令嬢、プロポーズされる
さて。それからどうなったかというと。
翌日。
「この度は突然申し訳ございません」
「いえいえ、ようこそ。心の底からお待ちしておりましたわ」
と、にっこにこで挨拶を交わすお母様達の横で無言でがっつりと手を握り締めるお父様達。
「…」
「…」
の横で引き攣ってるアオと顔を上げられない私。
あの後。※ここから先は意訳です。
「だからその、アオに告白されました。自分の意志でOKしました」と、しどろもどろで伝えた結果、お母様は聞いた事のない悲鳴を上げ、お父様も聞いた事のない悲鳴を上げ、家中の人も聞いた事のない悲鳴を上げた。家中怒号。その中で、もうこれで勘弁して下さいと机に突っ伏して震えていたら「紙とペンを持てい!!」とまたお母様のパンパン!! が聞こえてくる。どうしてー! もう必要ないでしょー!! と、思ったら「御挨拶に行くのです!!」と、聞く耳持っちゃいねえ。結局紙とペン来るんじゃん。と思っていた私の前で、すらすらーっと何かを走り書きしたかと思ったら今すぐにこれを公爵家に届けんさい!! と使用人にお預けになる。合点承知と受け取った使用人が公爵家に走り、戻ってきた時には「明日来ると良いよ」の返事を持ってきた。どうして。どうして。※意訳終わり。
で、今に至る。
「本当に、今日はお日柄もよくー」
「ねぇー。素晴らしい一日になりますわ」
そんな事を話しながらすたすたと中に入っていくお母様の後ろを、がっちりと手を握ったままのお父様達がついていく。…何で手を繋いでるの?
「…」
「…」
そして残された主役の(筈の)二人。暫く無言で四人の姿を見送っていたけれど、あっさり見えなくなったので私は半泣きで俯いた。ごめんなさい。ごめんなさい。
…はぁーーー。と、アオの壮大な溜息が聞こえてくる。すいません。すいません。そう思っていた私の手を引いて「俺の部屋に行こう」と彼は言った。
「…あの…ごめんなさい。本当に…すいません」
聞かれもしなかったけれども事の成り行きを説明した私は、最後にそう言って深く頭を下げた。本当に申し訳ございません。まさかこんな事になるなんて。
「…俺は別に良いんだけどさ…」
本ばかりの部屋でアオはため息をつく。アオはよく私の家に来てくれるけど、アオの家に来る事は幼い頃に何度かあった気がするくらい。そりゃ、公爵家になんておいそれとお邪魔できるものではないのである。…とかいいつつ、結局こんな事でお邪魔してしまったけれども。
だからアオの部屋に来た事も無い。アオの部屋ってこんななんだ。と、あまり無遠慮に見回す事もできないけれども想像と違い過ぎてびっくりした。本ばっかり。書庫みたい。全然乱雑じゃないところがアオっぽいけど。
アオのお父様もお母様も小さい頃には王宮とかでよく会ったけれど、子ども同士で会えるようになってからはとんと遠のいていた。アオのご両親もとても優しい穏やかな人達で、可愛がって貰ったのを良く覚えている。だから来るのが怖いとかは無かったけれど、まさかこんな再会をする事になるとは。
そんな私は、その二人が息子とアリアネルがくっ付けば良いのにーーー!! と密かに思っていて侯爵家に乗り込んでいく位マジな事を知らない。滅茶苦茶ご迷惑をかけてしまった。と、心底落ち込んでいた。
さて。別に良いと言ったもののアオの表情は浮かない。こんな表情、見た事が無い。本当はめっちゃ困っているんだと気付いた私は、どうしようか考えた。これ、私一人でも帰った方が良いかな。それともお父様とお母様を無理やりにでも連れて帰る? それともなければ…別れるとか? えー!? やだー!!
「…ちょっと」
やだやだー。
「おい。アリア」
どうしようー! 本当にどうしようー!
「おいって」
一人の世界で絶望していた私は、こんこんと頭をノックされて我に返った。さっきまで別のソファに座っていたアオが隣にいて大層呆れた顔をしている。うわぁぁぁー!!
「ごめんなさいー!」
「うわっ。だから別に俺は大丈夫だって…」
「嘘ー! 凄く困った顔してたー!!」
「…」
その言葉にアオは本当に困った顔をした。その顔を見て青ざめた私にこんな事を言う。
「うーん…。本当はもっと落ち着いてから話そうと思ったけど、これを聞かなきゃお前どうにもならないだろうから今話すわ」
え。何が。そう思って半べそをかいた私にこんな事を言う。
「まず、お前の親に諸々ばれたのは半分俺のせいだから本当に気にしないで」
「…はい?」
「お前の親父さんと仕事をしていた時の雑談で、アリアの話になった事があるんだ。卒業も遠くないし、そうなれば貴族の子どもは色々と考える時期になるだろ。勿論親もだけど。その話の流れで俺がアリアに気がある事を話したことがあって」
げ。何それ。じゃあ私が告白される前にお父様とお母様は知ってたって事?
はっ!!
そこで唐突に思い出す。アオが変な日があった。もしかしてあの日!? と、アオにキスをされた手を見せたらアオが頷く。それでお父様もお母様もスルーしてたって事!?
「そうは言っても親が絡むと大事になるから聞かなかった事にしてくれとはお願いしたんだ。アリアの気持ちを優先すると伝えたし、振られた場合は受け入れるつもりだったから」
そうは言われていたけれど、改めて聞くと改めて引く。だからこの人、何でこんなにあまっあまなの? それで良いの? 公爵家と伯爵家ってそんな譲歩する家柄の差じゃないと思うんだけど。
そこで、はた。と、思い出す。昨日のお父様とお母様、何か変だった。もしかしてアオがそう言ったから、私に正直に返事をしなさいと背中を押してくれたの? 家にとっては私がアオとくっ付けば有難い事この上なしなのに。親も劇甘。
「な…何で、それでアオのせいが何で半分なの?」
じゃあ、皆予め知ってたんじゃん! 私のせいじゃないじゃん! それで色々と見られていた事に羞恥を隠し切れない。真っ赤っかな顔で私は辛うじての抗議を口にした。
が。
「アリアが不自然な態度取らなきゃばれなかった筈なんだけど」
「すいませんでした」
申し訳なさそうにそう言ったアオに反論する言葉は無かった。
「それで、今後の話なんだけど」
ふー。何とか顔の温度が下がってきた。と、手の平で風を送っていたらアオの声が聞こえてきた。はい。と、冷たい飲み物もくれる。ありがとう。と受け取る。相変わらず優しい。涙がちょちょぎれた。落ち着いたら罪悪感が襲ってくる。だって、今回のこの騒動は結局全部私のせいじゃないか。それをアオは半分背負ってくれて責めもしない。本当にこの人何なの。
「今後って何でしょうか…」
え? だって、もう別れるとかしなくて良いんだよね? そう思いながら手の平を飲み物で冷やしていたら、何か言おうとしていたアオがそれを指さして言う。
「まずはそれ飲んで」
「…はい」
ごくごく。ぷはー。
「一旦戻して」
「はい」
どうぞ。
それを目の前のテーブルに置いてアオは言う。その彼の行動に後から感謝した。そうして貰わなかったら私はこの後、飲み物を盛大に零しただろう。きっと。
「単刀直入に言うけど、ここまで話が大きくなると結婚待った無しになる可能性が高い」
「………は?」
何ですと? と、私の頭は真っ白になった。結婚? 何言ってんの? うちら付き合ってまだ…ええと…数週間だよ?
「親にばれたらそうなるから、本当は隠しておきたかったんだ。お前、まだそんな心積り無いだろ?」
心積りも何も、そんな事頭の隅にもありませんでしたが?
「とはいっても、隠しておけるのなんて精々学生の間くらいの話だけどな。卒業すればそういう話はお互いに出てきただろうし、そうしたら話をしようと思ってたんだ」
「…」
ぽっかーん。え? アオ、そのつもりがあったって事? 嘘でしょ?
ああ…でも、そうか。と、何となくの理解はする。この世界は割と自由で女性の社会進出も進んではいるけれど、私はそういうタイプではない。それに身分を考えてもどこかにお嫁に行くという未来が自然だ。送り出す自分の親も、受け入れる相手の家も自然とそういう話を進めるようになるだろう。アオとお付き合いをしていたから今知る事ができたけど、そうじゃなければ学校を卒業したら話が進んだのかもしれない。だとすれば、今お付き合いをしていて家同士に問題が無ければすればすぐに結婚となってしまうのも納得できる。
でも…。あー。
心の準備が。
「アリア」
手を握られて顔を上げるとアオが近くにいた。呆然と顔を見つめていたらアオが言う。
「俺はアリアが落ち着くまで待つつもりだから安心して」
「…」
「親にも言っておく。うちの親が無理を言わなければ話は進まない筈だから」
そんな事までして貰って良いんだろうか。全部アオに譲って貰って。そう思って俯きかけた私のおでこに、いつかと同じ様にアオのおでこが触れる。
「でも、いずれはって告白する前から思ってた。だから前向きに考えて」
びくっ。と痙攣してしまった手を、アオは優しく握り締めてくれる。
「これからも大切にするから、ずっとそばにいて」
あ。これってプロポーズだ、と気付いた。待ってくれると言ったのに、彼は先に気持ちも渡してくれる。駆け引きもしない。押しも引きもしない。こんなに素直な愛情ってあったんだ。
「…うん…」
頷いた私に今度は宣言もなく、アオはキスをしてくれた。




