解《しんじつ》を求めて
裁判が行われた夜、一人の男がエドワードの牢屋へ訪れていた。
「俺を笑いにでも来たのか。ダルマン」
エドワードはそう言うと向かって歩いて来たダルマンに目を向けた。
「まさか、そんなわけないですよ。一つお話があって寄らせて頂きました」
ダルマンは裁判の時とは違い丁寧な口調で話しかけた。
「話とはなんだ」
「今日行われた裁判についてです」
エドワードは何も言わずに続けさせた。
「私はあの裁判であなたを無罪にしようとしました」
「……は?」
あまりに突然の告白でエドワードはその一言しか言えなかった。
「まぁ、信じて頂けないのも当然ですね」
「あそこまで強い口調で発言の余地を与えないほど咎めたのですから」
ダルマンはそう言うと深々と頭を下げた後に続けた。
「私はあなたが捉えられた直後に紙の存在を聞き、あの兵士に事前に聴取を行いました」
「じゃあ、俺が無実って知っててあの裁判を行ったのか?」
エドワードは怒り混じりにそう言った。
「私の独断による聴取のみで周りの人を納得させることはできません」
ダルマンは議員を含めた周りの人を納得させるためと、真に今回の事件を起こした者を見つけ出すために裁判を行ったことを説明した。
「やはり、あの中に本当の首謀者はいたのか」
エドワードがそう言うとダルマンは言った。
「あくまで私の推測によるものですが、ほぼ確実にあの場で見ていたでしょうね」
「私が繰り返し同じような質問を行い、あなたが毎回否定するといったことが長い時間繰り返されれば、それを見ている本当の首謀者は苛立ちを隠せなくなるでしょう」
「私は皆さんより一段高いあの席から周囲を見渡すことで怪しい人物を探していたのですよ」
それを聞き、エドワードは驚いた様子で言った。
「すまなかった。てっきりダルマンが仕組んだものかと思ってた」
エドワードの謝罪に対しダルマンは笑いながら言った。
「まぁ、あそこまで決めつけるような言い方をしたのですから疑われて当然です」
「それにしても、皇太子殿下が絞首刑を言い渡すとは思いませんでした」
ダルマンは内心かなり驚いたことをエドワードに伝えた。
「まぁ、殿下が判断した結果だ。今更どうすることもできない」
「俺はもう死ぬから本当の首謀者を見つけ出すことはできないのが唯一の心残りだよ」
エドワードは続けて言った。
「ダルマン、後のことは頼んだ。議会では対立することが多かったが良いライバルだったと思ってる」
エドワードのその発言を聞くとダルマンは驚いた表情をした後に言った。
「まさか、あなたからそのようなことを言われるとは思ってもいませんでしたよ。後のことは任せてください」
そう言うとダルマンは牢屋をあとにした。
数時間後の夜明け前にまた、別の人物がエドワードのもとを訪ねていた。
「エドワード、すまなかった」
「あの裁判での判決は本来ならあってはならないものだ」
エドワードは驚きのあまり目を見開いた。
「なぜ、皇太子殿下がこんな場所におられるのですか?」
「お前を逃がそうと思っている」
その言葉を聞いた瞬間、エドワードは言葉を失った。
「……何を言っているのですか」
「そのままの意味だ」
私は牢の中を見渡し、声を潜めて続けた。
「このままでは、お前は皇帝殺害の罪を背負ったまま処刑される」
「ですが……殿下自身が私に死刑を言い渡したではありませんか」
「そうだ」
「だからこそ、私自身の手でその判決を覆す」
「しかし、それでは殿下が……」
「私のことはいい」
「今、一番重要なのは父上であるクレンバルトを殺した者を見つけることだ」
その名を聞いた瞬間、エドワードの表情が変わった。
「……皇帝陛下を?」
「ああ」
私は懐から一枚の紙を取り出した。
「これは、父上が死ぬ前に残したものだ」
エドワードは紙を受け取ると、そこに書かれた文字を見つめた。
「これは……」
「詳しいことは逃げた後に話す」
私は牢の鍵を取り出した。
「今のお前には、二つの選択肢がある」
鍵がゆっくりと回る。
「このままここに残り、何も知らないまま死ぬか」
牢の扉が開いた。
「それとも、生きて一緒に真実を探すか」
エドワードはしばらく黙っていた。
やがて紙を強く握りしめる。
「……私は」
その声には、先ほどまでの諦めはなかった。
「私は、陛下を殺した者を見つけたいです」
私は何も言わず、ただエドワードを見つめた。
「私が死ねば、この事件は終わる。そう思っていました」
エドワードは立ち上がった。
「でも違う」
「私が生きている限り、まだ終わっていない」
私は小さく頷いた。
「その通りだ」
二人は牢を出た。
誰もいない廊下を歩きながら、エドワードはふと足を止めた。
「殿下」
「なんだ?」
「なぜ、そこまでして私を?」
私は少しだけ振り返り言った。
「お前が無実だと信じているからだ」
「それだけですか?」
「……それだけじゃない」
私は一度だけ目を伏せた。
「クレンバルトが最後まで守ろうとしたものを、私は知りたい」
その言葉を聞き、エドワードは黙って頷いた。
皇帝を殺した者は、まだ誰にも知られていなかった。
そして皇帝の死を利用し、エドワードに罪を着せた者もまた、その姿を見せてはいなかった。
裁きによって、罪人は決められた。
だが――
それが、真実とは限らない。
皇帝の死を巡る事件は、まだ終わってはいなかった。
エドワードは真実を求め、アシュは父の遺した意思を追う。
その先に待つものが何なのか。
まだ、誰も知らない。
ただ一つ確かなことがある。
この夜を境に――
真実を求める者たちの物語が、始まった。




