令嬢、速攻でバレる
それからはトントン拍子に色々な事が進んだ。まずは速攻で親(&家中の人)にバレた。
「ねぇ、アリア? もしかしてアイオライト様と何かあった…?」
恐る恐るそう言ったのは母親だった。食事中。口には何も入っていなかったけれど動揺して何かが喉に詰まって激しく咳き込んでしまった。それを見て親も使用人も大パニック。水を! 横になりますか!? 医者は!? と邸宅中が大騒ぎになった。
「だ…だいじょ…げほげほ」
なんて、余計に咳き込むようなことをして騒ぎを大きくしてしまったことは反省している。でも、咳き込んだくらいで医者に「五分で来い!!」などと言わないで欲しい。伝言ゲームをした結果、最後の使用人が「アリアネル様が呼吸困難で意識がない」という勘違いをしていたせいらしいけれど、どうしてそうなったのか。コックさんはコックさんで自分のせいかもしれないと厨房でダンゴムシになっていたらしい。すいません。
そしてお抱えの医者がすっ飛んできた時には何故か部屋に担ぎ込まれてベッドに寝かされた私。この時点になると喉がつっかえただけで何も起こっていません。と言っても誰も信じてくれない。
「随分息が苦しそうなことを聞いたけれどどうしましたか」
と聞かれて。
「本当に何でもないんです」
と、真っ赤な顔で言うしかなかった。その顔色を見て。
「熱があるんじゃないか」
と疑われ。
「いいえ。ありません」
と、英文の訳みたいな返事をし。そんな事を延々繰り返して元気という事を分かってもらってやっと解放された。まだご飯だって途中。皆に申し訳ないと思ったけれども、これって私のせいですか?
さて。
涙目のコックさんに「本当に何もないし大丈夫。心配させてしまってごめんなさい」と言って食事は再開した。…で?
「アリア。大丈夫?」
「本当に大丈夫なのか?」
と、心底心配そうな両親に「おたくらのせいです」とは言えずに「大丈夫です」と答えた私。じゃあ聞いても良いのかしら。と、母親が口を開いた。
「それで、さっきの事だけど」
「…はい」
駄目だ。一旦食事は諦めよう。食べながら会話なんてしたら今度こそ窒息死するかもしれない。それに味が分かる気がしない。重ね重ねごめんなさい。コックさん。
「…」
「…」
「…」
そう言ったまま、誰も何も言わない。あ、これ私待ちですか。と、五分くらいの沈黙を経てやっと気付いた私は下を向いてもごもごとこう言った。
「あの…急に…どうしてそんな事を」
「え? 急にっていうか…ねえ」
「…うん」
そう言って頷き合っている。私は気付かなかったけれど給仕の使用人の皆も小さく頷いていた。
「あなたちょっと…というか、大分変じゃない。アイオライト様がいらしても顔を全然見ないし」
え。…と、そうですか? 何か照れ臭くてこそばゆくて恥ずかしくて下ばかり向いている気がしなくもないけれど。
「それに送ってくれたアイオライト様を見送って、姿が見えなくなると大きなため息ついたりして…なぁ?」
それはぎくしゃくしてしまって今までどうしていたか分からなくなったりとか、甘ったれていた事を恥ずかしく思ったりとか色々と。
それなのにアオは全然変わらず私の事を甘やかしてくるし、対して私はお付き合いをしているというのに何もできないし。はぁぁー。っていう。
っていうか皆さん、そんな事見てたんですか? どうぞお気になさらず。私の事など放っておいて頂ければ。そう思ったけどそうは問屋が卸さなかった。
「アリア。あのね」
思いつめた様にそう言った母親の声に顔を上げた。そして両親を見ると、二人は顔を見合わせて頷いてから真剣な表情でこんな事を言う。
「先に言っておくけれど、もしも万が一アイオライト様から交際を申し込まれてもあなたの自由にするのよ? 受けるも断るも自分の気持ちで正直にね」
「家の事は考えなくても良いから、自分が幸せになれる答えを出すんだぞ」
「…はい?」
いきなりどんぴしゃの事を言ってくるけど何で? どこから情報駄々洩れなの?
いや、駄々洩れにしては最新情報(うちら付き合ってます)を知らないのはおかしい。じゃあ、私の態度を見て想像したって事? それにしちゃ随分話が早いようですが?
それに、伯爵家の小娘が公爵家のご令息の申し出を断って良いとかある? アオから同じ事は言われたけど、それは個人的に言ってくれたからだろうし、彼がそういう気持ちでいてくれた事は有難いと思っているけど家の関わりとなるお父様とお母様はそんな事を言っちゃいけないと思うのである。
「な…何でそんな事を言うのですか?」
心の声をそのまま吐き出したかったけれど、辛うじて私は令嬢の皮を被った。今乱心してしまったらまた医者を呼ばれてしまう。それはちょっと勘弁。
「それは…私達があなたを大切だから…ということもあるし…」
その…何て言うか…と、今度は親がもごもごしている。ん? どうされました? と、思っていたら、急に振り切ったご様子のお母様が叫んだ。
「とにかく! アリアは自分の事を最優先に考えなさい! アイオライト様はとても素敵な方だと思うし、あなたが良いと思うなら大歓迎だけれど、そうじゃないならきっぱりお断りするのー!! 良いわね!?」
「ひい!」
何ですか。急に何なんですか。
「いや、ちょっと待て」
そこでお父様が何かに気付く。そして私の目をまじまじと見てこう言った。
「既に態度がおかしいというのが変だろう。アリア。もしかしてもうアイオライト様に告白されたのか?」
「!!!???」
ちょっと待ってーー!! 殿下といい両親といい、何でこんなに話が早いの!? なんなの!? 私の顔って文字でも浮き出てるの!?
「え!? そうなの!?」
「どうなんだ!?」
「……………」
だらだらだら。変な汗が出てきた。でもぶっ倒れる訳にはいかない。さっき帰したお医者さんがまた来てしまう。
「あの………………ですね………………」
「………………」
「………………」
もうばれっばれである。絶対ばれっばれ。
「…アリア。ちゃんとお断りしたんでしょうね?」
「はえ?」
「あんな態度だったんだ。付き合いたくないんだろう? それなのに、まさかOKしてないだろうな?」
「ちょ…」
「もしもそうなら私達が公爵家に行ってお話しても良いわよ?」
「真摯に話せば分かってもらえる」
「ちが」
「今すぐに行きましょうか」
「いや、待て。ちゃんと礼儀を通そう。まずは約束を取り付けないと」
「ま…」
「そうね。紙とペンを持ってきて!」
パンパン!! と、お母様が手を鳴らしたところで腹に力を入れた。
「待って下さいいいー!」
紙とペンが到着したら終わりだ!!
…ってことはないんだけど私は必死に叫んだ。後になればなる程こじれるに決まってる!!
「違うんです! 違いますー!!」
「え!? 何が違うの! ちゃんと断ったって事!? 気まずかったの!?」
「違います違います!」
「あ! まだ告白されてないの!?」
「それも違…っっ!!」
弾みで言って口を押さえた。そして真っ赤っかの顔を隠す。もう駄目だ。ばれたー!!
「………………」
「………………」
物凄い重い沈黙が訪れた。後から思えば、こんな反応をしなければあっさり「お付き合いしてます」「おめでとー」「おめでとー」で済んだのに。私の愚か者ー!!




