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第1話

 落語好きな親戚のおじさんが言っていた。お前たちは落語の『長短(ちょうたん)』みたいだなって。


 どんなお話? って聞いたら気の長い人と気の短い人、二人は気が合わないようで不思議と気が合う、そんな話だって。


最初聞いた時はアタシ達そんなかなぁって思ってた。





「ちょーちゃん、ちょーうちゃん。起きろって。朝だぞー。また遅刻するぞー」


「んー、あと5分……」


「それ3回聞いたよ。いい加減に起きろー」


 


 ある月曜日の朝、アタシは平日の日課として幼馴染を起こしに来た。この部屋に来てから15分一向に起きる気配がないが。


 カノジョの名前は長月(なつき)。長の字を取って(ちょう)ちゃん呼んでいる。


 カノジョとアタシとはお互いが産まれてすぐからの幼馴染。母親同士が幼馴染でたまたま同じ時期に妊娠して、同じ病院に入って2日違いで産まれた。そこからずっとの腐れ縁だ。




「んー、もう食べられないよ〜」


「呑気な寝言を言いやがって……いい加減に起きろー!」


 


 流石に耐えきれず布団をひっぺがえす。これも毎日の日課だ。日課にならずに起きてくれたら言う事はないんだけど。




「ん〜ねむーい……、あ〜、たんちゃん〜おはよ〜」


「たんちゃん言うな。そのあだ名カッコ悪い」


「え〜、可愛いじゃない〜」


 


 たんちゃんと呼ばれたアタシの名前は短歌(たんか)。珍しい名前だと思う。少なくとも同じ名前の人に会ったことはない。元歌手で歌をこよなく愛するアタシの母さんが歌の字を名前に付けたかったんだって。だからって『短歌』はないだろうと思ったけど他に思いつかなかったらしい。どんなセンスだ……。


 ちなみに父さんはいない。会った事もない。生きているかも知らない。母さんは話してくれないしアタシもいいかなって。母さんがいるし……まぁ、このちょうちゃんもいるし。ってそんな場合じゃなく!




「いいから、起きるよ。遅刻しちゃうじゃない」


「え〜、まだ早くな〜い?」


「早くない! いやアタシだけなら間に合うけどアンタのペースに合わせてたらアタシまで遅刻しちゃうから」


「えへへ〜」


「何よ、ニヤニヤして……」


「自分だけなら間に合うのに〜毎日一緒に行ってれるたんちゃんは優しいなって……」


「なっ……、いいから顔洗ってこーい!」




 蕩けた笑顔でなんか言い出すから思わず照れてしまった。ちょうちゃんを洗面台へ送り出すとアタシは制服の支度をしてやる。全くなんでアタシがここまでやんなきゃならんのだ。


 


 おわかりの通りちょうちゃんは呑気だ。とにかく気が長い。放っておくといつまでも寝ている。何があっても焦らない。アタシが付いていないと毎日遅刻だろう。幼稚園の頃から今の今までアタシがこうして世話を焼いている。


 片やアタシは気が短い。朝も早く起きる。待たされるのがイヤだし、遅刻も絶対にしない。ちょうちゃんのペースに狂わされて何度も待ったけど他のヤツなら1回目で叩き起こす。ちょうちゃんとは正反対の性格をしている。




「顔洗ってきたよ〜」


「じゃあ制服に着替えな。ほら」


「はーい〜うんしょ」


「ば、ばか! いきなり脱ぎ出すな!」


 


 部屋に戻ってきたちょうちゃんにアタシから制服を渡すと徐にパジャマを脱ぎ出した。




「え〜、別にいいじゃない〜。女の子同士だし〜」


「子供じゃないんだから! あっち向いている間に着替えて!」


「はーい〜」


 


 アタシが後ろを向くとちょうちゃんが着替えを始めた。さっき一瞬目に入ったカノジョの肌にまだ顔が赤くなっている。


 ちょうちゃんは美人だ。背も高くスタイルもいい。髪は長くて少し天然のパーマでふわっとしている。目は大きくクリッとしていて反対に口は小さく可愛らしい。おっとりとした性格と相待って共学だったら絶対男子にモテただろう。うちは女子校だから男とはほとんど縁がないけど。


 反対にアタシは背が小さい。髪は短くしているのでスカートを履いていないと男と間違われる。不良じゃないけど舐められないように少し髪を染めている。高校が割とゆるい校風のお陰で許してもらえているけど。


 気が短く喧嘩っ早いし男にはモテないだろう。女子校だからかなぜか女にはモテているが……。




 アタシとちょうちゃんは見た目も中身も何もかも正反対だ。




「ほら、急いで!」


「も〜、むぐ……そんな走らなくても遅刻しないよ〜」


「遅刻じゃなくてもアタシはできるだけ早く行きたいの!」


 


 ちょうちゃんの手を引いて学校へ向けて走るアタシ。ちなみにちょうちゃんは朝食の食パンを口に咥えながらだ。カノジョのお母さんが夜勤で帰りが昼頃になると言うのでアタシが用意してやった。


 ちょうちゃんの言う通り走らなくてもまだ遅刻しない。できるだけ早く行きたいのは色々と理由がある。その一つが……




「おー、カップルが来たー。今日もお熱いねー!」


「ヒューヒュー!」


「カップルじゃねぇ!」


「じゃあ夫婦か。長短夫婦だねー」


「夫婦でもねぇ!」


 


手を繋いで登校するアタシ達を揶揄うクラスメイトにキレ散らかすアタシ。古文の先生が落語好きで、うちのおじさんみたく「お前達は長短みたいだな」って言い出したのを聞いてみんなもそれでいじり出した。これが嫌で早く登校したかったのだ……。




「ふふふふふ……」


「なーにニヤニヤしてんのよ」


 


 いつの間にかパンを食べ終えたちょうちゃんがアタシを見ながら幸せそうな顔をしていた。可愛いなこいつ。




「だって〜夫婦だって〜」


「夫婦じゃねぇ!」


「あー、でもどっちがお嫁さんかなー。あ〜2人ともお嫁さんもいいな〜。あ、でもそれだと婦婦になるのかなぁ。たんちゃんはどう思う?」


「知るか! ほら急ぐよ!」


 


 アタシに手を引かれながら素っ頓狂な事を言っているちょうちゃん。どこまでもマイペースなんだから……。


 クラスメート達を撒くように少しスピードを上げるアタシ。ちょうちゃんが着いてこられるようにあくまで少しだけ。




「ふふふ……」


「なーに? またさっきの話?」


「んーん、揶揄われるのが嫌なのに〜いつも一緒に学校に行ってくれるんだな〜って。たんちゃんは優しいな〜」


「……フンっ。アンタとは腐れ縁だからね。アンタはアタシがいないとダメなんだから世話してあげてんのよ!」


「ふふふ〜」




 そうしてまたニマニマするちょうちゃん。何が嬉しいんだか。


 そう、気の長いカノジョと気の短いアタシ。何もかも正反対だけどアタシがいないとダメだからカノジョを世話してる。それだけなんだから……。





 日曜日にちょうちゃんと買い物に出かける約束をした。ちょうちゃんは「デートだね〜」なんて言ってたけれどそんな仰々しいもんじゃない。多分……。いつも行ってるし……。


 とはいえアタシも女の子だ。それなりのオシャレをしていく。べ、別にちょうちゃんに少しでも可愛く見られたいとかそんなんじゃないけれども。




 今日は渋谷ハチ公前で12時に待ち合わせだ。ちょうちゃんは朝早くなければ意外と待ち合わせ時間より早く来ている。気が長いから待つのが苦じゃないようだ。


 逆にアタシは気が短いから待ちたくない。できるだけ時間ぴったりで行く。ちょうちゃんが待ってくれているのはわかってるけれど。でもアタシが来た時に迎えてくれるちょうちゃんの満面の笑顔が好きだ。


 近所に住んでるから一緒に行けばいいんだけどね。でもちょうちゃんが「待ち合わせした方がデートっぽいから〜」なんて言うもんだから。




「ふふっ、だからデートじゃないっての」




 ちょうちゃんを思い出して思わずニヤけながら独り言を呟いてしまった。これじゃあぶないヤツだな。




 11時55分着の電車を降りて待ち合わせちょうどくらいにハチ公へ向かう。そこにはちょうちゃんが……あれ……?




「ねーねーカノジョー。待ち合わせ〜? 俺らと遊ばなーい?」


「え〜と〜、ダメです〜。お友達と〜買い物行くので〜」


「うわ、トロい喋り方。天然系? でもスタイルいいねぇ。友達なんかいいからさ。俺らと行こうぜ」


「ダメです〜」




 ちょうちゃんが金髪にタトゥーしたパリピらしき男共にナンパされている。今までは見かけた事なかったけどそりゃあんだけ可愛ければナンパされるよな。助けなきゃ……。




「ほら、いいから行こうぜ!」


「あっ……」




 男の1人がちょうちゃんの手を掴んだ瞬間にアタシのナニカがプチッとキレた。




「汚ねぇ手でちょうちゃんに触れるんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


「ぐはっ!イッてぇ……」




 アタシの飛び蹴りが男の背中にクリーンヒットした。仰け反る男、ざわつくギャラリー、目を見開くちょうちゃん。




「たんちゃん〜」


「ちょうちゃん大丈夫?」




 アタシがちょうちゃんを庇うようにして間に入ると倒れた男が起き上がり、もう1人の男とアタシを睨んでくる。




「なんだぁオメェは。ガキはすっこんでろ!」


「ガ……! ガキじゃない! カノジョと同い年だ!」




 アタシは背が低いからよく中学生と間違われる。だから舐められたくなくて髪を染めてるけどパリピからしたらガキと変わらないらしい。




「あーん、高校生かぁ? どっちにしろ見た目お子様には興味ねぇよ。俺らはそこのねーちゃんとイイコトしたいのよ。引っ込んでな」


「ダメだ! ちょうちゃんはアタシが守るんだ!」


「たんちゃん〜」




 ちょうちゃんはアタシがいないとダメだからアタシがついてなきゃって決めたんだ。だから守る!




「勇ましいナイト様かよ。中二病おままごとはお家でやりなぁ!」




 男の手がアタシに伸びてくる。怖い! アタシは気が短く喧嘩っ早いだけで力は弱いチビの女だ。で、でも、ちょうちゃんはアタシがまも……




「つーかまえたー」


「ひっ!」




 男の手がアタシの手を掴んだ瞬間。




「たんちゃんに〜さ〜わ〜る〜な〜」




 ちょうちゃんのゆったりとした言葉とは正反対のスピードで男の身体が宙を舞った。ちょうちゃんが一瞬で男を背負い投げしたのだ。




「ぐはっ!」




 ドシーンと背中から落ちる男。もう1人の男が恐怖で、ざわざわしていたギャラリーはその意外な出来事に、そしてアタシはそのちょうちゃんの姿に目を奪われ、それぞれ目を丸くしていると。




「たんちゃん〜行こう〜」


「う、うん……!」




 いつもとは逆の立場でちょうちゃんがアタシの手を引き走り出した。




「たんちゃん〜大丈夫〜?」


「だ、大丈夫……」




 あれから少し走ったところにある公園のベンチにアタシは座っていた。先に息の切れたアタシを気遣ってちょうちゃんが自販機の水を買ってきてくれた。




「大変だったねぇ〜」


「でも……アタシなんの役にも立てなかった」




 そう、ちょうちゃんは柔道だけじゃなく剣道、合気道と武道の達人だった。お父さんが武術の道場の師範をしているのもあるだろうが、その気の長さからか間の取り方が最高なんだとか。あらゆる大会で賞を総ナメしてる。だから本来ああいう時に凡人女子のアタシの出る幕はないのだ。でもっ……。




「アタシが……守りたかったのにっ!」




 つい涙が溢れてしまった。アタシは気が短いからか恥ずかしながら泣くのも早い。そんなアタシの頭にちょうちゃんの優しい手が添えられ撫でてくれた。




「よ〜し、よ〜し。たんちゃんは頑張ったねぇ」


「子供じゃないっての……」


「ワタシは〜ちゃんとたんちゃんに守られてるよ〜」


「え……?」


「とろーいワタシを〜たんちゃんが子供の頃から引っ張ってくれて〜、周りのイヤな事からも遠ざけてくれて〜、ワタシは守られてるって思ってるよ〜」


「そう……なの……?」


「だからワタシもたんちゃんを守れるようにならなきゃって〜強くなりたかったんだ〜」




 小学生まではアタシがちょうちゃんを引っ張るだけだった。でも中学生になってから急に家の武術を習い始め、才能が開花して強くなっていったのはそのためだったんだ。




「だから〜ワタシたちは〜守り〜守られ〜、うふふふふ」


「笑ながら頭を撫でるな!」




 ちょうちゃんの話を聞いていたら今度は別の涙が出てきた。




「ごめっ……もうちょっとだけ待ってもらっていい……?」


「うん〜いつまでも待つよ〜。ワタシは気が長いからねぇ〜」




 そう言いながらアタシの頭を撫で続けるちょうちゃん。お陰で涙も引っ込んできた。




「泣き止んだ〜。たんちゃんは〜ワタシがいないとダメなんだから〜」




 ニヤニヤしてる。こいつ……久々にアタシの涙を見たからかいつも言われてる逆の事を言ってイジってきやがった。




「それはちょうちゃんもでしょ!」


「そうね〜おんなじ〜。だからワタシ達は気が合うねぇ〜」


「……そうだね……」




気が長いカノジョと気の短いアタシ。だけど2人は不思議と気が合う。

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