王女、ミッガ王国へ
「行きましょうか、アリス」
「はい。ニーナエフ様!」
アリスが元気な声で返事をする。
私、ニーナエフ・フェアリーはこれからミッガ王国に向かう。
すぐにヒックド様と婚姻をするわけではないが、婚約者という立場でミッガ王国に向かうことになった。
その場には、アリスも共に向かう。
アリスがそれを望んだから。私の傍に居たいと、アリスはそう言ってくれた。私はその気持ちが嬉しかった。
私がアリスに最初に関わったのは、アリスの事を放置できなかったからだ。だけど今はそういう気持ちよりも純粋に私を慕ってくれるアリスのことを私は妹のように感じているのだと思う。
――ミッガ王国に知り合いはヒックド様や彼に付き従う騎士たちぐらいしかいない。フェアリートロフ王国から侍女は連れて行けるけれど、それだけだ。
周りは知らない人だらけ。その中で私は味方を作っていかなければならない。――私がヒックド様の婚約者であること、ヒックド様と結婚をすることになっていること。それを気に食わないと思っている者達はミッガ王国内にはいるだろう。
王位を簒奪し、王の座についたヒックド様に近づきたいと考えている貴族たちは多いのだ。
……その彼らに認められるように頑張らないと。ただ話し合いで分かり合えない貴族もいるだろうから、そのあたりはちゃんとしなければならない。
それに……神子を騙っていたとされているアリスに対しても何か言いがかりをつけてくるものだっているかもしれない。そのあたりの対応を間違えないようにしたい。
ヒックド様は、私のことを嫌ってはないと思う。だけど好意というのは、いつ嫌悪に変わるか分からない。
人の心は何かしらの出来事があればガラリと変わってしまうものだろう。
ヒックド様と上手くやっていけるようにしないと。
「ニーナエフ様、何か不安ですか?」
「ミッガ王国でこれから暮らしていくのだと思うと、少しは不安もあるわよ。心配してくれてありがとう、アリス」
アリスにそう言えば、アリスは嬉しそうに笑った。
アリスは侍女服を身に纏っている。私についてくることが決まってからより一層、アリスは侍女達から侍女としての心得を仕込まれていた。アリスは素直にそれを聞いて、侍女服が様になっている。
アリスは少しずつ小さな女の子から女性へと変わってきている。
アリスはこのまま美しく成長していくことだろう。もしかしたらアリスの事を欲しがる貴族も出てくるかもしれない。アリスはそれだけ綺麗な見目をしている。
そう考えると私がヒックド様の婚約者という立場で良かった。王であるヒックド様の婚約者という立場の私の侍女ならば、手出しが出来ないはずである。
結果論であるが、ヒックド様がただの王子の状態で婚姻を結び、そこでアリスも連れて行ったら……、ヒックド様のお兄様方ぐらいの権力者相手ではアリスを守るのが難しかったかもしれないので、良かったと思う。
「私たちはミッガ王国ではよそ者よ。だからこそまずはミッガ王国に馴染んでいかなければならないわ」
この言葉はアリスだけではなく、他にミッガ王国に共についてくる侍女たちにも向けた言葉である。
この周りにいる侍女たちは、私と共に他国に赴き、そこで一生を終えてもいいと志願してくれたものたちだ。
私たちは、ミッガ王国ではよそ者だ。だから馴染むための努力をしていこう。ミッガ王国にとって、私が価値のある存在だと示そう。ヒックド様の隣にいることを認められるように。
「はい、ニーナエフ様」
侍女たちはそう答えてくれた。
ちなみに護衛の騎士たちも共にミッガ王国へ向かうが、彼らは私をミッガ王国へ送り届けた後、帰国することになっている。
生まれてからずっと過ごしてきたフェアリートロフ王国から、ミッガ王国へ向かう。そう思うと少しだけ不思議な気分だった。ミッガ王国とフェアリートロフ王国は隣接しているので、公務の関係でフェアリートロフ王国に足を踏み入れることはあるだろうが、それ以外ではもうこの国を訪れない。
なんだか感慨深い気持ちだ。
――さようなら、私の故郷。
そんな気持ちで私は馬車の中へと足を踏み入れた。
お兄様たちや国民達に見送られて、私はミッガ王国へと向かうのであった。
これからどんな生活が待っているのか、これからどんな未来が待っているのか。
それはまだ分からない。
ヒックド様と共に過ごすミッガ王国での日々――先のことに対する不安もあるけれど、私は楽しみの方が大きい。ヒックド様も同じように楽しみでいてくれたらいいな。
「……ミッガ王国で、認められるように頑張りましょう」
私は馬車の中で一人、そう呟くのであった。
そして馬車はミッガ王国へと向かう。
――王女、ミッガ王国へ
(王女は姉を連れて、ミッガ王国へと向かう)




