国主の弟と、連合国家の混乱
「ディライガルン様、小競り合いが起きているようです」
「ディライガルン様、大きな争いは起きていないようですがサフ連合国家すべてに混乱が広がるのも当然の結果でしょう」
フェアリートロフ王国に手を出した連合国家の一つは、報復を受けている。
とはいえ、それも直接的な戦争というわけではまだない。少しずつじわじわとフェアリートロフ王国はその小国を追い詰めようとしている。
その混乱はまだサフ連合国家自体には広がっていない。しかし、サフ連合国家自体に広まるのも時間の問題だろう。……そしてフェアリートロフ王国の準備が整えば、大きな戦乱に包まれる可能性だって十分にある。
フェアリートロフ王国と開戦したい派はそれに便乗しようと動きを活発に見せている。もう起こってしまったものは仕方がないのだから、一丸となってフェアリートロフ王国と戦争すべきだというのが彼らの意見らしい。
フェアリートロフ王国に小国の一つが手を出したのは本人だけの暴走ではなく、開戦派全体にそそのかされた結果なのかもしれない。
このサフ連合国家は、危機に瀕していると言えるだろう。それでも僕も、他の面々もそのことに対して絶望などは欠片もしていない。それは兄上がいるからだ。
兄上はこんな状況に頭を抱えてはいたけれど、それでもその目の光は死んでいない。ただ兄上は未来のためだけになんとか頭を悩ませて動いている。
そんな兄上の手足となれることが僕は嬉しい。
このままサフ連合国家は混乱に包まれるだろう。そしてフェアリートロフ王国に完全につぶされるかもしれない。愛国心なんて欠片もない僕は、兄上が輝き続けられればいいのでフェアリートロフ王国に統合されようが、兄上が輝けばいいと思っているのだが、僕の気持ちよりも兄上がどうしたいかが重要だ。
前にいっそのこと、新天地にでも行きたいとぼやいていたが、それもありかと僕は思っている。
その場合は当然僕はついていく。兄上が行くところに僕が行かないのなんてありえない。ただその場合は、僕だけではなくレゼッド国の国民達がこぞってついていくだろう。……僕や兄上といった少数ならともかく、彼らも含めれば新天地を探そうとしても探せないものだろう。
それだけ多くの人を受け入れる場所があるとは思えない。――となると、もしレゼッド国の国民達と移動するのならば……誰も手を付けていない場所だろうか? などと念のためそういう候補も探している。
――それか王位奪還を果たし、獣人達を大切にするようになったというミッガ王国に行くという手もあるかもしれない。なんて思いもしたが、そもそもそのためにはフェアリートロフ王国を通るか、魔物溢れる危険な森の中を強行するかしかないので、それはそれで難しいだろう。
幸いにも、レゼッド国はフェアリートロフ王国から少し離れた位置にあるので、本格的に戦争が始まったとしてもすぐに国が滅亡することはないだろう。なのでまだ時間はある。
レゼッド国は連合国家の一つで、小さな国なので、兄上の事を皆が知っている。そして国民の前に姿を見せる兄上の事を皆が慕っていて、基本的に兄上の望みならば戦争でも逃亡でもなんでもいいと国民たちも思っている。――僕も王弟として国民達が兄上に対して従順であるようには行動をしている。
「ディランガルン様、これからどうなると思いますか?」
「どうなるだろうね。そのあたりは僕にも分からないよ。ただ僕は、兄上が輝く未来がくればそれでいいから」
「ディランガルン様は本当に相変わらずですね……。寧ろこの状況も好機と思ってそうなところが、ディランガルン様らしい」
「まぁ、これで兄上がもっと輝いて、兄上のすばらしさを皆が知るならそれでいいとは思っているからね」
僕にとっての一番は、兄上が輝く事だ。
この状況に兄上は頭を抱えているけれど、僕はこういう状況に陥ったからこそ兄上がもっと輝ける場所に立つことが出来るのではないかと期待している。
もちろん、兄上が混乱を望んでいないからかき乱すことなんかはしないけれど。
――兄上の輝きが、もっと未来に伝わればいい。兄上の存在を後世にいきる人々が知り、その素晴らしさに感激すればそれはもう素晴らしいことだろう。歴史上に名を残す人物に兄上がなれれば、「こんなに素晴らしい人が僕の兄上なのだ」と周りに自慢できるし。
そう考えるだけでも僕は気持ちが高揚した。
レゼッド国以外の国の混乱は大きいが、この国は兄上が統一しているからこそ混乱が少ない。
その中で僕が望んでいるのは、兄上のことだけなのだった。
――国主の弟と、連合国家の混乱
(国主の弟は、連合国家で混乱が起こっていても兄のことだけを考えている)




