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第二話 椿のクラスの出席率。驚異の25%

(しおり)~! 刹那(せつな)~! どこにいるんですか~!」


 入学式が終わってすぐのタイミングで、体育館の傍で椿の声が響いた。


「……相変わらず元気ねぇ」

「~♪」


 そんな二人に対して、二人の少女が話しかける。


 一人は、百六十センチ半ばの身長に加えて、黄金比と言えるスタイルをしている美少女。

 名前は頤栞(おとがいしおり)

 容姿端麗を超えて、容姿完成と言えるほど整った美貌に加えて、黒髪を長く伸ばしている。

 胸は大きく、腰は細く、黒いストッキングに包まれた足も魅力的という、理想の権化。


 ただ、『実は大学生』と言われても通じるほど落ち着きのある美貌がどこか疲れているのは、椿の関係者だからだろう。


 もう一人は、椿以上の低身長、かつ起伏の乏しい体格の少女だ。

 名前は時島刹那(ときしませつな)

 黒髪をポニーテールにしており、首元にマフラーを撒いており、どこかにこにこしている。そして、あまり言葉が言葉の体を為していない。

 椿を小動物とするなら、刹那はマスコットだろう。そんな雰囲気を感じさせる。


 椿が二人を真っ先に呼んだということは、幼馴染か、そうでなくとも付き合いが長いのだろう。


「うへへ~♪ 私はいつでも元気ですよ!」

「知ってる」

「~♪」


 満面の笑みを浮かべている椿に対して、疲れ気味の栞と、ニコニコしている刹那。


 どこか『いつものやりとり』という雰囲気を感じさせるその様子は、椿は元気で、栞は呆れて、刹那が微笑んでいるということが『普通』なのだという証拠。


「えーと。私のクラスってなんでしたっけ?」

「……はぁ、私たちはあらかじめ、別の封筒で報告されているはずだけど?」

「失くしたんですよ!」

「セフィアさんがいるのにどうやって……まあいいわ。私たち三人のクラスは、一年零組。『特待生クラス』よ」

「~♪」

「ふむふむ……よし、行きましょう!」


 ★


 沖野宮高校は基本的に一クラス四十人であり、各学年に八組存在する。

 一学年320人。全校生徒960人という構成だ。


 ……その八割が女子生徒の場合、768人ということになり、思ったより地獄のような数字になるが、それはそれとしよう。


 ただ、日本最高峰の冒険者学校で、しかも推薦入学も存在する故に、高い実力を持つ『外れ値』のような生徒が出てくる。


 ダンジョンに挑んでモンスターを倒してドロップアイテムを持ってくるのが冒険者の役割。

 中には集団で挑むケースがあり、クラスメイトと組ませるのが一番わかりやすい方法だが、スペックが高すぎてどう割り振っても平均的なレベルになってくれない生徒がいる。


 そのため、『特待生クラス』が存在する。


 文字通り優秀な生徒だけで構成されたクラスで、授業内容に関してもかなり高度、かつ専門的になっており、実戦的なプログラムが多い。


 通常の測定テストでは満点を軽々出すような生徒が特待生クラス。『零組』となる。


「失礼しまーす!」


 特待生クラスともなれば教室はおろか、校舎そのものが特別製。

 各学年に用意されており、三階建ての特設校舎が用意されている。


 一年零組は『特待生校舎』の一階フロアが丸ごと使われる贅沢仕様であり、出入り口から一番近い所に、一年零組の教室がある。


 椿は元気な様子でそこに入っていった。


「椅子が十二個……例年は多くて三人なのに、今年度は凄いわね」

「~♪」


 横四列。盾三列に席が並んでおり、栞の言う通り、人数は十二人。


「えーと……私はここですね!」


 教壇から見て一番近い席の右が椿の席だ。

 そこから、椿の右に栞。反対側に刹那が座る。


「えへへ~♪ どんな生徒が来るのか楽しみですね!」


 椿がそう言ったとき、ドアが開いた。


「……はぁ、遂にこの日が来てしまったか」


 前途多難という言葉をこれでもかと体現するかのような表情で、一人の男性教師が入ってくる。


 高い身長に加えて、黒髪に黒淵眼鏡の男だ。

 スーツを着て、タブレットを手に教室に入ってくる。


 そのまま教壇に上がって、タブレットを置いた。


「さてと……三人とも初めまして。私が、この一年零組の担任を務めることになった鈴木宗一郎(すずきそういちろう)だ。特待生クラスはクラス替えがなく、担任も変わらない。三年間よろしく」

「よろしくお願いします!」


 挨拶には元気な挨拶を。それが椿である。


「先生。このクラスにはほかにどんな生徒が来るんですか?」

「今日来るのは君たち三人だけだ」

「え?」

「特待生クラスは、基本的に学校に来なくても欠席扱いにならない。学校外でする専門性が高いことが多すぎて、通常のカリキュラムに当てはめられないからね。九人の生徒からは、今日は学校に来ないという連絡がすでに入っている」

「どういうことですかああああああっ!」


 何と入学式初日から出席率25%である。この世の終わりか。


「とりあえず理由を述べていくと、まず『筋肉が納得していないから』が一名」

「接続詞は適切ですかね? 筋肉『に』じゃなくて筋肉『が』なんですか?」

「そのように言っていた」

「ふむ……わかりました!」


 さいですか。

 まあ、わかっているのかわかっていないのかはよくわからないが、宗一郎はスルーすることにしたようだ。

 

「……次に、『時差ボケ』が二名」

「~!?」

「外国に行っている生徒がいて、どうやら今日が入学式であることを知らなかったようだ」

「むう……まあそういう時もありますね!」


 あってたまるか。


「次に……『闇市にいいアイテムが出る噂を聞いた』が二名」

「なるほどです」

「……なるほど?」


 栞は首をかしげているが……まあ、特待生に選ばれるような人間ともなれば、備えている技術力は高いだろう。


 その影響で、あまり表に出てこないアイテムを求めるのは、別にわからないことではない。

 わからないことではないが、学校には来いと言いたくなるが……多分聞かないか。


「次に、『地球の重力に慣れるのにちょっと時間がかかる』が一名」

「普段月にいるんですか?」

「そんなところだ」


 魔法が表に出てきて、それが宇宙開発技術に使われた結果、月面にいく難易度は年々、着実に下がっている。

 とはいえ、当然のことだが一般家庭が何の準備もなく手を出せるようなものではない。


 ただ、『地球ではできない実験』をするにはもってこいの場所ではあるため、分野によっては月にいることもあるだろう。知らんけど。


「理由はこれが最後。『地元の運営で忙しい』が三名だ」

「なんで高校生をやろうと思ったんですか?」

「知らん」

「え、本当に知らないの?」

「私は面接担当ではないからな、特に重要な資料ももらってないし」


 要するにこの学校の志望動機を聞いていないのだ。だからってこんなことがあってたまるか。


「……さて、そんなわけで、九名の生徒が来ていないが、少なくとも学校側としては何も問題はない」

「明らかに本人が各々学ぶ理由になってないと思うわ……」

「私もそう思うが……まあ実際に会ってみたら結構酷かったから、諦めた」

「ああ、そう……」


 そう……要するに……どうしようもないのだ!


 ということを栞はとてもよく理解した様子。

 刹那もニコニコしているだけだが、多分分かってはいるはず。


「むうう! 私はみんなと一緒に授業を受けたいです!」

「別に他のクラスに飛び込み参加しても問題ないぞ」

「え、そうなんですか!?」


 驚く椿。

 というか、カリキュラムが全然違うはずなのに、飛び込んで問題がないのかという話がまず出てくるが……。


(むしろ生徒側がそれを望んでるからな……)


 宗一郎は内心で溜息をつく。


 まあ、要するに、このアホの大権化である椿の成分を極めた中毒者が、この学校には多いということなのだ。


「……まあ、いろいろどうしようもないということは分かったわ。それで、今日の予定はどうなっているのかしら? 何も聞かされていないのだけれど……」

「~♪」

「そうですね! 刹那の言う通りですよ!」

「何を言ったんだ?」


 全然わからなかったわ。『んー』と『フフッ』の中間みたいな鳴き声しか出してないからね。


「むー……うへへ~♪」

「わかるわけないだろ」


 もうちょっと日本語で話してくれ。絶好調なのはこの際いいからさ。


「……で、何をするのかしら?」

「特にすることはない。授業が始まるのは明日からだし、今日は学校を見て回って帰っても大丈夫だ。特待生である君たちはすでにこの学校で使う学生証が発行されているから、それを使って、学校が抱えているダンジョンに挑むこともできる」

「要するに、することは特にないし、生徒が学校内で出来ることはもうすべてできる。ということ?」

「そういうことだ。私はこのフロアにある特待生用の職員室にいるから、何かあれば連絡してくれればいい」

「何か食べ物とか置いてるんですか?」


 一番最初に気になるのそこ?


「米が二十キロくらいと、五食パックのインスタントラーメンが大量に置いてあるくらいだな」

「……」


 宗一郎の体って米とカップ麺で出来ているのだろうか。

 栞は何となくそんな気がしてきた。


「わかりました!」


 笑顔の椿。

 どこかのタイミングで食べに行くだろうなぁ。となんとなく思う栞である。


「むう……とりあえず今日は、学校を見て回りますよ! むっはー!」


 そういうと、もうそこからは宗一郎の方を見ることなく教室を出ていった。


「……はぁ、先生。また明日」

「ああ。また明日」

「~♪」

「……あー。また明日」


 多分、これでいいはずだ。

 何となくそんなことを思いながら、宗一郎は刹那に返事をした。


「そういえば先生。副担任は……」

「帰った」

「帰った!?」


 自由過ぎるぞ特待生クラス!

 まあ、要するに、あれだ……。

 どうせ皆ギャグ要因。ということだ。もう知らん。

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