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種馬ズ  作者: 雪だるま
第一章

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12

白鳥ミレイのマンション。


都内高級タワー。


オートロック三重。


セキュリティ完備。


芸能人御用達。


そして現在。


その部屋のソファでは。


「のだぁ〜〜♩」


佐藤レイが寝転がっていた。


しかも。


白鳥ミレイの膝の上で。


完全に猫。


193cmの大型猫。


最悪である。


もしファンが知れば、

SNSが三日ほど燃える。


種馬ズファンが暴れる。


週刊誌が狂喜乱舞する。


だが当人たちは。


普通にダラダラしていた。


「重いんだけど♡」


ミレイが雑誌を読みながら言う。


「のだぁ〜〜」


レイは動かない。


むしろさらに頬擦りしていた。


「吾輩は疲れてるのだぁ……」


「最近ずっと働いてるもんね〜」


「寝不足なのだぁ……」


「なのに転売価格は見るんだ?」


「当然なのだぁ♡」


最低だった。


ミレイは笑った。


「ほんと終わってるよね、レイ君」


「芸能界を生き抜く知恵なのだぁ」


「その知恵いらない♡」


レイはソファに転がりながら、

新ドラマの台本を読んでいた。


表紙には大きくタイトル。


ゴールデン帯。


大型予算。


超有名脚本家。


超豪華キャスト。


スポンサー大量。


テレビ局が本気で“次の国民的ドラマ”を狙いにきている空気が伝わる。


しかも主演。


佐藤レイ。


完全に“主演前提”で企画が進んでいた。


レイはページをめくる。


「ふむふむ」


真面目に読んでいる。


珍しい。


「のだのだぁ……」


「ちゃんと読んでるじゃん」


「吾輩だって仕事はするのだぁ」


「たまにね♡」


ミレイはレイの髪を適当に触っていた。


完全に距離感がおかしい。


だが。


二人とも芸能人なので、

外では絶対にこの空気を出さない。


バラエティでは営業距離。


SNSでは匂わせ無し。


なのに裏ではこんな感じ。


芸能界は怖い。


その時。


レイの目が光った。


「むむっ」


「どうしたの?」


「正統派なのだぁ」


「今回?」


「のだぁ」


レイは台本を掲げた。


「王道恋愛ドラマなのだぁ」


「へぇ〜」


「しかも主要キャラ有名人だらけなのだぁ」


実際かなり豪華だった。


主演級俳優。


人気女優。


ベテラン。


旬の若手。


全部乗せ。


局が本気で金をかけている。


レイは数秒考えた。


そして。


ニヤァ……。


「ははーん?」


「あ、その顔嫌な予感」


「局は冒険から逃げたのだなぁ!?」


「失礼」


レイは急に元気になった。


「前回は低予算だったのだぁ!」


「うん」


「脚本も意味不明だったのだぁ!」


「うん」


「吾輩も代役の代役だったのだぁ!」


「そうだね」


「つまりぃ!」


レイはビシッと台本を指差した。


「今回はビビってるのだぁ!!!」


「言い方」


「“もしコケても豪華キャストのせいじゃないですよね?”って保険なのだぁ!!」


「芸能界に染まってきたね〜♡」


「のだぁっはっはっは!!」


レイは大爆笑した。


「大量投入するが良いのだぁ!!」


「最低」


「コケたらそいつらのせいにしてやるのだぁ♡」


「主演が言うな♡」


ミレイは笑いながら、

レイの額を軽く叩いた。


レイは全然反省していない。


むしろご機嫌だった。


「のだぁ〜〜」


またゴロゴロし始める。


「でもぉ」


「ん?」


「ちょっと怖いのだぁ」


珍しく静かな声。


ミレイが少しだけ視線を下げる。


「……何が?」


「期待値高いのだぁ」


「……」


「前は皆“どうせ低予算ラブコメ”って感じだったのだぁ」


「うん」


「だから失敗してもいい空気だったのだぁ」


レイは天井を見ながら呟く。


「でも今は違うのだぁ」


静かだった。


窓の外の夜景。


エアコンの音。


遠くの車。


ミレイは少しだけ優しくレイの頭を撫でた。


「プレッシャー?」


「のだぁ」


「珍しく芸能人っぽい悩みじゃん♡」


「吾輩、芸能人なのだぁ」


「普段が普段だから忘れる♡」


レイはむくれた。


「のだぁ……」


だが。


次の瞬間。


「でもぉ〜〜」


ニヤァ。


「もし成功したらぁ〜〜」


「うん?」


「吾輩のうちわ、十五万いくのだぁ♡」


「最低♡」


ミレイは笑いながらレイの頬を引っ張った。


「結局それ?」


「資本主義なのだぁ♡」


「ほんと俗っぽいよねレイ君」


「人間味なのだぁ!」


「欲望味だよ♡」


レイはケラケラ笑った。


そして。


再びミレイの膝に頭を乗せ直す。


「のだぁ」


「なに?」


「お主、オーディション受けなかったのだぁ?」


ミレイは少し笑った。


「受けてないよ」


「なんでなのだぁ?」


「だってまたレイ君相手だと絶対変な記事書かれるもん♡」


「のだっ!?」


「“熱愛再燃か”とか♡」


「面倒なのだぁ」


「でしょ?」


ミレイは笑顔のまま言った。


「あとぉ」


「のだぁ?」


「レイ君、今めちゃくちゃ面倒なファン多いし♡」


空気が止まる。


レイは真顔になった。


「……のだぁ」


「怖いねぇ♡」


「怖いのだぁ」


本音だった。


ミレイは笑った。


だが。


その笑顔の奥で。


ほんの少しだけ、

何かを考えるような目をしていた。


そして。


レイはそんな空気に全く気づかず。


「すぴー……」


また寝始めた。


「早っ」


ミレイは呆れながら、

眠るレイの髪をぐしゃぐしゃにした。


もしこの光景をファンが見れば大炎上だろう。


だが。


芸能界には。


絶対に表に出ない距離感というものが、

確かに存在していた。

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