令嬢、もう一度プロポーズされる
唖然。
何で。本当に何で?
「最後の特権で、記憶だけは残したまま転生の渦に飛び込んだ。もしも同じ時代に生まれたら、人間としてだけど助ける事も様子を見る事もできるかなーと思って」
まるでただの思い出を話すかのようにアオは不思議な事を言う。
「せめて五歳差位で生まれられたらいいなと思ってた。最悪、母子位だったら何とかって思ってた。さすがに孫位離れてたら何もできないなーとか思ってたけど、運よくすぐに順番が回ってきたみたいだな。…って、気付いたのはいつ頃だったかな。言葉を理解して年号を知った時か」
「…じゃあ、何の特別な力も無く家を建て直したって事?」
「そうだよ。金も知識も権力も無いんじゃ、いざお前を助けようと思った時に何もできないだろ? まぁ、その見切りが早かったのはズルをしたからだけどな」
「ズルって…」
私と一緒で生まれる前の記憶も意識も持っていた。だから確かにスタートは早かったかもしれない。けれど人生が楽だった訳じゃない。凄く凄く大変だった筈。神様だったら何でもできるのに、どうしてそれを手放してまで。
「何もそんな…大変な思いしなくても…」
「じゃあさ」
その言葉に意地悪く笑って、アオは私の顔を覗き込むとこんな事を言った。
「お前はさ。人間にはない便利な力を使って何でもできる俺だと知っても、今まで通り好きでいてくれる?」
「…え?」
「かことして一緒にいるならそれでも良かったかもしれない。最初から知ってたことだからな。でも俺だったらどうだ? ただの人間だと思っていたのにそうじゃなかったら」
「それは…」
どうして責められる様な事を言われるのか分からない。けれど彼の言葉に堂々と言い返す言葉を持っていなかった私は逃げるように俯いた。
「今まで頑張ったと思っていたことが全部楽して手に入れたものかもしれないって思わない? それでも俺を見る目は変わらないって言い切れる?」
「でも…」
だからってその選択をする理由にはならな…。
「アリア」
私の手を取って、低い声で囁くその声に我に返った。目を丸くして彼を見上げると、思っていたよりもずっと近くに彼がいた。
「お前、全然納得しないんだな。この頑固者。しょうがないから全部教えてやる。本当はほんの少しだけ、こうなる予感がしてたんだ」
「…え?」
「お前の事を、途轍もなく好きになる予感がしてた。少なくとも側でもっと見ていたい気持ちがはっきりとあった。あの時、未来の為に何もかも投げ出した強いお前の事も、滅亡寸前の世界に飛ばされる前に覚悟決めたお前の顔も、ずっと頭に残ってた。その時はそれがどういう感情か分からなかったけれど、神でいる限りその正解は分からないって分かってた。だから確認する為に人間になったんだ。同じ土俵にいなきゃ、本当の意味でお前を落とせないって分かっていたから」
「ええ?」
馬鹿? 馬鹿なの? そんな事で。
「それが間違いじゃなかったって事はすぐに分かった。だから人間になったことは後悔してない。でも落とせるかどうかは別の話だから、俺、ちゃんと努力したよ? お前には精一杯優しくしたし、お前と不自由なく生きる為に勉強もした。俺は人間として過ごすのが初めてだったからそうとしかできなかったけど、本当は駆け引きするような男の方が好みだった?」
「…そんな…」
そんな事ない。不安を煽らなくても大好きになってしまう位にこの人は自分に優しくて甘かった。中毒になるほど。もっともっとと求めてしまう程。
それが危ういものの上に成り立っていなかったことを知って、安心よりも欲を強く感じている事をこの人は分からないんだろうか。ずっと一緒にいられるのならどんなに嬉しいと思っているか。
「じゃあ、変わらず好きでいてくれる?」
耳に息がかかるくらい近くでアオが囁く。待って。その声はやだ。
必死に頷いた。これ以上近付いたら危ない。だからちゃんと答えたのに、それを分かっている彼はもっと距離を詰める。
「これからも努力したら、もっと好きになってくれる?」
「ん…っ」
わざとだろうか? それともわざとじゃなかったんだろうか。首に唇が触れて声が漏れた。はしたない。
「どっち?」
「んんん…」
腰を抱かれて必死に口を塞いで首を振った。やめて。もう耐えられない。
「え? これで限界?」
馬鹿! この馬鹿!! 何が駆け引きもしないよ。これがその駆け引きじゃなくて何なのよ! それなのにその気が無いのが本当に腹立つ!!
「何か言って」
無理無理無理。言わせる気なんてない癖に。
「言わないんだったらキスして良い?」
聞いた癖に返事も待たずにアオは私の口を塞いだ。こじ開ける様に舌を絡めて、肩で息をした私を見て笑う。
「可愛い」
「…意地悪」
本当に底意地が悪いったら。嘘だって分かってるんだからね!?
「アリア」
その言葉を聞いてアオはもっと笑った。
「お前がそう言う時は、まだ許容範囲だって俺、知ってるよ」
もう一度首に顔をうずめて、私をきつく抱き締めてアオが囁く。だから、もう、それ止めて。体が震える。
「本当に怒っている訳じゃないのも知ってる」
嘘、嘘嘘。私は本気で怒っているの。あなたよりも自分の事は分かってる!
「アリア」
耳元で囁かれて、もう我慢ができなくてアオにしがみついた。お願いだから、もう意地悪しないで。
「これからも大切にするから、ずっとそばにいて」
プロポーズと同じ言葉。狡い。何て狡い人。本当に、途轍もなく狡い人。
「もう一度返事を聞かせて」
どうして私の返事が必要なの? もう分かっている癖に。
分かっているわよね? 今までよりもずっと。それなのに本当に意地悪。悔しいほど嬉しい。
「…アオ」
「ん?」
「…そんなに私の事が好き?」
「うん」
「…趣味が悪いわ」
「お前も大概だと思うぞ」
「…知らなかったんだから仕方ないじゃない」
「アリア」
笑ってアオが言う。あ。時間稼ぎしているのバレた。どうしよう。
「何言っても駄目だよ。答えて」
うぐぐ。
「もう一回そばにいてくれるって言ったら、本当に絶対放さないから覚悟して」
放さないでいて。と、言えない自分が恨めしい。言えないのに愛の言葉がもっと欲しい。私はいつからこんな強欲になったんだろう。
「もっと言って」
と、アオにお願いした。私が素直になれるくらい、もっと。そう言ったらアオが笑う。
「お前、俺を何回ひっくり返したか覚えているか?」
こんな時になんなの。もう。
「…二回」
「四回」
「それが何?」
「お前が許したら何十倍やり返すか分からないけど覚悟しておけよ」
「!? ちょっ…」
「それでも良いって言って」
腰を強く引き寄せて、誘惑するように耳元でアオは囁く。
「それ位俺のことを好きになって」
そんなの、もうとっくに。分かっている癖に。
意地悪。本当に言うまで許してくれないのね。何でこんな時は甘やかしてくれないの?
「だったら早く、ベッドに連れて行って」
泣きながらそう言ったらアオが笑う。その後彼は、癖になるほど甘やかしてくれた。




