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魔王選定  作者: 華宵 朔灼
五章 少女期・国越え
98/113

03 愉快な誘拐犯は愉快だった

ある友人がいきなり訪ねてきて、

「なぁ、ブルーレイ対応だったよな!」

「うん、そうだけど」

「今日から家開けるんだろ? 留守番しててやるよ!」

「なんだその上から目線………まぁ、いいけど。そのかし、来月貢いでもらうからな」

「おけおけ」

という話が有ったのですが。

一番衝撃的だったのはそいつが持ってきたDVDの出演者の欄に別の友人の名前が載ってたってことですかね。

カラオケに「SM判定フォ○ラム」入らないかなー……


さて、本編始まりますよー

 抱えられたシノが連れてこられたのはかなり豪華な、ルイーデの街でおそらく一番金額的にも防衛面でもかなり優遇された宿であった。


 「あーもー!」


 ぽいっとベッドに投げ出されたシノは、ボフンと音を立てる柔らかな羽毛に包まれた。

 投げ出した張本人は武装を解いて近場の机の上に並べる。シノなど眼中にない。


 「くっそ、早く帝国に戻らないといけないのにっ」


 主だった装備を全て外し、前髪を紐で括って跳ねさせ、洗面台で手と顔を洗い、濡れた布を床に放り出して、身軽になった誘拐犯はふっかふかのソファーに腰かけ脱力した。


 「大会に出るしかないとしたら冒険者を雇わないといけないけど、あれじゃ無理だよなぁ」


 実を言うと誘拐犯、極度の恥ずかしがり屋である。

 小さい子供や一定の年齢を振り切った老人にしか素直に接することができない、などと言う性格難を背負った面白い人間である。

 そうでなければフロウェルで生きていくこともできなかったほど純粋な者である、とも言える。


 「兄様みたいにもっと笑顔で対応できるようになればこんなことしなくても………」


 誘拐犯が貴族であるように、その兄も貴族である。

 笑顔で敵を蹴散らし、その策にはめ良いように動かし、敵も味方も関係なく手中に収める様は、誘拐犯が憧れる兄の一面だ。

 例え相手がどう思っていようとも、落とし落されが基本であるフロウェルで、安定的な勝利を収め続け、家にも己にも益を出す誘拐犯の兄は兄弟姉妹皆が憧れている。


 「はぁ………ん?」


 ぐでっとソファにもたれていた誘拐犯は、逆さまになった視界で、小さな影が動くのを目にする。

 思考停止した誘拐犯が思い出せば、衝動的に抱えて帰ってきてしまったソレが該当した。


 「………」


 羽毛の中から身を起こすと同時に、灰色のフードが外れ金茶の髪がこぼれ、くりっとした青い瞳と視線が交差した時、誘拐犯はがばっと身を起こし叫ぶ。


 「少女!? 羽毛から少女が産まれた!?」

 「誘拐犯、服を着るべき」


 完全に武装を解除した誘拐犯。

 指を指す先には誘拐してきた少女(シノ)

 薄い水色のパンツが、あけっぴろげになった白いシャツの間から除いている。上着もズボンも脱いで完全に寛ぎ仕様になっていた誘拐犯は、一瞬で顔を赤く染め上げる。


 「あ、誘拐犯、女の………子」

 「コレでも成人してるわっ!」


 女の人か女の子、で迷ったシノが後者を選択したのは言うまでもない。女であることは体つきとパンツの形状で分かったのだろう。大人に見えなかったのは、その胸の膨らみがあまりにも慎ましかったから、である。


 「誘拐犯」

 「ごめん、僕も反省してるから、誘拐犯って言うのヤメテ」


 貴族服を着用し、普通貴族の子女が持ち上げられるとは到底思えないベッドに背面を向けていたソファを持ち上げベッドと対面に設置し、各階に居る宿の使用人に飲み物を注文して落ち着いたところで話始める。


 「名前、知らない」

 「ああ、そっか。ボクの名前はエリアドーレ・カッツァシュ。カッツァシュ伯爵家十一子の九番目、これでも十八歳だよ。性別は分かっている通り誤魔化してるからエアって呼んでくれ」


 一人称がボクなのは舐められない為と、兄と一緒に居た時間が多いせいで令嬢らしさが身に付かなかったのだと説明するエア。


 「シノ。Eランク冒険者、もうすぐ十歳」

 「へぇー、十歳にしては………」

 「エアよりはまし」

 「ま、まだ時間はあるしっ」


 じっと一点をシノが見つめたところで、腕を交差させるようにして部位を守る。交差できるほど慎ましいのが悲きかな。

 確かに剣を振るうには邪魔にならない。運動するにも支障はない。しかしながらないことは悲しいのだ。特に視線が集まる場所なだけあって、大きくなくていいからそれなりの大きさが欲しいと常々思っているエアである。

 十歳と大きさで張り合う十八歳。

 ものすごく不憫な光景だろう。


 「なんで、冒険者が必要?」

 「それは………」

 「一緒に居たの、Cランク」


 貴族専用の宿らしい、瑞々しい果実を絞ったジュースが入ったガラスのコップを両手で持って、こくこくと飲むシノの様子にエアは癒される。

 シノはなんでもないことのように語るが、スペーラの外見は精々Eランク卒業間近程度にしか見えない。普通Cランクになるような者であの華奢さならば、魔術師と考える。だが杖などの補助具を持たず、武骨な剣を腰から下げていれば、それはどう見ても駆け出しにしか見えない。

 少々目が良かったり、それなりに経験を積んでいる者からすると、足元を見るだけでその大体の戦力が分かるが、それもスペーラはシノと共に歩くことで上手く隠せている。

 それが良いか悪いかは別として。


 「え、そうなの」

 「話せば助けられる、かも」

 「………そうだね、聞いてくれるかな?」


 エアが話し始めたのは、実家であるカッツァシュ伯爵家の実情。

 まず前提として、フロウェルが現在聖戦と呼ばれている戦争で五つの国を教会の威信の下統合した帝国である。その中で教会の本山、聖湖と呼ばれる場所にある神殿に一番近い都市を聖都と呼び、それより北に一つ、南に三つ、元国王現侯爵が纏める領地が存在する。

 そんなフロウェルの北、プロナラグ侯爵領にある土地でシシラギヤに接する土地を纏めているのがカッツァシュ辺境伯爵である。


 「元々騎士の一族だったらしいんだ。プロナラグが帝国の一部となった時、御爺様は王家騎士隊の隊長を務めていた」

 「聖戦?」

 「そう、聖戦で御爺様は功績をあげてしまって(・・・・・・・)ね」


 例え一騎士だとしても、その名声は帝国に反旗を翻せるほどのものになってしまった。もともと国の剣となり盾となることを誉としてきた一族であった為反旗を翻そうなどとは思っていなかったのだが、上層部はどうしても信用できなかった。


 「だから騎士爵から伯爵何て大幅にその地位を上げてフロウェルは僕らを飼い殺しにすることを望んだ」


 国がそれを望むならと、慣れない領地経営に手を出したは良いものの、荒廃した土地では何事も上手く運ぶ筈がない。しかしそれでも飼い殺しにしようと画策する帝国からは、英雄と名の高いカッツァシュ家の下であればきっと生活も上手く行くはずと民が流れて来る。

 国の為、民の為、そう思いギルドーナに助力を乞おうと上層部に申請してみても、敵国となれ合う訳にも行かぬと不許可の報せが届き、土地の改善は暗礁に乗り上げた。そして数年が過ぎ、財政の赤字が爵位返上でも返せないほどになった時、それに気が付いた。


 「聖戦によって荒廃した農地にもできない土地だったんだけど、聖戦の時の放出された魔力が溜まって硬質化したらしくてね、希少金属が我が領地で湧き出たんだ」


 掘り返すのに湧き出たと言うのはおかしいかもしれないが、それでも湧き出たと言う表現が一番近い。石ころだと思っていたモノが、魔導性能の高い魔銀(ミスリル)と呼ばれる伝説に出てくる銀であったり、掘り返せない地面だと思っていたモノは平らに伸ばされた魔導鉱岩であったり、とにかく実は宝石を踏みしめて生活していたのだと分かったのだ。

 騎士であった為、力と武力には自信があった為、家族総出で掘り返しその金属についてお触れを出した。英雄の名の下に付いて来た民は英雄の言葉は真なりとありったけ地面を掘り返し領主に売った。

 最初は食事もままならない荒廃した土地だったが、世にも珍しい金属が湧き出る土地として多くの人々が訪れるようになり数年後には帝国一の鉱床都市として名を馳せるまでになった。


 「鉱床都市と言えば聞こえは良いけど、一つの奇病が蔓延した」


 その奇病は、未だに解決策が見つかっていない。

 現状の希望はスコルダスで研究されていると言う事実だけ。


 「最初は髪が抜けて、だんだんと手足が金属みたいに硬くなってく。体が動かし辛いって感じるようになると、今度は血を吐くようになる」


 鍛冶に力を入れ、自然と煙が滞留するようになったカッツァシュ伯爵領。

 特に問題という問題は起きず、むしろ今まで行ってこなかった細かい細工にまで手を出すようになり、彫金の技術は妖精族(ほんしょく)にも劣らない。細かく正確にと作られたモノを特産にすることで、フロウェルでもそれなりに認められている。

 認められた当初は全く問題がなく、周辺諸領から技術屋を招き研鑽していたのだが、長く住んでいる者が自らの体に疑問を覚えたのが始まりだった。



 ―――体が動かし辛いんですよね


 最初はその一言で、特に誰も気にしていなかった。

 やっと発展できると喜び、これはその疲れの代償で楽になればすぐに和らぐものだと、そう皆が思っていた。

 だから笑って見過ごした。そんなことを考えている暇があったら体を動かせと、その分金が手に入って楽な暮らしができると、技術畑の人間はそう言って体を仕事に打ち込んだ。


 ―――助けて! 父ちゃんがっ!!


 何人も何人も、そう言って駆け込んだ。

 取れない苦痛は働く者に死をもたらした。

 地面に埋めることができないから、とその死体は火にくべられ、骨を安置する場所が早急に建てられた。そして、例年行われる辺境伯本人による納骨場で行われる弔慰の式典で、納骨場を経済面で管理する者が申し出た。


 ―――骨が金属になっているのかも知れません


 正確には金属ではなかったのだが。

 納骨場を管理している者が、奉納された骨を叩き割って中から何かを取り出し袂に仕舞う神父を見てしまったことで発覚する。

 骨などを割って何をしていたのだろうと近付いたその者は、床に広がる白い残骸の中に、光り輝くモノを見つける。光の加減で輝いているように見えたのだが、半透明なモノから向こうが空けて見えるようなものまで見つかり、まずは、と辺境伯に申し出たその者はそれが宝石だと言うことに気が付かなかったが、見せられた辺境伯は息をのんだ。


 ―――遺族への謝罪を申し出なくては………


 最初に出た言葉がそれだったのは、辺境伯本人の物欲の少なさがうかがえる。納骨場そのものは辺境伯直下の者が統括し支えていたが、民衆が祈りをささげているのは教会だ。

 辺境伯はこの金になる骨を秘匿せずに知ら示し、謝罪し、骨の所在を明らかにした。身寄りがある場合は、壊していい場合はそれ相応の金額を渡し、そうでない場合は言ってくれれば手は出さないと告げた。

 そして部下の進言に従って、教会から慰謝料と新しい教会の者をよこして貰い、既に壊されてしまったであろう者へ渡した。

 最初は恐れられていた骨の中で出来た宝石だったが、すでに出回っていた為一時宝石の取り扱いがフロウェル内で怪しくなったが、宝石の輝きに見せられた者がその程度気にしないと公言したのと、教会が死者の魂が宿る神聖なものであると公言したため根が暴落したりなどと言うことは起きなかった。


 ―――そう言えば、この者たち、あの奇病に悩まされた者ばかりではありませんか?


 骨の中から宝石が見つかった者の名前を列挙している時、部下の一人がそう言った。調べてみればその通り。奇病に悩まされながらも成果を上げてきた優秀な者ほど、その骨の中からは大層綺麗な宝石が見つかった。


 「奇病にかかった者は、死後も家族が安心して暮らせるからと仕事に打ち込んだ者もいたし、人間でない何かになるようで嫌だと言って去るものも多かった」


 苦痛はあるがやりがいのある仕事、温かく心を和ませてくれる家族、その二つを天秤に載せることを拒んだ者も多かったが、結局どちらかを選択しなくては生きていけないと、前者は残り、後者は領を出て行った。

 前者は宝石となったが、後者はどうか分からない。

 カッツァシュ伯爵領が嫌煙されていたせいで、領外に行ってしまった元領民の行方を掴むことはできなかったのだ。


 「そして数年前、伯爵位を父上に譲って領地で過ごしていたお爺様がお倒れになられた」


 髪が抜け、手足が固まり、苦しそうに血を吐く姿。

 十中八九奇病であると診断された。


 「どんな魔術でも薬でもお爺様のご病気を治すことはできない」


 もともと奇病を治す試みもされていたのだ。

 治ってしまったら宝石が売れなくなるかもしれないと断る者も多かったが、少しでも家族と共に過ごしたいから協力するという者も多かった。

 しかし、苦痛を和らげても、奇病そのものは治らず、何をしても死期までの期限に変わりはなかった。


 「お爺様は諦めてらっしゃる。ボクも奇病が治るとは思っていない。けれど、あの苦痛に満ちたお爺様の表情は見ていられなかった」


 髪が抜け生えない。昨日まで動いていた指が手が腕が動かなくなる。息をすれば苦しみがやって来て、咳をすれば血が空気と共に吐き出され痛みが体中に蔓延する。

 人目を気にしていつも笑顔で過ごしている祖父が、他人が居ない時に見せる苦痛の表情が今でもエアの瞳に焼き付いている。

 もともと騎士である祖父がなかなかに死ねないのはその体の頑丈さのせいである。教会が定めている教義の中に自ら死に身を投じる者は神の御許へと行くことが許されないと定められている。戦士であろうと、生きている限りは最後まで生を望み足掻くべしと言われているのだ。自らが望んで死を選ぶなど、教会の信徒である祖父も家族のだれも考えもしなかった。


 「だが、一つだけ方法があるんだ」


 祖父にエアが死を仄めかす発言したのは一度や二度ではない。

 殴られようと罵られようと、教会から異端に掛けられる寸前まで行こうとも、エアは祖父に安らかな死を迎えてほしかった。苦痛に歪んだ顔で固まって欲しくなかった。

 それから成人し、兄に願い出てエアは国外でその方法を探す。

 見つかったのは治す方法などないと言うこと、その苦痛を和らげる方法がないわけでもないと言うこと。


 「一般には公開されていない魔法薬。来年、聖戦が終わってから四度目になる武闘大会が開かれ、本部予選に出場した者は小指程の瓶だがその魔法薬が配られる」


 魔法薬の調合に関しては、過去の資料からある薬屋が見つけたとのこと。まるで魔法のように体を治すその薬は、王族であろうと薬瓶一本分しか置いては置けないほど高価な材料を扱い、今回配られる小指程度の瓶の内容量でさえ、怪我を完全に完治させてしまうと言う回復力を誇っている。

 その効能については、帝王陛下が保障している。


 「それを薄めて死ぬまで飲ませていれば、痛みは取れると思うんだ」


 ただし、すでに体が動かせなくなっている者や、回復系の薬や魔術をかけても何の変化もないような病や怪我には効かない。効かないがその痛みを取ることは出来るとのことも通達されている。


 「そして、ボクは貴族だ。それも元騎士爵を持っていた辺境伯爵の。ボクの推薦者は地方予選を飛ばして本部予選に出場する権利が与えられている」


 つまりは。


 「本部予選にいきなり出せてやるから、魔法薬を貰う。それがボクが出せる交換条件」

 「おわり?」

 「うん。それで多分帝国ではすでに選ばれているようだから、最期の手段としてこの街で、ね」


 苦笑い。

 まだその眼はまだ諦めに屈していない。


 「考えてみても、いいよ」


 シノの無感情な瞳はまっすぐエアを捉え、もたらされた希望に喜びに静かに泣き笑うエアを見ていた。

エアさんはアルテと同い年。

ちょっとばかり重たい話でしたー。

基本重たい話ばかりだから思いと感じない不思議。


貴族だから上から目線。

「武闘大会の本部予選に出場する」と言う名誉と

「ほぼ全ての怪我を消す魔法薬」と言う現物とを同価値と判断するのがまだまだ交渉を持ちかけるには甘い。シノが少女だから話したのだろうが。

ってかなんでこうなった。


また次回お会いしましょう!

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