レア!!』
『今の保存した』
『かわいい』
神谷は即真顔に戻った。
「……やめてください」
だが耳が少し赤かった。
コミュ症イケメン神谷悠真。
今日もなんとか、
芸能界を生き延びていた。




