二十五、
二十五、
ずっと眠り続ける。その渦中で過去を夢見たのかもしれない。確かに、あの草原で星の王子様の様に彼は炎を抱いていたし、花を大切にしていた。青い海よりも、暗い川辺でフルートを奏でることが好きな、不思議と目を惹かれる…私の生み出した青年であったように思う。神よりも近い、地上の星で懐かしさを浮かべたピアスを付けて…。
「でも、悲しいよ…。」
ファンタジーの終幕が、酷く寒い冬を想い馳せる。そんな、夢を見た気がしていた。
****************************************
「こんな所で、どうしたんだい!?とても冷えていて…。早く中に入ろう…、歩けるかい?いや、私につかまってくれ。」
「…?」
うっすらと目を開けば、太陽の明るい光が私に差し込む。それと同時に零れだした涙が思わず縋りついた、青年の袖を濡らした。
「…。」
何とも言えない表情で、私を見つめる青年。心配そうにしている彼と、一人きりで船の甲板に横たわっている自分の状況に気づいて、少しばかりのため息をつく。夢を見ていただけのはずだったのに、青年が私の身体を支えようと伸ばした手に、フルート奏者の面影を見てしまった気がした。
「神様だったのかもしれない。」
「え?」
私の唐突な言葉に、彼が首を傾げる。首からかけていたらしいショールをぎゅっと握り締め、私は止められない涙を流しながら微笑んで見せた。
「ずっと、欲しかったの。私の言葉を認めてくれて。ともに語り合える人が。何にも縛られずに、家族から否定の言葉を受けることもない。ただ、絵本の世界を描き出すことを、尊重してくれる。素敵な人が…。」
「…。」
青年が、考え込むような表情を浮かべる。しばらくして、躊躇う様に選んだ言葉を、私に告げてきた。
「その人は…、君にとってどういう人だったんだい?」
「そうね…。」
フルート奏者とは違う支え方。壊れ物を扱う様に、優しく添えられた手の温かさを感じながら私もまた、彼に伝えられる言葉を選んでいった。
「夢みたいな人だった。師であり、友人であり、神の様な信仰を持たせながらも、恋人の様な掛け合いも好む。けれど、全ては私の幻に過ぎない。ただ一冊の本から飛び出した登場人物だったの。」
「そっか…。」
少しだけ安心したような息の付き方に、どうしてかわからず問いかけようとすると、婚約者は私の口を指先で塞いできた。どうやら、私の言いたいことが分かったらしい。昇り行く朝日が、彼の髪を、紫の瞳を。宝石箱の鏡に映した魔法みたいに、魅せてくる。
「その…君の言う人の様に私が、成ることは出来ないかい?」
「…。」
優しい青年の言葉に、きっと私を慮って語ってくれた、小節なのだと感じる。まだ遠い距離を縮めるために、私は青年の視線から逃げずに、じっとその瞳の奥を見つめて、ちょっと意地悪な顔をして見せた。
「まだ分からないわ。」
きっと、私を受け入れてくれる…そう言った、夢の中の人の言葉を信じて、私を寒さの残る朝日から守るように、抱き上げてくれた彼へと、私は囁いたのだった。
次で、最終話です!




