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令嬢、結婚する

 結局、私達は学校を卒業して、その年の夏に結婚することにした。アオには本当に良いのかと何度も確認されたけれど、彼以外の人と結婚することは考えられない。両家の関係も良好だし、皆王都にいるから両親にもいつでも会いに行ける。先延ばしにする理由がなかった。


 何よりも、私は心のどこかで恐れていたのかもしれない。もしもこの先に何かがあった時、自分はアオの側にいなかった事を後悔しないか。早く結婚をして、ほんの少しでも彼と一緒にいれば良かったと思うのではないか。皮肉な事に消し去った筈の、考えたくもないそんな事が私の背中を強く押した。




 そして私とアオは、王都の中心から少しだけ外れた静かな地域の邸宅に住む事になった。色々と紹介されたけれど、どれもこれも豪華過ぎてお腹がいっぱい。二人きりなら三部屋もあれば十分なんだけどなー。と、昔の感覚で思ったりもしたけれど、仮にも公爵家のご子息が住むのにそうもいかない…らしい。使用人も必要なんだからと言われて、失念していたけどやっぱりそうだよね、と納得した。


 結局、身分に対して極小過ぎると言われた部屋数が十程、庭と使用人の為の別宅まである邸宅に二人で決めた。アオも「このくらいで良いよ。管理も面倒だし」と、五倍十倍規模のお城の様な物件ばかり持ってくる親御さんに呆れた顔をして言い返していた。この家だっていくらするんだか。と、引き攣っていた私に彼のご両親は言う。


「アイオライトが結婚する時用に溜めていたお金、全然使う機会がないよー」


「これの五十倍くらい用意していたのに、家と家具と諸々合わせても全然減らないよー」


「…」


 げー。と、言ってしまいそうになった。何か、逆にすいません。と、言いかけた私の隣でアオが言う。


「どうせ俺が稼いだ金じゃん」


「そうだけどさー」


「だからちゃんと取っておいたのにー」


 おーいおい。と、泣きまくるご両親に、もしも引っ越すことがあったらよろしくお願いします。と頭を下げた。






 次に使用人をどうしようか。何人お願いすればいいのかなー。と、私の部屋で二人で相談していたら裏でとんでもない事になっていた。まず、その話を聞いていた給仕の使用人がお父様とお母様のところにすっ飛んで行って「自分が行きたい!!」と直談判した。それを聞いていた他の使用人が俺も私もと言い出したらしい。じゃんけんだ殴り合いだやんのかこらと我を見失い始めた使用人達を止めもせず生温かい目でしばらく見ていた二人は、やがて私達のところにやってきてこう言った。


「アリア」


「あ。お父様。お母様」


 丁度良いところに。聞いて下さい。と、私はにこにこでアオと二人で書いていた紙を見せた。


「まとまりました。メイドさんと警備の方を五人ずつ、あとコックさんと庭師さんで大丈夫かなと話をしていたのですがどうでしょうか」


 あとはアオの家からも仕事を手伝ってもらう人を何人か呼ぶつもりらしい。思っていたよりも大所帯になっちゃったけど、皆がいてくれたら何だかんだ楽しそう。と思いながら私は言った。


「本当はもう少し少なくても良いかもと話をしていたのですが、あまり少ないと今度は皆の負担が重くなるので」


 ね。とアオに言うとうん。と彼も頷く。


「それで、募集をかけようと思うのですが、これって」


 どこに…。と言いかけた私の肩をがっしり掴んでお母様は言った。


「アリア」


「…はい」


 あれ。やっぱり贅沢だった? そう思った私にお母様は言う。


「何十人でも連れて行きなさい。もう、いくらでもいるから」


「…はい?」


 うちから? いやいや。


「いえ。それではこの家が…」


「大丈夫だから」


「でも…」


 と、反論しかけた私にお父様が言う。


「外注なんかしたら血を見るから連れて行って上げなさい」


「血?」


 その時、遠くでかすかに何かが割れる音がした。




 そんなこんなで結局倍近い人がじゃんけんで勝ち抜き(と聞いたけれども何故か傷だらけでやってきた)彼らにお世話をして貰う事になった。これ以上戦わせると命が危ないからこれで手を打ちなさいと言われたけどじゃんけんじゃないの? それだけではなく週に二回ほど、家のクリーニングに十人程が派遣されるらしい。…仕事増えるけど良いの? そう言いかけたけれどもお父様とお母様の「好きにさせなさい」の言葉に二人の意見すら入っていない事を察し「好きにすれば」のアオの一言で有り難く受け入れる事にした。皆どうしたんだろう。まぁ、私が一人家から出るだけでも使用人の手は余るのかもしれない。と、納得した。こんなに至れり尽くせりで本当に有難い事だ。どうか、この幸せがずっと続きますように。






 結婚式の日は快晴だった。二人と家族だけで静かな式を挙げた。皆に綺麗だと言ってもらって、アオの嬉しそうな顔が見れた。私も嬉しい。心底幸せだと思った。二人で永遠を誓い合い、指輪を交換してキスをした。人生で最高の日。この最高がこれからもずっと続くと良いのに。そう思いながら嬉しくて幸せで、少し不安な私をアオは抱き締めてくれる。


「アリア」


 その声が不安だけを消してくれる。世界一安心できる場所。


「この世界で、アリアに出会えて良かった」


 その言葉が少し、また不安を連れてくれる。この世界で私は間違いなのに、この人の愛を受け取っていいのだろうか。本当は他に、誰かいたのかもしれないのに。


 やだ。と、彼を抱き締める。だとしても嫌だ。この人と離れたくない。


「俺を受け入れてくれてありがとう」


「…アオ」


 いつかこの痛みが、全て甘く優しいものになればいいのに。それは私が死ぬときだろうか。何も起こらず幸せに過ごし、最期を迎える時に変わってくれるんだろうか。だとしたら、ずっとこの痛みを持ち続けても構わない。どうかその日まで。


「私を見付けてくれてありがとう」


「…」


「ずっと見守ってくれてありがとう」


 これからもずっと。


 その願いは口から出せなかった。

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