13 黒崎蓮・謝罪記録
黒崎蓮・謝罪記録
― 種馬ズの良心、今日も頭を下げる ―
種馬ズリーダー・黒崎蓮。
24歳。
高身長。
低音ボイス。
王道イケメン。
ファンサ丁寧。
歌唱力安定。
普通なら、
もっとキラキラしたアイドル人生を歩んでいてもおかしくなかった男である。
だが現実。
現在の黒崎の主な仕事は――
謝罪である。
しかも本人は基本怒らない。
理由はシンプル。
「アイドルは怖がられたら終わり」
というプロ意識があるから。
そのため、
ファンの問題行為に対しても、
黒崎本人が感情的になることはほぼない。
実際の対応は全部会社スタッフに投げる。
本人はあくまで“優しいアイドル”を崩さない。
その代わり。
とにかく謝る。
とにかく頭を下げる。
その結果。
最近では謝罪フォームが異様に綺麗になっていた。
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■ 第一回・「種馬ズって名前どうなんですか?」事件
デビュー直後。
雑誌インタビュー。
記者から直球質問。
「グループ名についてはどう思われますか?」
空気が凍る。
ハル、ニコニコ。
神谷、無言。
レイ、
「のだっ♡良い名前なのだっ♡」
黒崎だけが未来を察していた。
数秒考えた後。
「……インパクトはありますよね」
神回避。
炎上回避。
なお翌日、
社長が酔って決めた事実をレイがラジオでバラしかけた。
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■ 第二回・レイ転売監視事件
楽屋で。
レイ、
ライブ本番5分前にも関わらず転売サイト監視。
しかも。
「吾輩のうちわ今八万なのだぁ♡」
と笑顔。
それをファンに盗撮される。
SNS炎上。
『アイドル本人が転売価格喜んでる』
『終わってる』
『でも面白い』
地獄。
翌日。
黒崎、
公式配信で静かに頭を下げる。
「応援してくださる皆さんに、ちゃんと正規ルートで楽しんでもらえるようにしたいと思ってます」
完璧。
優しい。
柔らかい。
なお隣でレイは、
「市場は生き物なのだぁ」
とか言っていた。
黒崎は笑顔を維持した。
プロである。
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■ 第三回・空港追跡騒動
種馬ズ人気爆発後。
空港に大量ファン。
追跡。
盗撮。
押し合い。
一般客から苦情。
事務所大慌て。
スタッフ激怒。
だが黒崎は怒らない。
何故なら。
「ファンに怖がられたくない」
から。
そのため。
動画配信。
「来てくれるのは嬉しいです。でも危ないから、ちゃんと安全第一でお願いします」
声が優しい。
表情も柔らかい。
コメント欄。
『黒崎くん優しい……』
『ちゃんと注意してくれるの好き』
『怒鳴らないの安心する』
なお裏では。
スタッフが普通に警備強化していた。
黒崎はその辺には触れない。
夢を壊さない。
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■ 第四回・“種馬も辛い”既婚者人気暴走事件
『種馬も辛い』が妙に既婚女性へ刺さる。
結果。
「黒崎くんに湿布貼りたい」
「ご飯作ってあげたい」
「幸せになって」
などのコメント急増。
ついには。
ライブで本当に湿布を投げ込むファン出現。
スタッフ騒然。
レイ爆笑。
「のだぁっはっはっは!!本当に貼ろうとしてるのだぁ!!」
最低。
黒崎は苦笑しながら言った。
「気持ちはありがたいですけど、投げるのは危ないのでやめましょうね」
優しい。
しかも少し照れてる感じ。
結果。
さらに既婚女性人気増加。
地獄。
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■ 第五回・レイ暴走型生配信事故
深夜配信。
レイ、
テンションがおかしかった。
「吾輩ぁ!将来的には限定うちわを資産としてぇ!」
黒崎、
即座に察する。
「あー!次の曲の話しよう!」
「プレミア価格がぁ!」
「ハル今日何食べた?」
「オムライス!」
「神谷最近どう?」
「観葉植物」
力技。
完全に火消し。
なおレイは。
「市場経済の話をぉ!」
と暴れていた。
配信後。
黒崎は静かに水を飲んでいた。
スタッフに、
「……寿命縮みました?」
と聞かれ。
「ちょっと」
と答えた。
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■ 黒崎の基本方針
黒崎は、
ファンに対して基本かなり優しい。
だが。
実は線引きはしっかりしている。
危険行為。
迷惑行為。
ストーカー行為。
その辺はちゃんと会社スタッフへ回す。
本人は直接怒らない。
“怖いアイドル”になりたくないから。
なので実際は、
黒崎「みんな仲良くね」
↓
スタッフ「出禁です」
みたいな構造になっている。
かなり芸能人慣れしていた。
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■ 最近の黒崎
最近はもう、
謝罪しすぎて逆に安定感が増していた。
ライブMC。
「今日は来てくれてありがとうございます」
ペコリ。
「帰り気をつけてね」
ペコリ。
「転売はダメですよ〜」
ペコリ。
「レイがすみません」
ペコリ。
観客、
「黒崎くーーーん!!」
「幸せになってーー!!」
もはや保護者。
だが。
黒崎本人は。
別に自己犠牲精神でやってるわけではない。
単純に。
「感情的に怒るとアイドルとして損」
という冷静な判断で動いている。
なので。
レイみたいな問題児にも、
意外と本気でキレない。
「……まあレイだし」
で済ませる。
ある意味、
一番芸能界向きの男なのかもしれなかった。




