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種馬ズ全国ツアー追加公演。
会場――超満員。
本来なら絶対に押さえられなかった規模のアリーナ。
ペンライトの海。
歓声。
熱気。
そして物販コーナー。
地獄だった。
「最後尾こちらでーす!!」
「押さないでくださーい!!」
「馬蹄型ペンライト売り切れです!!」
「ええええ!?」
「“種馬も辛い”湿布タオル残り僅か!!」
「黒崎の謝罪アクスタありますか!?」
「神谷の無言ブロマイドください!!」
「ハルの“おつかれニンジン”チャーム二個!!」
スタッフ全員が死にそうだった。
なお。
グッズは当然のように馬関連だらけである。
・馬蹄型ペンライト
・蹄鉄キーホルダー
・ニンジンクッション
・競馬新聞風パンフレット
・レイの「餌代くれなのだぁ♡」うちわ
・“種馬も辛い”湿布ケース
・馬小屋風小物入れ
・「本日の放牧終了」Tシャツ
もうアイドルグッズなのか牧場なのか分からない。
だが。
売れる。
異常に売れる。
特にレイ関連。
「レイのアクスタ一人三個まででーす!!」
「えええ!?」
「転売対策でーす!!」
その瞬間。
楽屋裏。
「のだぁあああああ!!!!!」
レイの絶叫。
「個数制限反対なのだぁあああ!!!」
「お前が言うな!!」
田村が叫ぶ。
だがレイは本気で怒っていた。
「市場が冷えるのだぁ!!!」
「冷やせ!!」
「熱狂は資産なのだぁ!!」
「アイドルとして最低!!」
レイはキラキラ衣装のまま床を転がった。
今日はライブ仕様である。
白×金のジャケット。
謎に王子っぽい装飾。
だが腰には馬の尻尾アクセサリー。
意味不明だった。
「のだぁ……」
レイはブツブツ言う。
「せっかく吾輩たちが育てた市場がぁ……」
「株みたいに言うな」
「転売ヤーとの戦いなのだぁ……」
「お前も転売ヤー側なんだよ!!」
一方その頃。
他メンバーはちゃんとアイドルしていた。
黒崎蓮。
今日も安定感が凄い。
ファンサが丁寧。
手を振る。
微笑む。
会釈する。
視線を合わせる。
しかも最近、
妙に“疲れた包容力”が増していた。
そのせいで既婚女性人気が異常。
「黒崎くーん!!」
「ありがとー!」
「ちゃんと寝てーー!!」
「みんなもねー!」
優しい。
安心感がある。
だが。
最近の黒崎は謝罪仕事が増えすぎて、
謝るフォームが異常に綺麗になっていた。
「本日は混雑してしまって本当にすみません」
ペコリ。
「転売行為はご遠慮ください」
ペコリ。
「グループ名に関しましては……その……」
ペコリ。
もはや芸術的謝罪。
スタッフからは、
「お辞儀だけで飯食える」
と言われ始めている。
その隣。
神谷悠真。
相変わらず顔が良い。
異様に良い。
照明を浴びるとほぼ彫刻。
だが本人は。
「……どうも」
喋らない。
ファンサはする。
微笑む。
視線を送る。
手を振る。
だが会話が続かない。
コミュ障だからである。
ただし。
本人は顔が良いことをちゃんと理解していた。
そのため。
「……」
無言。
でも成立する。
ファンが勝手に解釈する。
「キャアアア!!」
「見つめられた!!」
「無言だった!!」
「尊い!!」
神谷は内心思っていた。
(助かる……)
顔で生きている男である。
レイには以前、
「お主、顔面に甘えすぎなのだぁ」
と言われた。
神谷は否定できなかった。
そして。
早乙女ハル。
ニコニコ。
元気。
犬。
「ありがとーー!!」
「気をつけて帰ってねーー!!」
「うわっ!その馬耳かわいい!!」
愛嬌が強い。
だが。
実態は愛嬌というよりアホ。
そのためレイと異様に仲が良い。
「レイ君レイ君!」
「のだぁ?」
「これ見て!」
ハルが馬のおもちゃを頭に乗せていた。
「お馬さんだよ!」
「のだっ♡かわいいのだっ♡」
「えへへ!」
レベルが近い。
黒崎は遠い目をしていた。
神谷は無言で水を飲んでいた。
その時。
ライブ開演五分前。
メンバー整列。
歓声が漏れ聞こえる。
アリーナ全体が震えている。
レイはステージ袖から客席を見て、
ニヤァ……と笑った。
「のだぁ……」
目がギラギラしている。
「見ろなのだぁ」
「何を」
「人間がいっぱいなのだぁ♡」
「言い方」
「餌代を稼ぐ時なのだぁ♡」
黒崎が疲れた顔で微笑んだ。
だがツッコまない。
アイドルだからである。
神谷もツッコまない。
ハルはむしろ笑っていた。
「いっぱいニンジン買えるね!」
「のだっ♡」
「高い肉も食べれるのだっ♡」
「やったー!」
黒崎だけちょっと頭を抱えた。
だが。
もう慣れている。
ステージスタッフが合図する。
「本番入りまーす!」
暗転。
歓声爆発。
「キャアアアアアア!!」
その瞬間。
レイが両手を広げた。
「のだっ♡」
ニッコニコ。
「ライブが終わったらちゃんと吾輩たちの餌代のために買うのだっ♡」
「キャアアアア!!」
「レイーーー!!」
「買うーーー!!」
「転売するなよーーー!!」
「のだぁっはっはっはっは!!!」
大歓声。
レーザー。
爆音。
種馬ズは今日も、
意味不明な勢いのままステージへ飛び出していった。




