二十四、
二十四、
フルートの音は、私を誘い。神の声と、生まれた土地を祝福する聖典となるだろう。
「うぅ…。」
遠くもない島に浮かんだ、捧げる為に摘んだ花々。涙が浮かんだ、瞳に泣いた。寂しそうな面影が過去を思い出す。冷たい熱帯魚、噛んで信じていたはずなのに。空に近かった、雲を掠めることもできなかった。手で切り裂いた極夜を移し替えるように。
「え?」
夢を見ているのか、それとも暗闇にいるだけなのか。月が姿を隠した夜に、私は立っていた。部屋の鍵を閉めて来たかも覚えていない。見つめるほどに闇が深くなりそうな船の甲板。笛の音で私を夜の散歩に誘い出したらしい青年の瞳が、唯一の灯りとして光っていた。
「気づいているんだろう?」
彼の傍に行こうとして、押しとどめられる。手を伸ばそうとしても首を横に振られて諦めた。風だけが心を落ち着かせ、彼との距離感を保たせようとする。手の平に数えた実を摘んでも、泣きそうな瞳には変わらない。
「君は、創作全てを否定されてきたのだろうね。絵本作家として生きることも、結婚すれば終わりになるのだろう?物語にいる俺だけは、君の心を知ってた。」
「…。」
月が生まれて、バランスの良い矮躯を光に照らすフルート奏者は知らない人の顔をする。額にキスをしてくれた人間とは同じに思えない。そう、考えた瞬間に彼が微笑んで私を呼び寄せるように、手を伸ばしてきた。
「涙だけは拭わせてくれ。きついこと言って悪かった。」
近くに行けば、そっと涙をぬぐって頬にキスをされる。じっと紫色を見つめれば、黒いワイシャツに白いズボン姿の彼が何ともつかない、不思議な表情をした。
「物語が、そろそろ終わってしまうんだよ。」
「知ってるわ。」
ぐずぐずと泣いてばかりいる私を抱きしめたと思えば、楽し気な笑い声を浴びせてくる意地悪な登場人物。眠りに落ちるまで、ただ頭を撫でていてほしいのに、髪に触れていた手で笛を持つ。子守歌でも歌ってくれるのか、ただ不安で彼を見つめても終わりを迎える、一小節以外の音は聞かせてくれなかった。
「大丈夫だよ。俺が生き続けている世界には、ずっと君が居る。それに、あの婚約者なら受け入れてくれるだろうよ。君のことをね。まあ、ちょっと悔しいけどね。」
「そうかな…。」
月夜が、浮かばせた涙の色を変えていく。ひっそりとした静けさの中で、本来は居ない人の近くで眠る私を、誰も知らなかった…。
幻のフルート奏者と絵本作家の少女。物語が消えた理由は、どちらの意思だったのかな?
小説は、あと二話で終了です。
ぜひ、続きもお楽しみに!




