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第2話

ヲタク落語家の春風亭吉好が古典落語『長短』をゆるふわ女子とツンデレ女子の百合ラノベとして大胆に改変しました。


気の長い性格の少女・長月なつきと気の短い性格の少女・短歌たんかは幼馴染。

おっとりしすぎている長月を放っておけない短歌は何かと世話を焼いている。

見た目も性格も何もかも正反対の2人だけれど、、、

 落語好きな親戚のおじさんが言っていた。お前たちは落語の『長短』みたいだなって。

 どんなお話? って聞いたら気の長い人と気の短い人、二人は気が合わないようで不思議と気が合う、そんな話だって。

 最初聞いた時はアタシ達そんなかなぁって思ってた。



熊谷(くまがい)―、熊谷―」

「はいっ!」


 二学期の中間テストの返却日。先生に呼ばれたアタシは前に出て答案用紙を受け取る。


「90点」

「やりぃ!」

「やりぃ! じゃないよ。相変わらず選択問題は一つずつズレてるし、名前を書き忘れてるぞ。消去法でお前とわかったが。合わせて減点10。それさえなけりゃ満点だったのにな」

「あちゃー」

「あちゃーじゃない。せっかく成績がいいんだからケアレスミスに気をつけなさい」

「はーい」


 クスクスとクラスメイトが笑う声が聞こえた。

 アタシは熊谷短歌(くまがいたんか)。割と珍しい名前だけど本名だ。

 名前のせいかアタシは気が短い。何をするにも急いでしまうし、喧嘩っ早い。

 だからか予習復習も家に帰ってすぐにしなきゃ気が済まない。そのお陰か好成績をキープしているけれどケアレスミスが多いのが玉にキズ。選択問題をあまり見ずに解くからよく選び間違いをする。


八村(はちむら)―、八村―」

「……むにゃ……」

「ほら、ちょうちゃん。呼んでるよ」

「むにゃ……あ、先生〜おはようございます〜」


 アタシの隣の席で居眠りしていたカノジョを起こす。

 カノジョは八村長月(はちむらなつき)。アタシは長の字を取ってちょうちゃんと呼んでいる。

 アタシとは生まれた時からの幼馴染で腐れ縁。アタシとは逆に気の長くトロいカノジョをアタシがなんとなく世話を焼いている。それだけ聞くとダメ人間のようだけどそうではない。


「90点。途中までは完璧なのに最後の設問だけ解けていないな」

「ん〜と、じっくり考えてたら時間なくなっちゃって〜」


 そう、気の長いちょうちゃんはアタシとは逆にテスト問題を熟考しすぎる。だからミスもないけど時間内に解き終わらない。


「まったく、『長短(ちょうたん)』コンビは2人合わされば完璧なのになぁ」


 そう先生が言った。アタシもそう思う時がある。でも2人が1人の人間だったらアタシはカノジョに会えなかったわけで。だからお互いの個性がある2人でいい。


「えへへ〜」

「何ニヤニヤしてんのよ?」

「先生が2人はお似合いだって〜」

「そんな事言ってないでしょっ!」


 ちょうちゃんがボケた事を言ったのでツッコむ。これがアタシとカノジョの日常だ。


 放課後、アタシ達はそれぞれの部活へ行く。幼馴染だが性質の逆なアタシ達は部活も違う。

 気が短く喧嘩っ早いアタシだから運動部と思われがちだがそうではない。アタシの部活は……。


「せおはやみー」

「ハイッ!」


 上の句を聞いて札を取る。正確には『せ』の時点で手は伸びていた。

 そう、アタシの入っている部活は競技かるた部だ。昔はなかったけれど某漫画のヒットのお陰でアタシが入学する数年前にできたらしい。

 短歌というアタシの名前を聞いた先輩から熱烈な勧誘をされて入部した。かるたに興味はなかったがやってみると意外とハマった。いち早く札を取る競技が気の短いアタシにぴったりだったのだ。


「すごいねー、熊谷さん。勧誘した甲斐あったわ。次の大会には出てもらおうかな」

「ホントっすか?」

「ホント、ホント。もうちょっとやってく?」

「あー……、スイマセン。行きたいところあるので」

「行きたい……ああ、愛しの眠り姫の勇姿を見に行くのね」

「愛しのって……。ただの幼馴染ですよ。じゃあ」


 不意に変なことを言われて少し顔が赤くなる。

 競技かるた部は割とゆるく大会前以外は自由参加だ。ちょうど先月末に大会が終わったばかりで、今はいつでも来て帰りたい時に帰っていい。

 部室を出たアタシは眠り姫ことちょうちゃんの部活へ向かう。授業中居眠りばかりしているから付いたあだ名が『眠り姫』。目を離すと昼休みもたまに中庭で居眠りしたりしているので先輩にもそう呼ばれるようになった。

 そんなちょうちゃんがいる部活は……。


 ストン


 アタシが入るとその空間は時が止まったようで、矢が的の中心に当たる音で世界の時が動き出すようだった。

 そう、アタシが今入った場所、ちょうちゃんが今までいた所は弓道場だった。ただし正式な部員じゃない。いわゆる助っ人だ。

 ちょうちゃんのお父さんは空手の道場をやっていてアタシ達は幼稚園の頃から通っている。と言ってもアタシは気が短いからチマチマした指導に耐えられず今では殆ど行っていない。

 一方ちょうちゃんはその気の長さからか反復練習を物ともしない。それだけでなく武道に必要な『間』の取り方が天才的なんだそうだ。相手が隙を見せるギリギリまで待てる。


 そのせいか空手だけでなく柔道、剣道、そして今やっている弓道まで武道のスペシャリストなのだ。まさか気の長さがそこに活きてくるとはビックリだけれど。

 家の道場があるから正式な部員にはならず、だけれども大会前などにお手本や指導役として駆り出されるわけだ。ちなみにこの弓道が個人的に一番性に合ってるらしい。相手じゃなく自分の間だけで待てばいいからとか。


「ちょうちゃん!」

「あ〜、たんちゃ〜ん」


 一息付いているちょうちゃんに声をかけると道着のままトコトコ駆け寄ってくる。カノジョはアタシをたんちゃんと呼ぶ。アタシはカッコ悪くて微妙だけど、子供の頃から呼んでるから変えられないとの事なのでちょうちゃんにだけ許している。他の奴には呼ばせないけどな!


「見てくれた〜?」

「うん。アタシは弓道の事はよくわからないけど……綺麗だった」

「えへへ〜」

「何よ?」

「そんな美人だなんて〜」

「姿勢が綺麗って話よ!」


 ヘラヘラしているちょうちゃんにツッコむ。いや、カノジョも誰より綺麗で美人と思っているけれども恥ずかしいから言ってやらない。


「こらこらー。部活中にイチャつくんじゃない」

「あ〜、部長〜」

「八村は相変わらずの上手さだな。あれだけ無心で的の中心を射ることできる奴はいないよ。正式な部員になってくれたら大会にも出てもらえるんだけどなぁ」

「ごめんなさい〜、ウチの道場があるので〜」

「ああ、そうだよな。部員達の見本になってもらえるだけで助かってるよ。大会も本戦には出られないけどその前のデモンストレーションは出てもらえるし」

「それもワタシでいいんでしょうか〜?」

「先生もいいって言ってるし私もそれがいいと思う。勝ち負けに関係ない所だし、八村さんが一番綺麗でお手本になるしね。デモンストレーションとしてはピッタリだよ。さ、ダンナも迎えにきた事だし今日は上がっていいよ」

「ありがとうございます〜。じゃあたんちゃん〜着替えてくるね〜」

「はいはい」


 弓道部の部長に言われ更衣室へ向かうちょうちゃん。待つ間アタシはその部長に話しかけた。


「アタシがダンナっすか」

「ヨメって柄じゃないでしょ」

「まぁ……。ちょうちゃんはどうですか?」

「ああ、助かってるよ。正直部長の私よりもずっと上手い。できたら部員になってもらいたいところだけど家の事情じゃ仕方ない。それに彼女が欲しいのはうちの部活だけじゃないしね」

「へへ、ちょうちゃんは武道百般ですからね!」

「自分のことのように嬉しそうだな」

「へへへ」


「なんで部員でもない奴が……」

「絶対部長の方がいいのにね……」


 アタシと部長が話していると他の弓道部員のヒソヒソ話が聞こえた。


「ん……?」

「あ、ああ。まぁ一部面白くない部員もいるらしくてな。まぁどの部活にもそういう事はある」

「ふーん……」

「たんちゃ〜ん〜」


 着替え終わったちょうちゃんが駆け寄ってきた。駆けると言ってもトロトロ遅い。こういうのを見るとなぜこれで武道百般なのかと不思議になる。


「それでは部長〜お先に失礼しますね〜」

「おう、来週の大会ではよろしくな〜」


 弓道場を出てちょうちゃんと2人下校する。横を見るとちょうちゃんは鼻歌混じりで歩いていた。


「機嫌良さそうだね」

「ん〜、なんかいい感じに的に当たったからかな」

「いつも的に当ててるじゃない」

「そうなんだけど〜、こう、身体の動きと、風の流れ〜、ワタシの呼吸がピターっとなる時があって〜、そんな時は目を瞑っても当たるみたいな〜。それがとても気持ちいいの〜」


 ちょうちゃんが矢を射る仕草をしながら説明してくれた。正直アタシにはわかりかねるが達人の感覚的なものなのだろう。ちょうちゃんが楽しそうで何よりだ。


「大会は見に来てくれるよね〜」

「モチロン。本戦も出られるといいのにね」

「ん〜、ワタシは正式な部員じゃないし〜、それは申し訳んないというか〜。デモンストレーションだって悪いかなって」

「まぁ部長がいいって言うんならさ。楽しみだね」

「うん〜、みんな頑張ってるから〜」


 屈託のない笑顔で言うちょうちゃんだったが、アタシは先ほどの部員のヒソヒソ話を思い出していた。けれどちょうちゃんに水を刺したくないから敢えて言わず、そのまま大会の日を迎えた。


「お、ちょうちゃん」

「あ、たんちゃん〜……」

「ん?」


 大会当日、教室に1人いたちょうちゃんに声をかける。大会はあくまで地域の小さな大会。近隣の学校で一番大きなウチの高校の弓道場が大会会場に選ばれた。

 大会は13時から。ウチの弓道部員は午前中に練習してお昼にお弁当を食べてから午後に備え、他の学校は午前中に各校で練習してからお昼にウチに来るとの事だった。

 激励にきたつもりだけどちょうちゃんの様子がおかしい……?


「どうしたの緊張してる?」

「ん〜ん、そういうんじゃないんだけど〜」

「ふーん……。おべんと食べたんだよね?」

「あ〜、うん〜。美味しかった〜。あ〜、そろそろ行くね〜」


 そう言って教室を出るちょうちゃん。どうも様子がおかしい。他の人にはわからないかもしれない。でもアタシにはわかる。何か無理をしているような……?

 アタシもそろそろ向かうかと思ったら教室の脇の廊下を2人の生徒が通りかかり、その会話が漏れ聞こえてきた。


「アハハ、いい気味―」

「さっき焦ってたよね!」


 前に弓道場でヒソヒソ陰口言ってた奴らだ。なんだ……?

 その2人とはタイミングをズラして教室を出て会場の弓道場へ向かった。


 弓道場へ入ると後方に応援用の席があったのでそこへ向かう。応援と言っても小さな大会なので主に各校の部員の家族や友達など全部で30人ほどだ。

 入り口で配られた用紙によると大会の流れはまず偉い人の挨拶。その後にデモンストレーション。そして大会本番という流れだ。

 ちょうちゃんは正式な部員ではないが顧問と部長のゴリ押しでデモンストレーションのみ参加する事になっている。一番上手い人にはどんな形でも参加してもらいたいんだって。


 退屈な挨拶の後にデモンストレーションが始まる。正直なところアタシはちょうちゃんの出るここを見に来たと言っても過言ではない。もちろん大会でウチの高校を応援するけれども。

 参加の六校の代表が横に並び1人づつ的に矢を射る。最後の1人が終わったのを合図に大会が始まるということだ。外すと格好が悪いので基本的に一番上手い人、大体は部長が選ばれるそうだ。それを今年は部長がちょうちゃんに譲った。あまり交流はないけれどできた人だと思う。


 1人、1人と的に命中させ最後の出番はちょうちゃんだ。弓を構える。たまに見るちょうちゃんの所作はいつも綺麗で……あれ?


 ストン


 ちょうちゃんの放った矢は的から少し外れた所に刺さった。6人中で的に当たらなかったのはちょうちゃんだけ。微妙な空気のまま大会が始まった。

 アタシはその後のちょうちゃんの気を使った笑顔と、それを離れたところからニヤニヤ笑って見ている例の二人組から目を離せなかった。


 大会は予定通りに進み、途中20分のトイレ休憩が挟まった。アタシはちょうちゃんに声をかけようと思ったが例の二人組が弓道場を出ていくのが気になり追いかける事にした。


「アハハ〜見たー? あいつの顔」

「見た見たー。的外して流石にショックみたいね」


 2人は校内のトイレへ向かうようだ。廊下の陰で聞き耳を立てるとちょうちゃんの事を話しているのが聞こえた。仮にも自分の部活の代表者が的を外すのを笑う神経が信じられない。

 飛び出して一言言ってやろうと思ったら2人は更に言葉を続けた。


「弁当隠したのも気付いてないのかもねー。あいつトロイから」

「お腹空いて矢を外しちゃったのかね」

「ウケるー。その程度で集中力乱すやつが代表やるなっての」


 あいつらがちょうちゃんの弁当を隠したって? だからさっき様子がおかしかったんだ。

 その行為にも、そしてあいつらがちょうちゃんの事を何もわかってない事に腹が立ちアタシは飛び出した。気の短いアタシはブチ切れモードだ。


「くぉら! あんたら!」

「は? 何、一年生? あー、こないだ弓道場に来てた。何よ?」

「話は聞いたわよ。よくもちょうちゃんの弁当を……」

「あー、そういう。あの子が悪いのよ。正式な部員じゃないのに部長を差し置いて代表に選ばれたりして。部長は人がいいけど、他の部員は面白く思ってないんだから。だからここにあんたの居場所はないってわからせてやったのよ!」

「やり方が汚いのよ。だったら直接言うなり、競技で勝負を挑むなりすればいいじゃない」

「それは……」


 大方実力では勝てないし、ちょうちゃんを推薦した部長の目もあるからコソコソやったんだろう。汚い奴らだ。


「とにかく、お昼を抜いたくらいで的を外すくらいだから元々相応しくなかったのよ!」

「そうじゃない!」

「は……?」


 こいつらはちょうちゃんの事をわかっていない。ちょうちゃんが的を外したのはお昼を抜いたからではない。弁当を隠された事に傷ついてでもない。


「ちょうちゃんはね、アンタらにそこまでさせてしまった自分が許せなくて集中を見出したのよ」

「は……そんな……?」

「そういう子なのよ。相手よりも自分を責めちゃう。気が長いから自分が我慢すればいいやって思っちゃうの。これがバレたらアンタらが部長に怒られちゃうとかそんな事をずっと、ずっと頭の中でいつものように矢を射れなかったのよ!」

「なんてお人よし……」

「いいから、ちゃんと謝ってきなさい。アタシはねあの子と同じ道場に通ってるのよ。この通り気が短いし、あの子よりも強いわよー」

「ヒィ! ごめんなさいー!」


 指をポキポキと鳴らして脅すと2人は逃げ出して行った。今のは半分以上は嘘だ。道場にちゃんと通ったのは最初だけ。気の強さはともかく武道ではちょうちゃんが圧倒的に強い。本当なのは気が短いというだけだ。

 2人がちゃんと謝るかはわからないけれど、とりあえずアタシは弓道場へ戻ろうと振り返る。アタシが元々聞き耳を立てていた廊下の陰からちょうちゃんが現れた。


「たんちゃん〜、ありがとう〜」

「あ……、今の聞いてた?」

「うん〜……。たんちゃんの言った通り〜。ワタシがいなければ部長さんは出られたし〜、2人はあんなコトせずに済んだし〜、色々と考えてたら〜、なんか〜、うううう〜」

「何言ってんのよ。ちょうちゃんは頼まれてやった事なんだから悪いわけないじゃない。部長が納得してるんだし。堂々としてればいいのよ」

「でも〜」

「わかった。じゃあアンタに降りかかる火の粉はアタシが払ってやる。アンタは嫌なことを考える必要はない。さっきみたいにアタシがガツンと言ってやる。アンタの心はアタシが守るから、何があってもいつも通りマイペースでいなさい」

「たんちゃん〜」


 そうだ。人のいいちょうちゃんは相手を憎めない。だから喧嘩っ早いアタシが守る。口喧嘩なら負けない。心のボディーガードだ。


「でも〜、力ならワタシが強いから〜そっちは無茶しないで~」

「う……」


 気が長いカノジョと気の短いアタシ。色々と正反対だけど、だからこそ気が合うのかもしれない。



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