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第一話 新入生代表、朝森椿!

 魔法が世界に出てきても、結局は『魔法の才能がある者が活躍する』ということに変わりはない。


 モンスターという存在はいても、そのほとんどはダンジョンの中に存在するため、『ダンジョンに潜り、素材を持ち帰ること』において才能のある者が『冒険者』として活躍する。


 秘匿された環境であるならば、一人一人が自分が特別だと信じて戦えるが、それが表に露見し、そして普遍化してしまうと、やはり『才能がある者』が活躍し、その他の人間はやはり『その他』なのである。


 ただ、魔法などというものが世界に現れたということは、より『人間の体に潜む特殊性』を見出した者が他者を追い抜く力を手に入れる。


 オンリーワンというのは、おそらくそんな存在なのだ。


「電子レンジが爆発しそうですううう~~~っ!」


 などというモノローグとは一切関係ないが、一人のおバカさんが家で叫んでいた。


 彼女の名前は朝森椿(あさもりつばき)。まあ、外見だけで言えば、かわいらしさで構成された一級品である。


 長く伸ばした緑がかった黒髪には白いメッシュが入っており、目は大きくパッチリしていて、どこか小っちゃい雰囲気を醸し出す。


 まあ、実際に身長は低いのだが、本人のアホっぽい仕草も相まって、実際の身長よりも低く見えるくらいだ。


 ただし、制服に包まれた胸はFに到達するほど育っており、なかなか魅力的で、そこ以外は全体的に細いといったところか。


「ゆで卵がめっちゃ振動してるですうううっ!」


 なんで入れたん?


 あと、ゆで卵ってそんなに振動するん? 箸とかで突っついた瞬間にパアンッ! ってはじけるイメージはあるけど……まあええわ。


「むううっ! やばいですうううっ!」


 そういって、電子レンジの扉を開ける。


 次の瞬間、パアンッ! とゆで卵が爆発し、中が飛び散った。


「あちちちちっ! 熱いですううっ!」


 しばらく電子レンジの傍であたふたしていた椿だが……。


「……はぁ、椿様。一体何をしているのですか?」

「むっ! あっ、セフィアさん!」


 椿に話しかけたのは、一人のメイド。


 身長は椿よりも高く、本格的なメイド服を着用する胸がよく育った若い女性。


 銀髪碧眼で長く伸ばした髪と落ち着いた表情は儚さすら感じるほど端正で整っている。


 正直、一般家庭のリビングと言う環境ではものすごく浮いているが、椿がそれを気にする様子はない。


「ゆで卵を入れたら爆発したんですよ!」

「……」


 セフィアはチラッと電子レンジの中を見る。


 まあ、なんというか、卵が遠慮なく飛び散ってドエライことになっていた。


 片付けるのがめっちゃ面倒なことになっているが……残念なことに片付けはセフィアである。


 このアホに片づけをやらせたら何が起こるかわかったものではない。


「はぁ、椿様はそろそろ入学式の時間ですよ。鞄の準備はしていますからね」


 そういって通学鞄を取り出すセフィア。


「おおおっ!」


 感動している椿。


 ただ、その服装は卵まみれである。


「……」


 セフィアが指をパチンと鳴らす。


 すると、椿の体が一瞬ひかって、付着していた卵がすべて取り除かれ、元の綺麗な状態に戻った。


「おおっ! ありがとうございます!」


 わーいわーいと喜ぶ椿。


 それに対して呆れの表情を崩さないセフィアだが……さっきの卵の除去といい、どこか手慣れている感じがするのは気のせいではあるまい。


 多分、似たようなことはよくあるのだ。


「では、行きますよ」

「はい!」


 鞄を貰って、椿は元気よく頷いた。


 ★


 沖野宮高校。


 2020年付近に、それまで裏でなんやかんやしていた『魔法社会』が表に出てきたことで、『魔法学校第一期選出』により選ばれて正式な『魔法学校』となり、現在は『冒険者学校』となった高等学校である。


 最新式の設備と売店が揃った『日本最高レベルの冒険者学校』であり、狭き門をくぐって入学するゆえに、生徒たちの平均レベルも高い。


 基本的に、冒険者の役目は、『ダンジョン』から魔石という新エネルギー物質を持ち帰って換金すること。

 生徒の時期から実際にダンジョンに挑むカリキュラムが用意されており、実戦的な学校である。


 ……そんな学校だが、新入生の歓迎を祝う『入学式』は、開会の言葉からはじまり、閉式の言葉で終わる『ダルいアレ』と同じである。


 しかし……そう、しかしだ。『悪ノリ』というものを考えてしまうものがいて、そしてそれを承認してしまうソレが、『同調圧力』となって学校の運営にのしかかった場合、『特例』となるのだ。


「新入生代表。朝森椿」

「はい!」


 というわけで、アホの権化のような少女が、何が嬉しいのか満面の笑みで壇上に進んで、指定位置に立つ。


 あまり高校生としては足りない身長のため、マイクの位置を調整し……。


「あの、私、何も原稿を貰ってないんですけど、何を言えばいいんですか?」


 ……まあ、こういう事を特に躊躇なく入学式という場でぶっちゃけられるのが、朝森椿の神経と心臓である。


「むっ? え、『自由にどうぞ』ですか? むうう……」


 司会進行の教員が『自由にどうぞ』と書かれたカンペを出したので、椿は唸る。


 ……これで戸惑いを見せないあたり、すさまじい心臓の持ち主だ。


 で、一体どうするのだろう。

 新入生代表の挨拶なので、よくある構成としては、季語や時候の挨拶から入る。


 ただ、季語や時候の挨拶など、調べたことがなければさっぱりわからないだろう。

 いや、調べていたとしても、この場で即座に言えるようなものでもない。そこまで、新入生代表の言葉の原稿は自由ではない。


 ……椿が調べているようにも見えないし。どうするのだろうか。


「皆さん! ハグハグは世界を救うんですよ!」


 この子は何を言っているのだろうか。


「単なる愛情表現じゃないですからね! 抱擁はするだけでなんだかいい気分になれるんですよ!」


 さいですか。


「私はよく『むっはー!』とお父さんに抱き着きますからね!」


 赤裸々にも限度があるはずだが、そのあたりどうなのか。

 あと、『校長先生の席』に座る男性……椿と似たようなメッシュが頭に入った男がひっくり返りそうになっているが、割愛させてもらおう。


「なんだか思ってたより女子生徒がめっちゃ多いので、私はすごく楽しみですよ! 皆さんとハグハグしながら、むっはー! って一緒に元気になれるのを楽しみにしています!」


 ……事実を言えば、椿の目に映る生徒は、男子が二割、女子が八割と言った割合だ。確かに女子生徒がかなり多い。というか、かなりどころの話ではない。


「というわけで、私からの言葉は以上です!」


 そして軽く礼をする椿。


 リハーサルにいなかったのではないかと言うほど自由の権化のような感じである(まあ実際、リハーサルにいなかったのだが)。


正直、『何かの成績優秀者としてこの学校では何をしたいのか』みたいな呼ばれ方であれば『自分本位』でも全然かまわないのだが、『新入生代表』という点で言うと、これはどうなのだろうか……いや、考えても仕方がない。


 入学式の構成上、学校長と在校生代表が何かしら言って、最後に新入生代表が何かを言うものになっているので、特に何か長々と話すのは椿で終わりだ。


 よって、今年度の入学式は、これで概ね終わり。


 ここから、椿たち、新一年生の入学式が始まるのだ。


 何をどう考えても、正気ではない。

 ただ、そんな椿の言葉に対しても、生徒のほぼすべてが拍手をしているというのも、事実である。


 ……事実であってほしくはなかったのだが。後の祭りか。これが世界最高の冒険者学校の入学式の新入生代表の言葉だというのだから、世も末である。

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