第3話
ヲタク落語家の春風亭吉好が古典落語『長短』をゆるふわ女子とツンデレ女子の百合ラノベとして大胆に改変しました。
気の長い性格の少女・長月と気の短い性格の少女・短歌は幼馴染。
おっとりしすぎている長月を放っておけない短歌は何かと世話を焼いている。
見た目も性格も何もかも正反対の2人だけれど、、、
落語好きな親戚のおじさんが言っていた。お前たちは落語の『長短』みたいだなって。
どんなお話? って聞いたら気の長い人と気の短い人、二人は気が合わないようで不思議と気が合う、そんな話だって。
最初聞いた時はアタシ達そんなかなぁって思ってた。
「んー、上手くいかないなぁ」
アタシの名前は熊谷短歌。珍しい名前だけれど本名だ。名前の通り? 気が短い、喧嘩っ早い、背が低い、意外と成績は優秀な競技かるた部所属のJKだ。
「ん〜、なんでだろうね〜」
隣でトロい喋り方しているのは幼馴染の八村長月。名前の通り? 気が長い、マイペース、背が高くて髪も長い、間の取り方が上手いおかげで意外や意外武道の達人な同じくJKだ。
それぞれの名前から取ってお互いちょうちゃん、たんちゃんと呼び合ってる。
「肉も野菜も生焼けだ……」
「肉じゃが〜コゲコゲ〜」
今日は日曜日。来週の家庭科の調理実習に向けてちょうちゃん宅で料理の練習をしているところ。実は2人とも料理が苦手なのだ。
お題は野菜炒めと肉じゃがという定番メニュー。レシピを見ながら作っているがなかなか上手くいかない。
アタシはちょうどいい火加減まで待ちきれずチャチャっと炒めると生焼けだし、ちょうちゃんは煮込んでるのを待ちすぎて焦がしてしまう。アタシ達の気性と料理が噛み合わないのだ。
「んー、どうしたものか……」
「あ〜、2人で交互にやるって〜どうかな〜」
ちょうちゃんがポンと手を叩きアイディアを出した。
「料理を入れ替えるって事? 結果は一緒なんじゃ」
「そうじゃなくて〜、あのね〜……」
他に誰もいないのにちょうちゃんがアタシの耳元に口を寄せコショコショ話をする。ちょうちゃんの綺麗な髪から甘い香りが漂い思わずクラクラする。ポーッとしながらも聞いたちょうちゃんのアイディアはなるほどと思った。
「よし、やりますか!」
「お〜!」
ちょうちゃんの出したアイディアとは料理の過程を2人交互にやるということ。
まず丁寧なちょうちゃんが野菜の皮を剥き、切るのが早いアタシが野菜を切る。ちょうちゃんが順に食材を入れて(アタシは面倒だから全部一気に入れちゃう)、アタシがまず強火で炒めて表面を焼き、ちょうちゃんに代わりちゃんと火を通し、焦げる前にアタシと代わり完成。炒め始めてからが目まぐるしいがお互いの気性を組み合わせたコンビネーションだ。
他の人とはできない。生まれた頃から一緒のアタシ達だからできるんだ。
「できたー!」
「パチパチパチパチ〜」
2人で協力して作った野菜炒めは初めて美味くできた。調理実習でも同じ班なので料理ごとに担当を分けずに協力すればいい評価もらえるかも」
「やっば、うっま!」
「本当〜、美味しいね〜」
「あ、ちょうちゃん。野菜かす付いてるよ」
ちょうちゃんの口元に付いていたカスを手で取ってやる。少女漫画でよく見るシチュエーションだ。
しかし……取ったカスを食べちゃうか。拭き取るか。拭き取ったら傷つくかな。でも食べちゃうっていいのか……でも……。いかんいかん、思考がこんがらがってきた。不意なシチュエーションに顔が赤くなり頭がパニくる。
「たん〜ちゃん〜……」
「え……」
ちょうちゃんが潤んだ瞳でアタシを見つめている(気がする)
え、なに、アタシの鼓動が伝わった? もしかして今いい雰囲気?
「ど、どうしたの?」
「え〜と〜、その〜……」
ちょうちゃんも動揺して言葉に詰まっている(気がする)
どどどどど、どうしよう?
「ど、どうしたの?」
「言っても〜いい〜?」
え、なに、言ってもって。こ、告白……? ちょうちゃんもアタシの事を……、ってそれだとアタシが好きみたいで、いや、カノジョは幼馴染で……。あー、こんがらがってきたー!
「言って! 言って! 言ってー!」
混乱したアタシはそう叫んでしまった。するとちょうちゃんは右手を上げてアタシの頬を……なんてムーブはなくアタシの後ろを指差した。
「あれ〜、そろそろ止めた方がいいんじゃ〜?」
「へ?」
ちょうちゃんが指差した先はガスコンロ。鍋がグツグツ煮立っている音がしていた。
そう、野菜炒めを味見している間に肉じゃがを火にかけていた。肉じゃがも野菜炒めと同様に分業して煮込み時間を調整しようとしていたのに、ちょうちゃんの挙動に勘違いしてパニクってすっかり忘れてしまっていた。
潤んだ目も、詰まった言葉もいつものちょうちゃんだ。少女マンガ脳になっていたから変に見えてしまっていただけだ。慌てて火を止める。
「あー、ちょっと焦げちゃってるね」
「ごめんね〜、早く言えなくて〜」
「ううん、今はアタシが全面的に悪い……」
「なんで〜?」
「な、なんでもないけど」
ちょうちゃんが聞いてきたので慌てて否定する。またこのキモチはしまっておこう。
「ふふふ〜」
「なーに? ニヤニヤして」
ちょうちゃんが両手を頬に当てて嬉しそうに微笑んでいる。なんだろう?
「だって〜、失敗したおかげで〜また、たんちゃんと料理ができるもの〜」
「あ……そう……だね」
気が長いカノジョと気の短いアタシ。色々と正反対だけどだからこそ気が合うのかもしれない。




