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令嬢、拉致られる

 やがて季節は秋になった。実り祭りももうすぐ。


 この祭りは水祭りとは違い、生徒達の手で全て企画・実行され、小さな出店が出たり、踊りや歌を楽しむ。町でも収穫祭が同日に行われ、学校で楽しんだ生徒達はそのまま町に遊びに行くのが通例だ。大人達の手が入る水祭りとは違い、実り祭りは経験も金も時間も少ない生徒達の企画の為、水祭りよりも質素で年によって当たり外れの多い祭りと言われていた。今年はどうなんだろうね。と、この時期にはいつも噂され、実行委員はその声にキリキリと胃を痛めるのが風物詩となっていた。


 しかし今回の実行委員は違った。やる気に満ちていた。そして頼れる実行委員長がいたという事が何よりも大きい。


 今年の実行委員長はアイオライトだった。…らしい。が、本人は知らない。何でこうなったのかも誰も知らない。実行委員すら知らないらしい。ただ「むしろそうじゃなければおかしくない?」という態度だったとかなんとか。


 ざっくり言うと、彼はそもそも無関係だった。一、二年の時に実行委員の経験がある訳でもなし、祭りに対する情熱もアイデアもなし、プライベートも忙しいので時間もなし、はっきり言ってやる理由なしの為、当然委員会にも入っていなかった。なのに検討が始まるや否や、実行委員が助けてと押しかけてきたのである。多分社会経験の多さに目を付けたのだろう。「忙しいから無理」とはっきりお断りしたのに、ちょっと相談に乗って下さい。これだけ助けて。どうかお導きを。と、しつこく相談をしに来る彼らに結局降参した。自分に丸投げしない事、放課後は仕事やら色々(送迎)予定があるので手伝わせない事、当日も何もしない。その代わり休み時間とかには相談に乗るからそれで勘弁してくれと補佐的な仕事のつもりで了承したら勝手に委員長にさせられていた。行き詰って相談に行くと瞬時に解決してくれると重宝されているようだ。先輩。先輩。と、泣きそうな顔をしていた後輩がきらきらした顔で教室を出て行く姿や「こんな設計で事故が起こらないと思ってんの? 馬鹿かお前」と、相談もしていないのに低い声で指摘された装飾担当の同級生が誠に申し訳ございませんでしたと土下座をしている光景を時々目にした。その彼も、何度もやり直しと土下座を繰り返し、とうとう合格を貰った時には泣きながら笑って設計図掲げて走っていたとかなんとか。その後も何やかんや面倒見の良いアイオライトは結局最後まで手伝った。


 希望が出そろった? じゃあ、まず購入品を全て一覧表にしろ。次にどこに使うかも出せ。


 これは高い場所に飾るものだからそんなにじっくりと見られない。よって一級品である必要なし。二級品ならこの価格で手に入るから費用が抑えられる。量を増やすか他に予算を回すか検討しておけ。


 それで何でお前、上に重い飾り付けんの? 馬鹿なの? 落ちたらどうするつもり? どうやって上まで運ぶの?


 ここは安全第一で外部に作業を委託する。知り合いに頼んでやるから同様の作業も明日までに纏めておけ。


 発注価格はこれで決まったから後は日程調整をしろ。礼も忘れるなよ。


 これとこれは同時進行できるから分担して進めろ。まだ時間があるとか思うな。ぎりぎりの日程は絶対に終わらないんだから、どっかで手を抜くことになる。


 だから飾りで道を狭くすると危ないって言ってんだろうがー!!


 じゃ。と、あまりにひっきりなしに相談に来るものだから結局放課後の会議にも参加することにしたものの、入室して十分で出てくる毎日。会議が始まると一列に並んだそれぞれの担当が滞りない説明を始めてアイオライトが捌いていくという、もうただの会社だった。






「ありがとうございました! アイオライト様!」


「この先の作業はお任せ下さい!! ちゃんと段取り通りに進めます!」


「今年は凄い実り祭りにするので期待していて下さい!!」


「予算が大分余ったのでこれで学生皆にスカーフを配ります! お祭りの思い出に!!」


 そんなこんなで二週間前には見通しが立った。最終的な見直しも終えて後は作業を進めるのみ。自分の仕事は終わったな。と、息をついたアイオライトにそんな声が聞こえてくる。


 嬉しそうにそう言った実行委員の面々が、揃って「本当にありがとうございました!!」と頭を下げた。色々と思うことはあるけど、まぁ、うん。


「じゃあ、頑張って」


 と、それまであまり見せなかった笑顔を少し見せて、アイオライトは教室から出て行った。それを見送った委員会メンバーの肩が震える。


「かっこええー…」


「俺、一緒に仕事できて良かった…来年も絶対実行委員する」


「私も…」


「とりあえず今年だよ! まだこれからなんだから!」


「そうだよね! 頑張ろう! アイオライト様に見て貰わなきゃ!」


 おー!!


「俺、卒業したら下で働かせてもらえないかなぁー…」


 最後に呟いた彼の同級生の言葉に「無理だと思う」と全員が思った。






 そんな風に作られた実り祭りは圧巻の一言だった。罵倒されながらもデザインを熟考した、プロの手も入った安全で豪華な飾り。実行委員の仕事が早かったのでゆとりがあった為、打ち合わせと準備に十分な検討を重ねられたいつもよりも凝った出店。踊りや歌の段取りも予行練習までした為、滞りなく安全に進められ、いつも必ず発生する小さな事故一つ起こらなかった。もう生徒達が勉強の傍らで作ったレベルの祭りじゃない。驚きと感動がある最高の実り祭りになった。


「凄く素敵ー!」


 と、ソフィーは感嘆の声を上げる。どこを見ても実りの秋に相応しい花や実がたっぷりと飾られている。他の生徒の声も明るく大きい。


「これ、とっても可愛いわ。あっちは何て豪華なのー」


「アイオライト、よく頑張ったねぇー」


 と、隣で殿下が暢気に笑う。


「俺は別に何も…」


 そう言いながら、想像通りとはいえ、例年よりも大分派手になってしまったと祭りの様子を見ながらため息をつく。同級生が張り切り過ぎてとんでもないデザインのものばかり出してくるものだから合格のラインを見誤ったようだ。安全ならもう良いやと最後は根負けしてしまったし、別に違反でもないけれど生徒だけの手には負えんだろうと今迄はしていなかった外部委託もちょっと後悔している。来年からのハードルを上げてしまったな。と、少し反省したけれど、それは取り越し苦労だったと分かるのは先の話。


 仕事の進め方やものの考え方、上手な外の手の借り方も覚えた実行委員はそれを無駄にはせず、来年に活かそうとすぐに情報を整理した。宣言した通り、今年の実行委員は多くが次の年も立候補をしてそれを下級生に引き継いだ。来年は彼らだけの手で同レベルの実り祭りを作り上げ、特別にアイオライト(+α)が招待されるのは一年後。以後、実り祭りはずっと学園の一大イベントとして盛り上がっていくのである。


「こんなに見応えのある実り祭り初めて。ねぇ? アリア」


「はい。本当に凄いです。こんな素敵なものを見れるなんて。今年学生で良かったですね」


 笑顔で頷いたアリアネルもソフィアもお揃いのオレンジ色のスカーフを髪に結んでいる。実行委員が宣言していた生徒に配布されたスカーフだ。女子は手首に巻いたり髪に付けたり。男子は制服の胸ポケットに入れている子が多い。祭を彩るこれも、生徒の心を繋ぐ大切なアイテムになった。


 そんな四人に閉会の言葉が聞こえてくる。例年は実行委員長が挨拶をするのだが、今回は実行委員が壇上に上がり、挨拶の為のマイクを手に取ったところだった。


 因みにこの時点で自分が実行委員長になっていることなどアイオライトは知らない。当然三人も知らない。というか、実行委員以外にその認識はない。


 この挨拶を聞かずに外に出ていく生徒も普段は多いが、今年は沢山の人が広場に残って彼らの声を聞いた。それ程までにこの祭りが充実して成功したことを伺わせる。


 さて。


「皆さんと、ある方の助けを借りてこの祭りが安全に、盛大に行われたことを感謝し、嬉しく思います。本当にありがとうございました」


 と、実行委員が涙ながらのスピーチをする。これだけのものを作る為にどれだけの努力をしたのか。それが実を結んで感極まっているんだろうとその場の全員が思っていた。


 が、それは違った。


「本当に、あの方に助けて貰わなければ僕らなんて何も…」


「これで終わってしまうのが本当に悲しいです…」


「もっと一緒にお仕事をさせて頂きたかった…」


「こんなに楽しい時間は初めてでした…」


 う…うう…っ。と、その後もずっと辛気臭いスピーチが続く。生徒達は呆然と彼らを見上げていた。


「…」


 すー…。と、引き攣った顔のアイオライトが気配を消して後ずさる。ここにいるとヤバい。まだ彼らは下を向いている。見付けられる前に。


「アオ?」


 と、気付いて声をかけたアリアネルの手を取った。「しー」と口に人差し指を当ててそっと彼女の手を引っ張る。


「アイオライト先輩ー!!」


「アイオライト様ー!!」


「本当にありがとうございましたー!!」


「委員長ー!! このご恩は忘れませんー!!」


「委員長ー!!! どうかこちらへー!!!!!」


「…委員長?」


「委員長だったの?」


 と、怪訝そうに呟く王子とソフィアの隣に二人はもういなかった。

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