最終話
終章
近づく光…、遠のいた空に風を受ける夢の恋人は。手の平に受けた宝石に街を見る。舟に乗った魔法使いも、灯さぬ命。星座を巡る呼吸は落日の唱。
遠く遠く、ナザレの神よ。私が綴った三愚者と踊る。羊飼いは掲げた斧を、貫く天啓まだ苦しみを呼び起こし、炎の中に身を投げる日々。ふと辿り着いた、絵本の中に還りなさい、お前の居場所は此処にはない。小さな少女、星を飲み込む。背面に立つ、神は青年の姿を取る。儚く散った、尊く消えた。枯れ葉が拒んだ、知恵の物語。
「…。」
波が追い越していく異国の地。出発点へと戻っていく船の上。私は群衆の中の一人として佇んでいた。神を告げる囁きも今は忘れて、詩と踊るパッチワークに頬を寄せる。思わず、弾かれた水滴を手に取ろうと、身を乗り出せば背後で私を見ていたらしい青年に、名前も呼ばないままに止められた。
「ラフ画をまとめとする、回顧録に自らを記そうとしただけよ。」
「危ないから、もう少しこっちに。」
私の不満は無視することにしたらしい、彼は私を椅子に座らせると、自分は私の傍で紫の瞳を湖面に煌めかせた。不思議と心が休まる。安息の憧憬。
「もう、防波堤が見えてきた。凱旋…と表現していたかな?君の言うことも分かる気がするよ。」
「…。」
心に静寂と月夜の戯れがあって、それらが全て童話の世界に落ちていく。苦しみが、炎の誘いによって融け透かされたとしても、本来のイドはもうそこにはないのだと。
「本当に?」
港が見えてきた。移ろいの瞳が、意地悪な問いかけと流れ着きもしない終章を、送り届けようとしてくる。
「さあ、どうなんだろうね。」
遠くに見えた、灰色の鷹と、その鷹に寄り添う美しい女性が手を振り、私と青年も頭を下げておく。いつになく、曖昧な表情で私の肩に手を置いた彼を見上げると、そのまま微笑みが私を包み込んでいた。
「まあ、これから理解できるように頑張るかな?」
「そっか。」
冷たい風に飲み込まれてしまえば、海の言葉を解釈できる。
私は、この船で出会った大切な文章から生まれたフルート奏者を思い浮かべつつ、船から下りようとする私をエスコートする、婚約者へと泣き笑いの様な表情で応えたのだった。
(終)
これにてナザレの破片、完結となります!ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。初めての恋愛小説?だったので、色々と試行錯誤ではありましたが、何とか完結まで展開を持っていけて、ほっとしてます…。
次の投稿ですが、僕がテスト期間により打ちのめされる事も考慮して、二月の後半くらいからになると思われます。次の作品は、完全にSFですね。夕焼けの街、影の人々。川に流れてきた鉱石を、少女が見つけたことから始まる物語となっております。
ぜひ、お楽しみに!




