第43話 優勝候補筆頭の実力
「続いては2年生ながら優勝候補筆頭!カナリアとフィロネア!!ここまで1年生がハイレベルのパフォーマンスを披露しています!そのプレッシャーの中、何を見せてくれるのか!!」
うわっ……司会席からすっごい圧が。
オレだったらこの中でパフォーマンスとか絶対に嫌だな。
……っていうかカナリア先輩?だっけ。
この人って優勝候補筆頭なんだ。
どんなパフォーマンスするのか純粋に気になるな。
シエルに至っては隣で今か今かとそわそわしてる。
「どんなもふもふなんだろ……毛並みかな?鳴き声かな?ああもう、早く見せてー!」
……まあ、理由は優勝候補の“もふもふ”を早く見たいからだった。
うん、これは予想通りかな。
燃えるような赤髪のツインテールの女性が、特設ステージにゆっくりと姿を現した。
毛先は鳥の羽のようになっていて、歩くと"ゆらゆら"していて綺麗だな。
……と思ったけど、よく見るとモンスターの姿が見当たらない。
カナリア先輩、まさか……一人?
「おおっと!どうしたことか?フィロネアの姿が見当たりません!」
どよめきが波紋のように広がっていく。誰もが、目を見開いていた。
司会席のマイク越しにも、困惑と戸惑いが色濃くにじんでいた。
カナリア先輩が両手を大きく広げた、その瞬間――
制服の胸元が少し膨らみ、そこから雪のように白い毛並みの猫が、するりと顔を覗かせた。
「……キュルン」
可愛らしい鳴き声が響いた次の瞬間――カナリア先輩を中心に、白く輝く波動がふわりと広がった。
光の揺らめきの中、フィロネアが制服の中から跳ねるように飛び出し、ふわりと特設ステージへ舞い降りた。
ここで遂にフィロネアの全体像が明らかになる。
頭の両脇には、小さな羽のような飾毛。
淡い金とラベンダーが混じったような、幻想的なバイカラーアイが輝いている。
そしてその首元には、ふわりと浮かぶ宝石の飾りが。
カナリア先輩がすっと右手を上げる。
するとゆらっとジャンプしたフィロネアがその上に乗る。
「フィロネア、『エモーションブリンク』」
次の瞬間、フィロネアが特設ステージの上から消えた。
どこに消えたのか探してもぱっと見当たらない。
と思っていたら今度はカナリア先輩の頭の上にひょっこり顔を出した。
いや、それだけじゃない。
スカートの中から逆さまに顔を覗かせている。
……ん?フィロネアが2体いる!?
頭の上と、スカートの中。
どっちも同じ白くて小さな体、同じバイカラーの瞳。
目の錯覚?いや、それにしては――動いてる!?
一瞬で、会場にどよめきが走った。
そして次から次にフィロネア増殖していく。
カナリア先輩の腕の中、右肩の上、足下。
それに加え、天地がひっくり返ったかのように空を泳いでるフィロネアも。
「フィロネア、『フェリス・シャイン』」
カナリア先輩が一言、そう呟くとフィロネアが次々に光り輝く。
眩しいほどではない。
この絶妙な輝きがフィロネアに神々しさを与えている。
最後はカナリア先輩の腕の中にいたフィロネアを残して全て光の粒子となり、消え去った。
そしてカナリア先輩が、最初と同じように両手を大きく広げると――
空中でフィロネアがくるりと一回転し、静かに、でも圧倒的に華麗な着地を決めた。
「……はっ!あまりにも素晴らし過ぎるパフォーマンスに言葉もありません。これが2年生にして3年生を差し置いて優勝候補筆頭と評される実力!」
誰もが納得せざるを得なかった。
それほどまでに――圧巻だった。
勝てるとか、勝てないとか、そういう次元じゃない。
ただただ、見惚れるしかなかった。
審査員もメモを取る手を止めて見入っていたくらいだ。
それから他の人のパフォーマンスが全て行われた。
正直、結果は誰の目から見ても明らかだ。
カナリア先輩が圧倒的過ぎた。
あの人の後にパフォーマンスをした人たちに正直、同情するレベルだ。
この『もふもふコンテスト』はカナリア先輩とフィロネアの為にある。
そう言われても正直な所、納得できる。
ブランはよく──寝たよ。
あれだけ──寝たんだから仕方ない。
あとで──寝た分、いっぱい褒めてやろう。
そうして遂に結果発表の時がやってきた。
審査を担当された先生たちの代表として保健科のカリン先生が特設ステージにマイクを持って上がる。
「出場者の皆さん、大変お疲れ様でした。今年も非常にレベルが高く、もふもふグランプリの選考は――正直、ものすごく悩みました」
一拍置いて、会場が静まる。
「どのモンスターも個性と魅力にあふれていて、私たち審査員も癒やされっぱなしでした。ですが、そんな中でも、観客の反応・完成度・そして"もふもふ"愛の深さ――その全てにおいて、ひときわ光っていた存在がありました」
ざわ……とどよめく空気。
「それでは、発表いたします。今年の『もふもふグランプリ』は――」
「――カナリアさんとフィロネアちゃんです!」
大歓声が巻き起こった。
名前が呼ばれたカナリア先輩とフィロネアは観客と他の出場者の声援に応えながら特設ステージへと上がる。
フィロネアは今度はカナリア先輩の腕の中にしっかりといて、さっきみたいな演出はしないみたい。
「カナリアさん、フィロネアちゃん、もふもふグランプリおめでとうございます!今のお気持ち聞かせてもらえますか?」
マイクを向けられたカナリア先輩は、一度フィロネアを見下ろしてから、ふわりと笑った。
「……ありがとうございます。こんなにたくさんの方に見てもらえて、嬉しかったです。フィロネアも……ね?」
「キュルン♪」
フィロネアがカナリア先輩の胸元で一声鳴く。まるで誇らしげに。
あまりの可愛さに会場にいる人は全員、魅せられた。
その後、カレン先生からカナリア先輩にスキル無料交換券が授与される。
「続いて優秀賞の発表です!こちら1年生から三人選出されました!リリィさんとポポミーちゃん!オルフェウスくんとブランちゃん!シエルさんとウィルくん!以上 三名です!」
オレは優秀賞の存在を知らなかったから名前が呼ばれた事に驚きつつも特設ステージに上がる。
むにゃむにゃ とまだ夢の世界にいるブランを抱き抱えて。
「1年生ながら優秀賞を獲得した三人は10万ユルドが進呈されます!次回は来年となりますが、そこでの更なる飛躍に期待です!」
オレたちはカリン先生から賞金10万ユルドを受け取り、特設ステージから下りた。
こうしてオレとシエルの『もふもふコンテスト』は幕を閉じた。
シエルは来年以降のリベンジに燃えていた。
この時のオレたちはこれが最初で最後の出場になるとは思いもしなかった。
まさかあんな大事件に巻き込まれるとは予想だにしなかった。
次回、『新たな可能性』に続く