第7話 未来への赤スパ
一応の推理はできたが、スマホひとつでは六根丸とドヒョウガメの所在までは掴めない。
方法のアテはあるが、リンクスレベル1の一般人では実行できるか怪しい方法だ。
ゲームの主人公クラス、あるいはメインキャラクラスのリンクスレベル、それと資金力が欲しい。
その条件をクリアできる人間となると、
――神喰丸本人。
ということになる。
黒歴史タイトルではあるが〈欺瞞のユートピア/烙印のディストピア〉のメインキャラのひとりだ。
神喰丸の力があれば、六根丸とドヒョウガメを探り当てられるだろう。
実際ゲームの中でも神喰丸はとあるテラモンの力を借りて六根丸たちを探し出し、惨殺している。
つまり、探し出すタイミングをドヒョウガメ殺害の前に持っていけばいい。
神喰丸の連絡先は持っている。
スマホのテラモン管理アプリを使い、対戦履歴からカジキマルのデータを呼び出した。
”いきなり連絡して話通じるやろか”
――ダメなら別の手を考えるしかないな。
ことによっては警察の被疑者リストに加えられ、ガチめの取り調べを受ける羽目になるかも知れないが、ここで手をこまねいているよりマシだ。
対戦希望のボタンをタッチし、メッセージを書き込んだ。
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先日対戦させていただいた金ハネコイの一本槍です。
警察の方からドヒョウガメ誘拐の件を聞きました。
私のハネコイには〈よち〉という特殊な天性スキルがありまして、
この事件がどうなるかが見えました。
よろしければ直接お電話をいただけないでしょうか
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”初耳やな、うち〈よち〉なんて持っとったんか”
――前世のゲームの記憶なんて話をいきなりするわけにはいかないからな。適当に調子を合わせてくれると助かる
”かまへんけど、返事が来るかどうかも怪しいんと違うやろか、〈よち〉なんて話”
――怒らせてブロックされる可能性のほうが高いかもな
そんなやり取りをしていると、早速スマホが鳴った。
知らない番号。
神喰丸からだろう。
テラモンたちは不思議な力と無限の可能性が備わっている、というのがこの世界の常識で、予知能力を持つテラモンも普通に確認されている。
良くも悪くもオカルト的なハッタリが通じやすい。
「もしもし」
『カジキマルと申します。一本槍さんのお電話でしょうか』
「はい、一本槍です。突然妙なご連絡をして申しわけありません」
『……いえ、それで、ハネコイの〈よち〉というのは一体……』
「突拍子もない話になってしまうのですが、私のハネコイは特殊な個体のようで。時折私に未来の断片を見せてくることがあります。それによりますと、この事件の主犯は神喰丸さんの兄弟子にあたる六根丸という人物でした。誘拐されたドヒョウガメは殺害され、六根丸は神喰丸さんの復讐で惨殺されます」
電話の向こうで、神喰丸が息を飲む。
その背後がざわめく気配もあった。
周囲に警官がいるのだろう。
スマホが受け渡される音がして、別の男が電話に出る。
『警視庁テラモン課の鹿島と申します。伊勢界人さんですね。あまり軽率な情報を流されると名誉毀損や捜査妨害にあたる可能性があります』
早速警告1。
顔はわからないが、強面の警官なのだろう。
圧が強い。
”ハッタリ勝負や、負けたらあかんで”
――ああ。
ハネさんの応援を受けつつ続ける。
「私はテラモンの〈よち〉の内容をお伝えしただけです。警察の側でも、六根丸の所在を追っているのではありませんか?」
声の震えを押し殺し、ハッタリ気味にそう告げる。
正解だったようだ。
息を呑むような間があった。
「もう一度、神喰丸さんに変わっていただけますか?」
さらにしばらく間があった。
“相談タイムやな”
軽い調子で呟くハネさん。
こういう場面では、脳内で軽口をたたき合える転生者リンクの存在がありがたい。
検討の結果、一応話を聞こうという結論に至ったらしい。
『少々お待ちを』
鹿島氏がそう告げて、再び神喰丸が電話に出た。
『神喰丸です』
「六根丸とドヒョウガメの所在を探り当てられるテラモンに心当たりがあります。シンジク駅東口、3Dネコビジョンに、シュレベロスというテラモンが潜んでいます。神喰丸さんなら契約して協力を得られるはずです」
日本で言うと新宿駅東口である。
『どうして貴方がそんなことを?』
「〈よち〉の一部です。神喰丸さんはドヒョウガメが殺されたあと、シュレベロスの力を借りて六根丸の所在を探し当てます。復讐の為に」
シュレベロス。
猫型量子演算テラモン。
ハッキングやクラッキングを得意とするサイバー系猫型テラモンだ。
格闘系メインの神喰らいのカズトキの手持ちの中に何故かサイバー系が混じっているということで不思議がられていたが、復讐のための追跡・捜索役だったのでは、と考察されていた。
「逆にいえば、ドヒョウガメが殺される前にシュレベロスの力を借りれば、未来は変えることができます。〈よち〉とは、未来を変えるためのスキルです」
ありもしないスキルで我ながら良く言うものである。
テラモンリーダーの才能はないが、役者や詐欺師、ハッタリの才能はあるのかも知れない。
「取り急ぎ私も3Dネコビジョンに向かいます。信じていただけるならお出でください」
ボロが出る前に電話を切り、冷たくなってプルプルする手をパタパタ振って血の気を戻す。
“おつかれさん、ええ芝居やったで”
――逮捕されないことを祈るばかりだけどな。
今から戦々恐々だが、勝負はまだまだこれからだ。
次は代わりの店番を手配する。
実家で隠居中の祖父に連絡したところ、妹の伊勢世界が黒柴+執事テラモンのシバスチャンを車に乗せてやってきた。
「悪い、急に」
「いいってことよー、いっといでー」
「スィヴァイーヌ」
気楽に応じた世界と優雅に一礼したシバスチャンに見送られ出発。
シンジク駅東口を見下ろすシンジク3Dビジョンの下へ足を運んだ。
シンジク3Dビジョンはシンジク駅東口広場を見下ろすビルの最上階に設置された3D街頭広告ビジョンである。
前世の新宿駅東口にあったものに似た巨大なネコの立体映像で有名だが、時々そのネコの頭が2つになったり3つになったりすることがあった。
運営会社の意図とは関係なく発生するその現象は、ネコ版ケルベロスということでネコベロス現象、実際に確認するまでネコの頭の数が確定しない、なんなら観測者によって頭の数が違うということでシュレベロス現象と呼ばれ周囲を困惑させつつ、特に実害もないということで放置されていた。
正体はというと、広告用の巨大ネコのデータが精霊力の影響で生命を持ったサイバー系テラモン。本当はネコというよりもっと不定形、不安定な存在だったらしいが人々にネコとして観測され続けたことでネコとして安定していったらしい。
名前のほうは最初はネコベロス、シュレベロスの両方で呼ばれていたが、観測タイミングによって頭の数が安定しないということで、シュレベロスのほうが採用されることになった。
初登場は〈欺瞞のユートピア/烙印のディストピア〉だが、以降のシリーズ作品にも良く登場していてクロ、シロ、ミケ、トラと多くのバリエーションが存在する。
シンジクのシュレベロスはミケである。
“どないしてアプローチする?”
ゲームでは3Dビジョンのある場所や映画館などに出現したところをバトルを挑んで弱らせ、ボトルを投げつければ捕獲できることが多い。
この時間帯にこんな場所でそんな真似をしたら普通に迷惑行為として警察のお世話になる羽目になる。
なので今回は別の手で行くことにする。
コストを考えると神喰丸にやってもらいたいところだが、今のところ姿は見えない。
まずはオレが挑戦してみることにした。
スマホを取り出し、動画配信サービス、チューチューブのアプリを起動。
3Dビジョンに設置されたライブカメラのページを開く。
課金チャットのボタンを叩いて¥1,000と入力。
――――――――――――――――――――
【願い事】¥1,000
ドヒョウガメというテラモンが誘拐された。
行方を調べるのに協力してほしい。
――――――――――――――――――――
そう投稿し、3Dビジョンに映った巨大三毛猫の姿を確認する。
うまく行けば首が二本または三本のネコベロス状態になって動き出すはずだが――。
反応なし。
“¥1,000は安いんと違うか?”
――そうだろうな。
¥1,000では本職の探偵どころか学生バイトひとりも雇えない。
――――――――――――――――――――
【願い事】¥10,000
テラモンの命がかかってる。
力を貸してほしい。
――――――――――――――――――――
巨大三毛猫がこちらを見たが、これみよがしにあくびをされた。
一介の釣り堀管理人の立場ではこれ以上の出費は厳しいが、震える手で再度課金チャットを投げようしたとき、赤いチャットメッセージが放りこまれた。
――――――――――――――――――――
【願い事】¥50,000
オレのドヒョウガメを探せるのか?
金で片付くならいくらでも出す。
協力してくれ
――――――――――――――――――――
最大金額の課金チャット、いわゆる赤スパだ。
“来よったな”
――ああ。
通行人達が足を止め、ざわめき始める。
「神喰丸?」
「神喰丸じゃないか?」
「誰それ」
「最近優勝した相撲の力士」
「神喰丸ー!」
「応援してるぞー!」
ユートピアの四騎士、神喰らいのカズトキ。
今は期待の若手力士、神喰丸一刻が到着したようだ。




