表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
種馬ズ  作者: 雪だるま
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/57

8

芸能事務所スターライト・クリエイティブ。


現在。


地獄だった。


「レイ君の出待ちがまた増えてます!!」


「種馬ズファン同士の揉め事がSNSで炎上してます!」


「空港写真の盗撮拡散されてます!!」


「地方ホテル特定されました!!」


「うちわ転売価格また上がってます!!」


「誰だよ限定色とか作ったの!!」


「レイです!!」


「なんでぇ!?」


会議室が悲鳴で満ちていた。


芸能界には“売れ始めが一番危ない”という言葉がある。


ファンの熱量。


事務所の未熟さ。


現場対応の不足。


全部が噛み合うと事故る。


今の種馬ズはまさにそれだった。


元々、

ここまで急激に人気が跳ねる想定ではなかった。


だから管理体制が追いついていない。


ライブ会場には徹夜組。


盗撮。


ホテル追跡。


メンバー同士の妄想カップリング戦争。


SNS晒し合い。


果てには。


「レイくんの飲んだ水のペットボトル15万円」


とかいう地獄みたいな出品まで出始めていた。


スタッフ全員が頭を抱えていた。


だが。


その頃。


元凶の一人であるレイは。


「のだぁああああ!!!」


楽屋で叫んでいた。


「野良転売ヤーには負けないのだぁあああ!!!」


「何の勝負だよ!!」


マネージャー田村が絶叫する。


だがレイは止まらない。


目がギラギラしていた。


完全に獣。


「アイドルが転売で一般人に負けてたまるかぁあああ!!!」


「お前アイドルだろ!!」


「だからなのだぁ!!!」


レイは机を叩いた。


「供給元が最強なのだぁ!!!」


「最悪の思想!!」


ちなみに。


今のレイは種馬ズで一番忙しい。


朝五時起き。


雑誌。


収録。


ラジオ。


CM。


ドラマ打ち合わせ。


ライブリハ。


SNS撮影。


取材。


移動。


睡眠三時間。


普通なら死んでいる。


だが。


転売の話になると急に元気になる。


「見ろなのだぁ!」


「見たくない」


「吾輩の初期アクスタ二十万円なのだぁ!!」


「もう嫌だこの世界」


レイはスマホを抱きしめた。


「愛されてるのだぁ……」


「違う方向でな」


だが実際、

人気は異常だった。


現在の種馬ズファン界隈はかなり荒れている。


古参ファン。


新規ファン。


ドラマから入った層。


ネタとして見てる層。


ガチ恋勢。


中年会社員。


既婚女性。


謎に演歌好きのおじさん。


ファン層が混沌としすぎていた。


しかもレイ本人が燃料を投下する。


SNSで余計なことを言う。


転売価格を見る。


ファンサが距離近い。


なのに妙に俗っぽい。


結果、

“リアルにいそう感”が強すぎて沼る人間が続出していた。


「レイくん最近寝れてるかな……」


「プリンちゃんと食べてるかな……」


「湿布送りたい……」


何故か母性本能を刺激していた。


一方で。


事務所は本当に限界だった。


会議室。


社長が静かに言う。


「……警備増やせ」


「予算が」


「増やせ」


「はい……」


「レイのSNS管理も強化」


「本人が勝手に投稿します」


「取り上げろ」


「暴れます」


社長は静かに天を仰いだ。


「なんで売れたんだあいつ……」


誰にも分からない。


その頃。


種馬ズは今日も仕事だった。


大型商業施設での公開収録。


人。


人。


人。


黄色い歓声。


カメラ。


警備員。


メンバーたちは疲れた顔をしながらも笑顔を作る。


黒崎は営業スマイル。


神谷は静かに会釈。


ハルはニコニコ手を振る。


そして。


レイ。


「のだぁあああ!!!」


元気だけは異常だった。


「ありがとなのだぁ!!!」


歓声。


「レイーーー!!」


「結婚してーーー!!」


「プリン買ってーーー!!」


「のだぁっ♡」


完全に調子に乗っている。


だが。


レイの脳内は半分別のことで埋まっていた。


(この限定タオル……)


チラッ。


(後で値段上がるのだぁ……)


最低である。


しかも。


収録中ですら転売市場を気にしていた。


司会者が話している横で、

レイが小声で呟く。


「むむっ……」


神谷が横目で見る。


「何してんの」


「市場確認なのだぁ」


「仕事中」


「今、限定グッズが高騰してるのだぁ」


「もう病気だろ」


ハルが笑う。


「レイ君ほんと好きだよね〜」


「資本主義なのだぁ♡」


「アイドルが言うな」


その時。


スタッフが青ざめながら駆け込んできた。


「大変です!!」


「のだぁ?」


「レイ君のアクスタを巡ってファン同士が揉めてます!!」


「また!?」


「“初期ビジュ至高派”と“最近の髪型派”で!!」


「なんだその戦争」


レイは少し考えた。


そして。


真顔で言った。


「初期はプレミアなのだぁ」


「煽るなァ!!!」


会場裏が地獄になる。


だが。


レイは本当に悪気が薄かった。


単純に。


「価値が上がる」


という現象に脳を焼かれているだけなのだ。


何故なら。


売れなかった時代が長かったから。


昔は誰も欲しがらなかった。


タオルも余った。


チェキも売れ残った。


ライブ後、

段ボールを見ながらため息をついた日もある。


だから今。


自分たちの商品に価値がついていることが、

レイには未だに信じられない。


「のだぁ……」


楽屋で、

レイはふと静かになった。


田村が見る。


「どうした」


「……不思議なのだぁ」


「何が」


「昔は無料で配ってたのにぃ……」


「……」


「今は皆お金払ってでも欲しいのだぁ」


少しだけ。


ほんの少しだけ。


本音だった。


だが。


次の瞬間。


「だから吾輩が転売するのだぁあああ!!!」


「感動返せ!!!!」


レイは再びスマホを掲げた。


目がギラギラしていた。


「野良転売ヤーに市場は渡さぬのだぁあああ!!!」


田村は静かに頭を抱えた。


「誰かこいつの資本主義を止めてくれ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ