二十二、
二十二、
「はぁ。」
どちらの物か分からない溜息。頬に揺れていた黒髪を後ろに流す、青年の仕草を見ていたら紫色のカフスを思い出した気がした。風が遠くに見える船を、ゆったりとした動きで眠らせている。太陽に沈んでいく、宝石水晶の煌めきも海底では人魚達にしか愛でられない。
「おっと、落ちるぞ?」
「あ…。」
煉瓦で作られた柵代わりの物に寄りかかって、眼下に広がる大海原を見つめていたせいだろう。少しの風でバランスを崩した私を、ほの暗さのある表情で支えた彼は、私を片手に抱えたまま幾分、冷たい息を吐いた。
「三千の世界を旅した魔王すら、自分の死期は悟れなかった。アラビアの魔術師も、小説の世界では脆く弱い物だと。己を律する事すら出来なかったのだよ。」
「え…。」
石灰でできたのだろうか?奇抜な花々が私の傍に咲いており、それは今の状況を前世か何かと勘違いさせてしまいそうな、危うげな雰囲気。目の前の彼が何を考えているのか分からないことも相まって、服のボタンが陽の光で発光しているのも、恐ろしい姿に見えた。
「遠い地でも、ナルニアでは兄弟たちを守り抜くことが出来た。指輪物語でもそうだ。彼等は旅をしただろう?一人の小人を中心にしてね。一夜の物語では済ませられないから、文字の中であっても、踊ることを選択したんだよ。」
「…。」
自分がいっそ、南国の少女であったらいいのに、と。憎らし気に彼を見つめてみれば、ようやく難解さの極めていた表情を、彼なりのジョークを込めた趣に戻してくれた。
「一曲踊りたくはないか?レディー?」
「それは、どういった意図があって?」
私が彼の腕に手をかけると、名前も知らない青年が思わずと言った感じで、噴き出した。
「お前、それじゃ婚約者も扱いにくいと感じるわけだ。」
「別に、そういう訳じゃ…。」
むっとして答えれば、はいはいと軽く頷いて有無を言わさずに、私の手を取る。
「キスで全てを終幕に持ち越そうかと思っていたけれど、彼が居るんじゃ、それもできないなぁ。だろ?」
「…当たり前でしょ。」
顔を近づけて来たと思ったら、冗談めかして言って見せる彼に、思わず笑顔を向けそうになるが、何とか厳しい顔を保つ。フルート奏者との、会話は疲れることこの上ないが、あまりに心が沸き立つせいで心の内を曝け出してしまいそうになるのだ。
「じゃあ、一曲だけ踊るとしようか。曲がないなんて言わないでくれよ?俺とお前だったら、そんな物なくたって、異国の地にいるんだ。響くものがあるだろう?」
「貴方が吹いてくれてもいいのよ?」
「それじゃ、君をエスコートできない。」
確かに、頭を渦巻いていく蛇の装飾がある。手を取り合えば自然と二人に笑みが溢れ、感じきれないほどの熱量が、地上から私達を見つめる肌の色が違う人々から、空気を通して伝わってくる…。
ふわりと、体を持ち上げられたかと思えば、抱き締められた腕の中で、更に笑い声をあげる青年の心臓が痛いくらいに伝わってきた。
「騎士道に反するって?」
「紳士的でないのは、確かじゃない?」
ならいいか、と言う様に青年は軽いキスを私の額に施す。
「これは、君の中ではどう言った風に片づけられるんだい?教えてくれよ。」
耳元で囁かれても、答える気はない。私の瞳を真っ直ぐに見つめて、引き込もうとする彼の口元にキスを返す。私は互いの黒髪が風で、絡み合っていくのを恍惚と想いながら
「さあ?」
と、意地悪く笑って見せたのだった。
遂に、書いちゃった…。
唇にキスするのは、ダメやぁああ!と、脳内の僕が発狂したので額になりました。まあ、少女ちゃん。婚約者さんも居るしね。これ書いた後、しばらく放心状態で天井を見上げていましたが、お前が自分でラブロマンス書きたいとか思ったんやろが。…まあ、ここからはフルート奏者の言う終幕へと線を引いていきましょう。色々と、回収していないものが大量にあるので。よし、頑張ろう…。




